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魔法

 属性研の会議室。


 ティアの眼に焦りが浮かんでいる。



 刻々と上がってくるドローンからのフィードを皆で処理していく。



 海明が手の空いている所員全員に声をかけたため、いつしか研究所全体でのあかり探しとなっていた。





 怪しげなマンションの一室や、民家、廃工場、空き家、あらゆる場所を黒いドローン(カラス)は映し出すが、あかりの姿は一向に発見できなかった。


 ――或いは。

 ティアは会議室の壁際で腕を組み、思案を巡らせている。

 或いは、あかりはどこかに監禁されていると言った状況になく、何らかの事故に巻き込まれ、発見しづらい場所で動けなくなっているのかも知れない。



 ――だとしたら、今の捜し方では見つけられない。


 


「ティアさん……」晴子が心配そうな声を出す。

「うん。ねえ笹崎君、防犯カメラの方はどう?」

 他の所員に手伝って貰っていることで手が空いたため、笹崎、藤野は防犯カメラのチェックをしている。






「見つからないです。調査範囲が狭いのかも」



 それを聞き、更に考え込む。 

 ――どうする? カラスの探査プログラムを変えるか?






 部屋に飛び込んできた所員が、ティアの想念を破った。




「副所長! ちょっと来て下さい!」




 ティアは所員が集まっている別の部屋に入る。



 普段は開発室として使用されている部屋で、今は所員全員でドローンの映像を追っている。






「どこ、どこ?」

「ここです、これ……」

 モニターの前で所員が示したのはとある民家の二階だった。





 窓が閉め切られ、電気も消えているようだ。

 サーモグラフの映像には髪の長い不自然な態勢の人間と、立って歩き回っている人間が映っていた。





 不自然な態勢――両手両足を前方に投げ出して横たわっている。倒れている人物は微動だにしない。なるほど何らかの拘束が疑われる映像だった。






 ――あかりなの?

 迷う。断定し、踏み込んで間違いだった場合やり直す時間はない。彼女だと言う確証が欲しかった。





 何かないか――注意深く画面を見つめる。横たわっている人間が身体を揺すり、手の部分がサーモグラフに映り込んだ。そこだけひどく温度が低いのか、真っ青な表示。




 ――ああ、その手は。


 ティアは手をのばし、映像に触れた。

 そこに居たんだね。ごめんね、時間、かかっちゃったよ。



 ティアは気合いを入れるように大きく頷く。

「うん、たぶん間違いない。ありがとう、よくやってくれたね」



 振り返って背後に居た海明を見る。


「見つかったよ! この住所を通報して!」

「ええ、分かったわ」

 急がないとまずい。ティアにはその確信があった。


  

「副所長! どこに行くんですか」

「ちょっと準備があるから! 先に向かって!」

「は、はい!」と笹崎。






 開発室を出て自室に戻る。

 あかりが拘束されている可能性を考慮して、部屋に置いてあった工具箱を手に取る。机の引き出しから小さなポーチも取り出す。ポーチは何十年と経過しているはずなのに、新品同然だった。





 ――何年振りかな……?

 取り出したのは水筒。振って中身を確認する。

 弱い手応え。魔力の溶け込んでいる水は、もうほんの少ししか残っていない。



 栓をあける。強めに一口、続けてもう一口。


 水筒をポーチにしまう。ズボンのポケットに入れた。




 先ほど確認したドローンの住所を思い出す。



 街の地図を頭の中で重ね合わせ、それが何処かを瞬時に割り出す。




 付近に駅が作られるとの計画に基づいて宅地が多数造成されたものの、計画は頓挫しそのまま寂れてしまった地域がある。その場所に建つ一軒の空き家。さっきのドローンの映像はその二階を捉えたものだった。







 ――よし。

 ティアは目を開き、閉じる。両手を身体の前で組み合わせる。先ほどの地図のイメージを思い浮かべる。





 克明に、詳細に、鮮明に、精緻に、精解に。あたかも目の前にあるように。あたかもその場所にいるように。







 目を開く。僅かに青味がかった光が瞳に射していた。





 ――転移!






 ティアの身体が光り、消える。

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