あかりを捜して
あかりの通う大学近く。
待ち合わせ場所の喫茶店に入ると晴子は落ち着かなげにマグカップを手にしていた。もう五月だというのに、肌寒い所為か店内ではホット系の飲料がよく飲まれているようだ。コーヒーや紅茶の香りが漂っている。
ティア、海明、笹崎の三人は晴子を見つけてテーブルに座る。笹崎は手が足りないと困ると思った海明が呼び出した。
「すずみん、ごめんね。急に呼び出して」
「いえ、大丈夫です」
「駄目ね。やっぱり電話に出ないわ」海明がスマホをテーブルに投げる。
「取り敢えず全員ホットで良い?」
「あ、ティア。私はホットミルクティーにしてくれるかしら」
ティアがオーダーロボットにまとめて注文を入れる。
そのまま落ち着くのも惜しいように話を始めた。
「それで、すずみん。あかりを最後に見たのはどこ?」
晴子は下唇を舐めて記憶を辿る。
「今日は午前中講義があって、あかりと一緒に出席したんです。その後は別々の講義で、お昼には大学の食堂で一緒にご飯を食べました」
「うん。それから?」
「それだけです」
「あかりとはどこまで一緒だった?」
「えーと。大学を出て、地下鉄の駅の入り口まで、ですかね」
「了解」ティアはスマホを取り出すと、何処かへ電話をかける。
「……あ、あたしあたし。ちょっとお願いがあるんですけど、いいですかね」
電話に出た相手は友達だろうか、ずいぶん気さくな感じだった。
「あのですね、実は防犯カメラの映像を準備して欲しいんですよ。場所は――」
ティアはこの街一帯の住所を告げる。
「ええ。一式お願いします。付近の防犯カメラの映像を、ええ、全部」
話し終え電話を切る。
「……今のは?」
「ええとね。とあるお友達で、あらゆる防犯カメラの映像を集めている人」
「ほほう」と海明が睨む。
「でもオフラインの防犯カメラもありますよね」と笹崎。
ティアはにっこりする。
「その辺は色々と、ね。ま、やりようはあるんだよ」
ロボットが全員の飲み物を持ってきた。笹崎が配る。
ティアのスマホが鳴る。さっきの友人からのようだ。
「いつも早いね。ありがと」
ティアは持って来ていた鞄からノートパソコンを取り出すと電源を入れる。
「笹崎君も準備して」
海明の指示でノートパソコンを取り出す。
「よし。じゃあクラウドのアドレスを送るから、片っ端から開いて映像を確認していって」
笹崎と海明のペアで、送られてきた防犯カメラの映像を確認していく。
「こっちも見るよ。すずみんお願いね」
「はい」
四人は運ばれてきた飲み物に手もつけず、映像の中にあかりを探す。
「いたいた。地下鉄の駅」
「うん。すずみんも映ってるね」
ティアが指した映像にはさっき晴子が証言した通り、地下鉄の駅で別れる晴子とあかりが映っていた。
「ここから……」ティアが映像を切り替えると、地下鉄の構内の映像になりあかりが電車に乗り込むまでが確認できた。
「こっちも見つけたわよ」
海明がモニターをティアに向ける。タイムコードを見るとさっき見つけた映像の続きだった。あかりがいつもの最寄り駅から出てくるところだ。数秒で終了になる映像。
「そうか。車内映像もあるか」
「ありました。車内映像」
笹崎が示した動画には上からの車内が映っていた。どうやら車両ごとに設置されている防犯カメラらしかった。
「これ、よく見つけたね」
ティアが感心したように言う。映像は距離がある上に不確かで、殆ど頭頂と鼻筋しか見えていなかった。あかりは座席に腰を下ろしてスマホをいじっているようだった。防犯カメラにはスマホの画面も辛うじて映っているが何が表示されているかまでは判別できない。
「ちょい待って」
笹崎からノートパソコンを受け取るとティアは何かのアプリを立ち上げた。
「拡大して、画像を解析する……と……」
さっきのあかりの画像からスマホの画面だけを切り出して、拡大する。
「うーん。このPCだとこれが限界。それにしてもこれ、何だろ」
「真っ白い画面に何かの文字列ね……」
「あっ」
晴子が声を上げる。
「メールじゃないですか?」
「なるほど。誰かこの中でメールを受け取った? または、送った?」
反応はない。
ティアは電話をかける。
「……あ、藤野さん? お久しぶり、ティアです。ちょっと聞きたいことあるんですけど、今日あかりからメールを受け取りました? あ、受け取ってない? 送ってもいない? そうですか。じゃあまた」早々に電話を切る。
「しゃあない。あとで研究所で解析するか」
「そうね。続けましょうか」
再び四人であかり捜しに戻る。が、それ以上の映像はどうやっても見つからなかった。
「さっきの、駅から出てくる映像が今のところ最後ね」
「うーん。そんなはずは」
「出てきたばかりですもんね、駅から」
「そうなんだよね。防カメの死角に入ったにしても見えなくなるのが早すぎる」
「タイムコードを頼りにしたらどうでしょうか」笹崎の提案に、ティアが頷く。
「ということは、さっきの続きを探しましょう、と」
呟くように言って、動画ファイルを次々に開いては閉じていき、タイムコードが先程の映像より後のファイルを探していく。
「……見当たらない。海明、そっちは?」
「こっちにもないわね」
「どういうこと、これは」
駅から出てくるところは防犯カメラが捉えているのに、防犯カメラが切り替わった後、あかりは忽然と消えている。どこにも記録が残っていない。
「うーん。これは……ここじゃあ限界があるなぁ」呟いてティアが立ち上がる。
「みんなでいったん研究室に戻ろう。すずみんもいいかな」
「はい、大丈夫です」
「海明、悪いけど藤野さんも呼び出して。手伝って貰おう」
海明がスマホを取り出す。
「よし、じゃあ行こうか」
ノートパソコンを撤収すると、全員で店を出る。




