共通試験
明けて、二〇五三年。
あかりは年明けの気分が全くないまま――ティアと海明からそれぞれお守りは貰ったが――ひたすら勉強していた。
オンラインで予備校の授業を受けて過去問を解き、不明点は海明やティアに質問――を何度も繰り返す日々だった。
やがて、共通学力検査の初日がやって来た。
テストは二日に渡って行われる。
寒い朝だった。予定よりも早い時間に目が覚めて階下に行くと、ティアが朝食の準備を始めていた。
「おはようあかり。寒いわね」
「うん。えーと」リビングに行くと、いつものタブレットに向かって室温を上げるように言った。
「上げすぎないでよ」
ダイニングに戻って椅子に座り、紅茶をすするあかりにティアが声を掛ける。
「ティアの適温で宜しく」タブレットに大きめの声で付け加えた。
後は、二人とも無言だった。無言で朝食に手をつける。
何かを言えそうで、ちゃんと言葉にならない空気。そんな空気の中で、お互いに掛ける言葉を図りかねていた。やがて食べ終わり、あかりは自分の食器を持って立ち上がる。
がちゃん。
シンクに食器を置く音が引鉄になったように。
「あかり」
「ん?」
「んーいや……何でも――ないや」
ティアは言葉の組み立てを諦めたように、微かに口角を上げた。
「そう? 私も言いたいことあったんだけど」
「うん」
「忘れちゃった」
「何よ、それ」
「ティアだって」
二人見合って、笑う。
「はいこれ、お弁当」
「ありがとう。じゃあ行ってくるね」
あかりは玄関で、ティアに手を振る。
「はい、行ってらっしゃい」
家を出て、無人タクシーに乗る。行き先を告げる。
『頑張ってくださいね』とAIが答えた。場所によっては特別なメッセージが設定されているようだ。
タクシーが試験会場近くで止まる。会場はとある大学だった。
降りると、同じ会場を目指す人々の群れが朝の光に映えて、ある種異様な光景を作り出していた。その群れに加わる。大半の人は年上だ。あかりを見て、あからさまに怪訝な表情をする者までいる。
――言っとくけど、私はあなた達より大人なんだからね。
努めて気にしないようにしながら入口で受け付けを済ませ、受験番号に対応した会場に向かう。
――ここだここだ。
自分の番号の貼ってある席を見つけて腰を下ろす。座面から冷気が上がってくる。思わず身震いした。鞄にぶら下がる二人から貰ったお守りに、軽く触れる。
やがて試験官がやって来る。




