ティアの誕生日
※すみません。一話とばして公開していました。
※このエピソードをお読みになる前に、3話前の「共通試験」を
※どうぞお読み下さい。もう読んだよ! と言う方はこのまま進んで下さい。
二月になった。
ティアの誕生日に何を贈るか、考えているうちに前日になってしまった。
「ティアって、ことし何歳になるんですか?」
『さあ、どうかしらね。毎年、年齢には触れずに祝うから』
「は、はあ、そういうもんですか」
『そうよ、誕生日はそうやって祝うものよ』
土曜日。あかりは自分の部屋で海明と電話で話をしている。
「ティアに何かプレゼントしたいんですけど、何が良いんですかね」
『あら。まあ月並みだけどあかりの贈りたい物でいいんじゃないかしら』
「贈りたい物?』
『あなたが欲しい物、でもあるかしらね』
自分の欲しい物を考える。音楽プレイヤー、速いパソコン、VRゲーム機、新しいスマホ……。
「駄目だよ海明さん。どれもティアが喜ぶとは思えない」
『まあ、それは困ったわね』さほど困ってもいない海明の声。
『でも多分、あかりからの贈り物なら何でも良いはずよ。そうね、じゃあこうしたらどうかしら』
と、海明は自分のプランを告げる。
「の、海明さん、それはちょっと」
提案を聞いたあかりが戸惑うのを気にもとめず、海明は言い切る。
『大丈夫。ティアにはそれでいいのよ』
誕生日当日。家に海明を呼んで、三人で誕生日を祝おうということになった。
昼過ぎに海明がやって来た。
「お招きに預かり、来たわよ。はいこれ」
玄関でティアに青い薔薇の花束を押し付けながら海明が言った。
「おー。ありがとう海明。珍しいね、花束なんて」
「ふふ、ちょっといいでしょう?」
「わあ、青い薔薇だ。これって作るのが大変な奴じゃないんですか」
「ああ。かつてはそうね。でも今は栽培できるから、安くなったのよ」
「おー。そうなんだ」
「ん? なになに」
「青い薔薇よ。昔は遺伝子操作で作っていたけれど、今は栽培しているって言う話」
ふうん、とティアは言って何処からか持ってきた花瓶に薔薇を生けた。
「いいね。ノン、ありがと」
「どういたしまして、ティオ」
二人は互いに少し赤い顔で笑い合う。
「さあ、まずは食べようか。今日の料理はね、だいだいあかりが作ったのよ」
嬉しそうに報告するティア。
「だいたい?」すかさず突っ込む海明。
「えー、野菜とお肉を切りました。味付けと仕上げはティア、です」
言葉に三人で笑った。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様」
食事を食べ終わると、紅茶を飲みながらの談笑となった。
「はい」海明が小さな箱をティアに手渡す。
「誕生日おめでとう」
「おぉ、ありがとう」
開けていい? と言いながら包みを開けるティア。
中から出てきたのは丸いペンダントだった。小さな腕時計くらいのサイズで、中央にレンズと思しきものがついている。
「こ、これは……なに?」どうやらティアも知らないデバイスのようだ。
「それはね。さぁ、あかり?」
「ほ、ほんとに渡さなきゃだめ?」
「今さら何言ってるのかしら。ちゃっ、と渡してしまいなさいな」
「う、うん」
「なになに? なになに?」
妙にテンションの上がってきたティアを横目に、あかりは小さなチップを渡す。
「マイクロSD? お、凄い、これ六テラのやつじゃん」
「ペンダントにスロットがあるでしょ?」
「ん? あーこれか」
ティアはあかりにもらったマイクロSDをペンダントに挿し込む。
「スイッチは、これかな」
ティアはペンダントの横をタップした。小さなレンズから映像が飛び出す。
「お、ホログラムか」
映し出されているのはあかりだった。白い襟付きシャツに白のロングスカート、いつもより身なりがちゃんとしていて、髪も綺麗にまとまっている。非常に高精細なホログラムで耳元のイヤリングまではっきりと見える。
小あかりは一旦フレームアウトするとスツールを持ってきて床に置き、よじ登り、座った。こほん、と咳払い。
『ティ、ティア? お誕生日、おめでとう。きょ、今日は普段言えないことを手紙に書いてきたので、読みたいと思います』小さな、ホログラムのあかりが手紙を取り出す。
『え、えー。いつも私のことを気にかけてくれて、ありがとう。思えばティアに出会ってからは、驚きの連続でした』
ティアはペンダントをテーブルにそっと置く。手紙を読み上げていくあかりを、海明と黙って見つめる。
あかりは時々引っ掛かりながら一生懸命読んでいく。
ティアとの出会い、一緒に住むようになってからの思い出、ホログラムドームに行ったこと。
『最後に、いつもお仕事お疲れ様です。正直ティアが何をやっているのか今は全然だけど、いつかきちんと理解したいと思っています。その時は、一緒に働かせて下さい。改めて、お誕生日おめでとう。これからも宜しくね、ティア』
小さいあかりが手紙を畳む。スツールから降りて、一礼。ホログラムはそこで終了した。
「あかりー!」感極まったのか、ティアがあかりに抱き付いた。
「ありがとねっ。こんなに嬉しいことないよ!」
「ちょ、ちょっ、くるし……のあさん、たすけて」
海明はあかりの目の前でうんうん頷くだけだった。
「ね。あかり、これで良かったでしょ」
「う、うん。そうだね」
あかりは泣きながら、笑った。いつの間にか、ティアも泣いていた。
ペンダント型のホログラム投影機はあかりにはちょっと高額だったため海明が買うことになった。あかりはこれまで研究所に通ったお金を全部つぎ込んで大容量メモリーカードを買い、ホログラムを録画した。
やっと落ち着いてきたのか、ティアはあかりをハグから解放する。
「ありがとね、あかり、ノン。大事にするよ」
ぐすぐす鼻をすすり上げるティア。
「まったく、はいこれ」海明はハンカチを渡す。
「さて、そろそろお開きかしらね」
海明は立ち上がり身支度を始める。
「えー、ノン、もう帰るの? 泊まっていきなよー」
ハンカチで鼻をかむティア。
「また今度ね」
玄関まで海明を送り、リビングに戻る。
どちらからともなくダイニングのテーブルで向かい合わせに座った。
静かになった。夕方近く、物音一つしない。壁に掛けられたアナログ時計の秒針音が聞こえる。
「ねえ、あかり?」
「……うん?」
暫く時間が経ってからティアが口を開いた。
「あのさ、この前の試験の時」
共通学力検査の時だろうか。
「あの時、あたし、あかりに言えなかったことがあるんだよ」
「うん」
「だから今言うね」
「はい」
「あかり……試験、頑張ってね」
ティアはにっこりと微笑んで言った。
「え。それだけ?」
「そう。何でだろう、あの時はどうしても言えなかったんだよ」
「あ、だったら私も言えなかったことある」
「聞こうじゃない」
「あのね、ティア」
「うん」
「試験、頑張ってくるね」
「えええ? あかりも?」
「そう。何でだろう、私も言えなかったんだよ」
二人で顔を見合わせて、くすくすと笑う。お互いが、お互いを気遣った結果。そのために、大事な一言を言えなくなることもあるのだろう。
「やっと言えたよ」
「やっと言えたね」
あかりはティアの顔を改めて眺める。
また一つ距離が縮まった気がした。
ティアもそう思ってくれていたらいいな、と思った。




