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Take On Me   作者: マン太


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21/42

21.その後

 水に濡れた床に横になったまま、ほっとひと息つく。取り敢えずの危険は去ったのだ。

 そう思った途端、銃身で殴られた側頭部が、痛みを主張し出した。

 

 あー、ズキズキする…。ちょっとは加減しろってんだ。


 背中を殴られたせいで呼吸も苦しい。


大和(やまと)、大丈夫か?」


 (たける)が自身の怪我も顧みず、俺の側に片膝をついて覗き込んでくる。溜まった水が膝を濡らした。


「岳、こそ…」


 左の肩口に血が滲んでいる。どう見積もっても痛そうなのだが。


「掠った程度だ。大した事はない。それより目眩はないか? 横になっていたほうがいい」


 身体を起こそうとすると、寝ているように言われた。側頭部の傷口にすぐにタオルが当てられる。(きよし)が横から引き取って。


「背中も殴られてな。今は息もするのがやっとだろう」


 その通りだった。


 っとに、あいつ。今度は絶対、のしてやる。


「大和、少し動かすぞ」

 

 岳は俺を濡れた床から抱き上げると、潔が空けたベッドへと寝かしつけてくれた。


「ベッド、濡れる…」


「そんなこと気にすんな」


 岳の手がそっと額を撫で、水と血で濡れた髪をかき分ける。岳の手の温もりが心地良かった。


「…岳も、親父(おやじ)さんも。無事で良かった…」


 心から安堵する。目を閉じてそう漏らすと、岳が笑った気配。


「俺はお前が無事で良かったと思ってるよ…」


 額を撫でていた手が止まって、髪をくしゃりとかき上げた。

 潔は少し離れた所から、そんな俺たちを黙って見つめていた。


 その後、すぐに医師らが駆けつけ、岳と共に適切な処置を受け大事に至らずにすんだ。

 岳の傷は確かに掠った程度ではあったが、それでも深かった様で、岳の言うような軽い怪我ではなかったらしい。

 俺は処置を終えると、そのまま真琴(まこと)とともに帰途に就く。


「岳は? 帰らないのか?」


 俺の問いに岳は少し疲れた様に、口の端にだけ笑みを浮かべると。


「俺は親父と話がある。先に真琴と帰っていてくれ」


「分かった…」


 こちらに背を向けた岳に、俺はいつもと違う何かを感じた気がした。


+++


「災難だったな」


 運転席の真琴は助手席に座った俺に、労わりの眼差しを向けてきた。俺は首をふると。


「俺はいい。けど岳の親父さんは狙われて、岳は撃たれた。あいつ、ぶん殴ってやりたかった…。真琴さんは下で何があったんだ?」


「ああ。駐車場で楠の弟の部下に囲まれてな。ひと悶着あったんだ。岳が来て難を逃れたが、襲ったにしてはすぐに引いた。これは囮だとすぐに踵を返したが、危ない所だった…」


 ハンドルを握った真琴はため息をつく。


「大和には危険な目ばかりあわせてしまって。申し訳ない」


「いいって。俺はそういうの込みで家政婦やってるし。だから藤にも教わってんだ。それが役にたって良かったって思ってる。あいつ、藤より全然、隙だらけだったし」


 でなければ、今頃、病室でこの世とおさらばしていた所だっただろう。藤にも感謝だ。

 真琴は不意に真剣な眼差しになると。


「君は…強いんだな」


 俺はその言葉に肩をすくめて見せると。


「それ、岳にも前に言われた。けど強いって言うのか? 単なる向こう見ずとも──」


 真琴は首を振って笑う。


「前を向く強さだな。立ち向かう所がね」


「そっかなぁ。ただの喧嘩好きなのかもな? 俺って」


 同じく笑って肩をすくめると、みしりと背中が痛んだ。


「っ!」


 幸い打撲ですんだが。


 あいつ思いっきり殴りつけやがって。


 殴られた側頭部には包帯が巻かれ、背中は湿布だらけ。まだ頬には白いテープが張られている。


「俺、そのうちミイラみたくなるかも…」


 するとくっくとハンドルを握ったまま真琴が笑い出す。


「それは可愛いミイラが出来あがりそうだな?」


「可愛いって、真琴さんまで言う? ったく。ひでぇな」


 その後、夜になっても岳は帰って来なかった。

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