長い間
翌朝。
朝食を食べ終わった頃を見計らって、ティアが訪ねてきた。
「あかりさん。気分はどうですか」
笑顔でベッドサイドに椅子を置く。
「良くないです……ティアさん」
半身を起こしていたあかりは、唇を噛んでいた。少し間を置いて、口を開く。
「……私、どのくらいここにいるんですか?」
この質問から始めないと先に進めない。
ティアはさほど意外でもない顔で微笑むと、あかりの両肩に手を置いた。
「あかりさん……私は、あなたの身に何が起きたのか、説明することは出来ます。でも、あなたの気持ちを考えると、まだ少し待つべきだとも思っています」
「それは……」
「でも、あなたの気持ちがどうあれ、すぐに気付くことまで言わない、というのは逆にあなたが辛くなってしまうでしょう。だから」
ティアはそこで言葉を切って、自分の膝に手を置き、少女を見つめた。
「だから、これだけはお伝えしておきます」
思わずシーツの端を掴んで身構えた。
「あかりさん――今日は、二〇五二年四月十四日、日曜日です」
何を言われたのか理解できなかった。自分の記憶にある日付と、ティアに言われた日付とのあまりの乖離に引き算を忘れる。言い終わったティアは心配そうにこちらを見返していた。
――三十年?
やっと引き算ができて、驚愕する。
「嘘、ですよね」――それ以外の解釈が思いつかない。
ティアは微笑んだまま、表情も目線も動かさない。それで何となく、嘘などではないと悟ってしまった。
「か、鏡、ありますか?」では自分は四十四歳になったのか。どんな顔になったんだ。
「こんなもので良ければ」
ティアからスマートフォンを渡される。画面には既に鏡アプリが起動されており、そこに映り込んだ顔は、少しやつれてはいるが見慣れた顔。自分が本当はアラフォーなのだと思うと、どこか他人のもののようにも感じられた。
――何だ、何も変わってないじゃんか……。
「ティアさん」スマホを返し、目の前の赤髪の女性に目を向けた。
「私、どこかおかしいですか? どこからどう見ても中学生でしょ?」
「ええ、そう見えますね」
「だ、だっ、たら何でそんなこと言うんですか!」
思わず声を荒らげる。ティアは申し訳なさそうに、あかりの手を取った。
「あかりさん。ごめんなさい。でも、私にはそれしか言えないの。どう言い繕ってみても三十年経っているのは変えられない……」
ティアはあかりの手を取ったまま俯いて肩を震わせる。泣いているようだった。
「ティアさん? な、何で泣くんですか」
泣きたいのはこっちなんだけど、と続けようとして踏みとどまる。
「ごめんなさい……ごめんね……」
謝罪の言葉を繰り返していた。何も言えなくなって、ティアの泣くままにする。
やがて自分も悲しくなってきて、少し泣いた。




