認定試験
認定試験当日。
ようやく朝食の時にティアと顔を合わせた。
「何だか久し振りだな、あかりの顔を見るの」
「私も。ティアってそんな顔だったっけ」
「そうだよ? ずっとこの顔です。あかりこそちょっと痩せたんじゃない? 大丈夫?」
あかりは頷きを返す。
「海明さんは元気?」
「元気だよ。昨日も研究所に泊まり込んだって言ってたけど、見た感じはそんなにひどくなかった」
思わず顔をしかめる。所長と副所長がそんなにしゃかりきになって働かなくてはならないのか、と思うと切なくなる。
「あれ。あかり、それ」
「えへへ」照れ笑いの耳元に、雪の結晶が光っていた。
「いいね。似合ってるよ。やっぱそれにして良かった」
「うん。ありがとね。海明さんにもお礼言わなきゃ」
「言ってあげて言ってあげて。きっと泣くわよ彼女」
「それは大げさだよ」
「ふ。それはどうかな」
ティアから紅茶を受け取って、テーブルに置いていく。
後はいつものハムエッグ、パン。
「まだまだ忙しいの?」
「うーん。だいたい今週いっぱいかな。今日が水曜日だから後三日かな。それを過ぎればたぶん普段の仕事量に戻ると思う。とは言えあかりの見識を広める活動もそろそろ始めないとだし」
「ああ。何か思いついたんだ?」
「うん。いま交渉中」
「へえ……」
朝食を食べて、二人で家を出た。
今日、あかりは朝から試験会場なので、研究所からの送迎車にはティアだけが乗る。
「じゃあ行ってくるね」
車の窓を開けたティアに、のぞき込んであかりは声をかける。
「うん。ねえ、あかり?」
「ん?」
「……頑張ってね」
「任せといて」
二人で笑って、別れる。
初日を無難にこなし、二日目も終了。
長丁場を終え、へとへとになった頭を抱えて会場から出ると海明が待っていた。
「あれ、海明さん。どうして?」
「ちょっと息抜きにね。あかりの顔を見に来たわ」
今週が佳境だと言っていたティアの言葉を思い出す。
無理矢理時間を作ってきてくれたのは明らかだった。
「お疲れさま」
「ひゃっ」海明が抱きしめる。
「本当に、よく頑張ったわ……」
「海明さんも、お仕事忙しいのにありがとう」
「いいわね。これ」海明があかりの髪の毛を少し掻き上げる。
「そう。これもありがとね」
「いいのよ。とてもよく似合っているわ」
あかりを解放して、顔をのぞき込む。その目に微かに光るものがあって、ティアの読みの鋭さに驚く。
「さて、じゃあ行きましょうか」
さすがに家に帰って風呂にでも入ろうと考えていたあかりは目をぱちくりとする。
「え。どこへ?」
「もちろん内緒よ。じゃあ行きましょう」
強引にあかりの手を引いて、海明は歩き出す。その方向を見ると、既にタクシーが止まっていて、準備されていたことが伺えた。
「ちょ、ちょっと、海明さん?」
「いいからいいから、大丈夫よ」
何が大丈夫なのか。抵抗もできず車に乗せられる。
「じゃあ行ってらっしゃい――私も行きたかったわ」
意外にも海明は同乗せず、あかりが状況を把握するよりも早くタクシーが発車した。
「ええっ。の、海明さん!」
もう遠ざかり始めている海明に窓から身を乗り出して叫ぶ。車は止まらず、そのままどこかへと走り始める。
「もう。マジか……」諦めてシートに深く座った。
タクシーは郊外に出るようだった。
一時間ほど走って、何かの施設の前で静かに停車するタクシー。
辺りはすっかり夜になっていた。
既に料金は払われていたらしく、そのまま降車する。
――ここどこ。
どうやら何かの建物の前だ。
照明が一切ない。適当な場所に立ってみる。
中から誰かが出て来るようだった。照明が灯り、ガラスに影が出来る。
「ティア!」思わず駆け寄る。
「よしよし。ちゃんと来たね。ごめんね、海明は仕事でさ。あたしも後で戻んなきゃ。ここ、今日やっと借りられたから、勿体なくてさ」
「いや、それは良いんだけど……ここは、何?」
「入って入って」
「ちょっと、ティア!」肩を抱かれ、強引に連れて行かれる。




