ありがとう
「あら?」
治療室に海明が入ってくる。
「お、どうしたの海明」
先に仮眠に行ってから、まだ二時間と経っていなかった。
「いや、眠れなかったのよ」
彼女は手に缶コーヒーを持っていた。
「……自分だけ?」
「飲みたければ自販機で買いなさいよ」
缶を開けて一口飲む。
「いや、いらんけど……」
ティアは自分の隣に椅子をもう一脚置いて海明に勧める。
「で、どうなのあかりは」
「うん。傷は全部治したし、いいんじゃないでしょうか」
「そうじゃなくて」缶コーヒーでティアの頭を小突く。
「ちゃんと仲直りしたの? あなたたち」
「……ええまあ、何とか」
自信なさそうなティアに、海明はあからさまな溜め息を漏らした。
「何よそれ。本当にあなたたちは世話の焼ける」
「いいでしょ、もう仲直りしたんだから」
頬を膨らませる。子供のようだ。
「ならいいけど。この前、お店であかりと化粧品を見ていた時に」
唐突に海明が話題を変えた。
「あかりが言っていたのよ、ティアは何も話してくれないけど、本当に私は大事にされているのかな、って」
海明のコーヒー缶を取ると、ティアは残りを飲み干す。
「あ、こら」
「何も話さない――か。そうなるんだよね」
空き缶を手の中で転がす。
「そうね。そうなるわね」
「あかりを不安にさせたのかぁ」
頭を掻いて、短く嘆息。少し前のめりになって、俯いた。
「ティオは何を怖がっているの?」
「うん? ……ああ」
首だけ海明の方に向けた。
「ノンはさ、あかりが三十年ぶりに目覚めた理由は何だと思う?」
「今さら奇跡だとか偶然だとかを信じているかってこと? 残念ながらノーよ。当然あなたが何らかの形で関わっていると思っているわ。ただ私は、その理由を知りたいか知りたくないかと訊かれれば、どっちでも良いというだけよ」
「そっか……ありがとね」
「私にはどっちでもいいけど、あかりにはちゃんと話しなさいよ。あなたがとても大事に思っているのは知っているけど、それは多分、言葉にしないと伝わらないと思う。何も言わないことが、あの娘を不安にさせたんだと自覚した方がいいわよ」
「う、反省してます」
「でね、私、言ったのよ。きちんと話、させるわって――化粧品売場で、あかりに。全部諸々、ティオにきっちり話をさせる、って」
海明はティアの顔を覗き込むように近付いた。
「いい? ティオ――私には何も言わなくても良い。あなたを今更そんなことで困らせたりしないわ。でもあかりは――不安なのよ。あなたを信じることに不安を覚えている」
海明はティアの手に自分のそれを添える。
「だから、分かったわね? いい?」
ティアは頷く。
「うん。きっちり、話をするよ」
「ええ、そうしなさい」
海明の手を握り返して、ティアは彼女に身体を預ける。
二人の目の前では、ベッドに横たわった少女が、気持ちよさそうに眠っている。この娘に、もう隠し事はなしだ。
――ありがとう、海明。
温かな彼女の手が、ティアの心に沁みた。




