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あたしの敗け

 暫くの(のち)




 あかりの捜索にも使われたことのある、属性研の大会議室。

 今日、ここに集められた記者たちは長机に座る海明に次々と質問を浴びせていた。

「本当に可能なんですか、こんな治療が」

 懐疑的な男の声。周囲の記者が同調する。




 人体のデータベース化、と言う概念からして理解できないという顔つきだった。増してや、それを調整することで人を癒せるなど。





「大丈夫です。本日からこのシステムを導入した病院を後ほどご紹介いたしますわ。そちらに行けばお分かりいただけます」






 自信たっぷりな海明の顔。PTSパラメーターチューニングシステムがようやく日の目を見た今日、長年の研究の成果をついに世間に公表できたことで彼女は晴れがましい目鼻だった。





「凄いねぇノンの奴。あんなに堂々としてさ」

 個室でテレビを見ていたティアは感心したような声を出す。ワイドショーがこの記者会見を放送している。







「ティアも出ればよかったのに」

 あかりは不満そうだ。






「いやいや。あたしなんてとてもとても」

 あんな風に堂々とは出来ないよ、とティア。






「それにさ、あの場にいるべきはノンだけでいいよ。あたしは裏方の方が気楽、気楽」






 ――ティアらしい。



 あかりがティアを目覚めさせた、あの日。

 海明によればあかりがティアのパラメーターに侵入し、共に目を覚ますまでものの数秒だったようだ。




 二人とも何一つその時のことを覚えていなかった。




 後日、あかりのスカートのポケットに入っていたホログラム投影機(ドライバー)のマイクロSDカードに、五テラにもなる膨大なデータが保存されていたことが判明した。




 研究所総出で解析したところ、それはアーガス(あの男)のパラメーターデータだった。





 恐らくはあかりがアーガスのパラメーターだけを分離してそこに移したようだったが、当のあかりにはその記憶はなく、ティアも状況からそう推察するのみだった。





 男のデータは一先ずスタンドアロンな研究所のサーバーにアップロードれ厳重な監視下に置かれることになった。いずれ、彼が持ち込んだという大量破壊兵器の所在を聞き出さなくてはならない。


 ――アーガス、話してくれるかな。


 不安はある。

「あの人、どうするの?」

 あかりの問い。

 以心伝心だね、とティアは内心で苦笑する。


「えっと。対話用のOSオペレーティングシステム組んで、取り敢えず話をするよ。あんな奴でもいちおう親戚だし、あたしが面倒見なきゃね」


 彼と話をしなくてはならない。そうすべきだと思う。

 ティアの心は、それを決定事項としているようだった。


「そっか、そうだね――あ、会見終わるよ」




 モニター越し、ひときわ明るく炊かれるフラッシュ。

 海明が会議室を後にする。

 映像がスタジオに返され、戸惑った面持ちの司会者が映り、彼は取り繕うように解説者に向けて話し始める。




「コンピューター、テレビ消して」


 ふ、とモニターが暗くなる。


 ティアは両手を組み合わせ、重力に逆らうように大きな伸びをした。



「ああ、やっと、晴臣との約束を果たせたよ」

 感慨深そうだ。





「今度のお墓参りで報告しなきゃね」

 あかりの言葉に、赤髪の異世界人は深く頷く。










 遠い昔。

 父親の弟だったアーガスとは色々な話をした。

 その対話は今でもティアの中で息付いているし、時に彼女を懐かしい気持ちにさせる。



 反面、あの男は人殺しだ。実験と称して大量に人を殺め、省みない。



 どちらが本当の叔父なのか。

 或いは、どちらも。







 今やアーガスはただのデータだ。

 それでも対話を諦めてはいけないとティアは思う。

 あいつに自分のしたことに向き合わせ、償いをさせる。





 ――あいつを消去するのは簡単だ。でも、それはあたしの敗け。




「さ、お昼に行こうぜ、あかり」



 ――今度こそ付き合うよモズモ。時間なら無限にあるからさ。




 ティアはあかりのルビー色の髪をわしゃわしゃとする。




「あ、こら」

 あかりは一睨みして、ティアの髪を同じ状態にする。





「ちょい、力をそんな下らないことに使うなって」

 いつも言ってるでしょ――。







 親子のような二人は笑い合い、軽やかに部屋を出て行った。

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