決まってるじゃん
あかりはキューブを両手で捧げ持ちふうっと息を吹きかけた。
青い立方体は角からほろほろと崩れ、小さな粒子となって少女の手の動きに合わせて舞い上がり、どこかへと消えて行った。
「あいつのパラメーター、ティアから分離したよ。取り敢えず手近なストレージに転送しておいたから」
振り返ってにこやかに笑う。無機質な何もない白い部屋で、彼女の見事な赤髪がまるで炎のようだった。
ティアは戸惑いと驚きと、そのほか説明の付かない感情でおかしな表情になっていた。アイスクリームの天ぷらを食べたような顔だ。
「待って待って。あたしの理解が全く追いついていないんだけど」
これから長い時間を叔父と過ごす。半ば覚悟を決めていた。
その義務がいきなりなくなって、逆に拍子抜けするほどだ。
あかりの方は満面の笑みで、こう出来たことをあまり疑っていないようだった。
「気にしない気にしない。実は私も自分でびっくりしてるんだけどさ、信じられないことに何もかもうまくいったんだよ!」
両腕のガッツポーズ。
ティアの脳裏にはアーガスの姿。
――うまく、いったのか。
彼と対話をしたいと思った、その気持ちに嘘はない。
――もう、それは出来なくなってしまったのか。
ティアの心情を読みとったようにあかりが続けた。
「大丈夫、あの人は死んでないよ。言ったでしょ? 手近なストレージにアップロードした、って」
赤髪の少女は同じく赤い髪をした女の手を取った。
――こうしていると何だか親子みたいだ。
関係ないことを考えた。
「じゃあ、私は帰るね」
あかりはティアから離れ、少し距離を取る。
「私が出て行ったら、ティアは目を覚ますから」
今はあかりとパラメーター融合の状態なのだとティアは気付く。そう言うことならと気付かれぬよう、網膜の裏で少女のパラメーターを閲覧してみる。
――ああ。
ざっと見ただけだから詳しくは言えない。
でも、分かった。
――あかり、あなたは本当に。
あたしと同じになったんだね。
それがあかりにとって良いことなのか、そもそもあかりがどう思っているのか、ティアは言い出しにくい疑問を抱えてしまう。死んでいたあかりを強引に生き返らせ、何の了解も得ずに遺伝子まで揃えてしまった。
それは、あなたにとって――。
「いいに決まってるよ」
呟く声。
「いいに決まってるじゃん」
自分の迂闊さにティアは笑ってしまう。
そうだった。
パラメーターの融合中に隠し事など出来ないんだ。
「うん、分かった」
二人は互いに目線を交わし、どちらからともなくにこりとした。
「早く起きてね。海明さん、待ってるから」
ティアは頷く。
――あいつにも散々心配をかけてしまった。
目覚めた時に海明に散々に説教されるだろうことを予想してうんざりする。が、それも悪くない。
「後でね、ティア」
「うん。ありがとう――あかり」
少女は目を閉じた。
最初にこの空間に来た時と逆の手順をイメージする。
意識のリンクを現実に付け替える。
回路の配線を繋ぎ換えるように大胆に、一瞬で。
あかりは自らの手から溢れ出した光に包まれ、真っ白な世界に溶けて行った。




