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仲直り

 ティアと海明はその日のうちに属性研に戻ると、運び込まれたあかりをPTSパラメーターチューニングシステムで治療する事になった。




 と言うのも、病院での検査と応急処置の結果、骨折や内臓の損傷が多数確認されており、通常の治療では時間がかかりすぎるという判断からだった。


 幸いにも致命傷はなく、パラメーターチューニングによってすぐさま完治させることが出来た。





 あかりを研究室の治療ベッドの上で一晩様子を見ることになった。



 ティアと海明が交代で付き添う。





 ティアは、治療ベッドの横に椅子を持ち込んであかりの寝顔を見ていた。


 顔にあった切り傷や擦り傷も残らず修復済みだ。



 ――みんな、ちゃんと家に帰ったかな。

 病院から一緒に来た藤野はあかりの治療が成功したと聞いてひとまず安心したのか――それでも付き添うと言っていたが――屋敷に帰った。





 笹崎はあかりの無事を確認後はティア、海明を(ねぎら)うと帰宅した。



 晴子は病院での様子をティアに逐一報告し、家に帰ったようだ。




 ――みんな、ありがとうね。

 今回、自分一人では何もできないことを痛感した。



 監禁場所も一人では見つけられなかったし、あの男も単独では無力化できなかっただろう。





 ひとまず病院に収容された犯人は先ほど意識を取り戻したらしい。男は周囲への反応に乏しく、ひたすらあかりへの憎悪の言葉を繰り返しているようだ。





 その、支離滅裂さ。




 ティアには何となく予想がついている。明日こっちに回してもらい、検査してみるが恐らく――身体のパラメーターがいじられているのだろうと思っている。






 自分以外にそんなことが出来るのは長年捜し続けている、同じ異世界人であるアーガスしかいない。そもそも、PTSはティアのもと居た世界では当たり前の技術だ。天才科学者である彼なら、造作なくやってのけるだろう。



 ――それにしても、アーガスか。


 今までに彼を幾度となく追い詰め、そのたびに逃げられ、諦めず追い続けて、今になってどういう訳か向こうから姿を現しつつあるようだった。





 ――けりを付けなくては。

 もう元の世界に帰ることは諦めた。ティアはただ、自分がこの世界に来ることになった原因であるアーガスとの決着をつけることだけを望んでいる。





「ん……」寝息が乱れて、あかりが目を覚ました。



「おお。起きたか」

「……うん」

 目を擦る。

 ここ、どこ、と問うあかりに、研究所であることと、現在までの状況を手短に伝えた。




「あかりが無事で本当に良かったよ。でさ、全部治したつもりなんだけど、何処かまだ痛いところ、あったりする?」




「ない。完璧」少女は首を振って笑う。




「そっか。あかり、あのね――」


 ティアの言葉を遮って。




「私の方こそごめんね、変に意地張っちゃって。ティアが何者だとかそんなこと、本当はどうでも良かったのに」




「あかり? あたし、まだ何も言ってない」

「でもそういうこと言おうとしたんでしょ、ティア」

「うん、まあそうね」

 笑い合う。



「ねえティア。あの時さ、私、良く覚えていないんだけど」

 身構える。あの時、とはあかりが力を使って男を吹き飛ばした時だろう。





「誰があいつを倒したの」

「あ、あたしあたし。背後から高出力のスタンガンで」

「……無茶して。それでうまく行かなかったらどうするつもりだったの? ん? て言うか、ドアは開いてたの?」




「破った」

「ええええ」

 ティアの嘘を疑わず、心底驚いているようだった。心が痛むが本当のことを話した時のあかりの反応が読めなくて、言い出し兼ねた。





「そうだ……ティア。私ね、思い出したんだ」

「何を?」

 あかりはベッドからティアの顔を見上げていた。暫く間があいた後、ゆっくりと絞り出すように言った。





「私って昔、あいつの車に轢かれたんでしょ」



「……うん」

「あいつの目、ガラス玉みたいだった。まるで私の方が悪くて、自分は何も悪くないって決めつけてて。怖い……目だった」




 何も言えず、ただあかりの声を聞く。




「怖かった、物凄く怖かった。でも、同じくらいこんな奴の為に死ぬのは嫌だ、って思った。そうしたら何だか力が湧いてきて、気がついたらティアが助けに来てくれてた」



 破顔した。


「うん」

「やっぱティアは凄いね」

「ふふふ。そうかもね」

 ベッドから手を伸ばし、覗き込むティアの頬に触れた。温もりを交換しようとでもするように、ゆっくりと撫でる。





「手、冷たいよね、あかりは」ティアはあかりの手に自分の手を重ねた。




「ティアだって冷たいじゃん」

「そうかな」

「そうだよ……ティアってさ、不思議だよね。他人のような気がしないんだよ……お母さんとか、お姉さんとか、そんな、感じ……」





 言葉が変に間延びしてきたのは眠い所為だろう。




 果たして、あかりは手を降ろす。

「ごめん、ティア……少し、寝るね……」





 やがて、規則正しい寝息を立て始めた。

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