表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Take On Me   作者: マン太


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/42

19.面会

親父(おやじ)、連れてきた」 


 病室は完全個室だった。その出入口には見張り役のいかつい男が二人立っている。

 (たける)の後に続いて入室すると、そこはまるでホテルのスイートルームと見紛うばかり。

 ベッドルームの他、キッチン、ダイニング、リビングルームまである。家具も質のいい木目調で揃えられていた。

 俺は思わず感心してそちらに気を取られていたが。


「君が、大和(やまと)君か」


 細いがしっかりと張りのある声に、顔を正面へと向けた。そこにはベッドの上、着流しを着て上半身を起こしている人物がいる。


「はい。宮本(みやもと)大和です…」


 自然と背筋が伸びた。

 年の頃は六十代頭か。頭髪はだいぶ白くなり、頬もこけてはいるが、眼光は鋭くこちらを射貫くように見据えている。

 けれど威厳はあっても威嚇するような怖さはない。周囲には穏やかな空気が流れていた。


「私は鴎澤(おうさわ)(きよし)。鴎澤組の組長だ。まあ、今は形ばかりのお飾り組長となってしまったがね。今回は亜貴の為に怪我を負ったようで、すまなかった。頬の傷跡は残るんだろう? 責任はすべてこちらにある。何か不都合が出てくれば岳に言ってくれ。なんでもしよう」


「その、有難うございます。でも、これは俺の責任であって、亜貴の所為じゃありません。俺の選択の結果ですから…」


 その言葉に潔は声を出さず笑う。


「そうか。(いさぎよ)いな。岳が手元に置きたがるわけだ…」


 俺が首をかしげると、岳が引き取って。


「大和は信頼できる。いい奴と出会えたと思っています」


「いや。俺はそんな…」


 買い被られても困る。

 俺はただ思う様に動いただけで、もっと上手くやればこんな怪我を負わずに済んだかもしれない。

 それに家政婦に精を出すのも、借金を返すため、自分に出来ることを出来る範囲で精一杯やっているだけで。 

 すると潔がふと視線をこちらに向けて。


「君は借金を払い終われば元の生活に戻るのか? どうせなら、そのまま岳の側で世話になったらどうだ? 岳もそうしてくれれば助かるだろう」


「えっと。それは──」


 岳にも考えて置いてくれと言われた案件。俺はまだ、それに対して返事をしていない。

 いつぞやの岳との会話を思い起こし、その顔をチラと見るが。

 岳は厳しい表情のまま、言い淀む俺の代わりに口を開いた。


「大和は『こちら側』には置くつもりはありません。ただ、俺がこの仕事から手を引いた後、どうかとは考えています。まだ返事は貰っていませんが…」


 きっぱりそう言い切ると、視線がついとこちらに向けられた。俺は思わずドキリとする。


 返事、すべき…だよな?


 俺がゴクリと唾を飲み込んだ所で。


「そこで、話があります」


 岳は居住まいを正すと、潔に向かって切り出した。


「後継について、(くす)に継がせると正式に周知したらいかがでしょうか。亜貴の成人まで待つと言う話でしたが、今組で起きている諍いを治めるには、それが一番かと思います」


 俺は思わず声を上げそうになった。

 そうなれば、成人を待たず岳の側にいることが出来る。


 潔は暫く思案した後。


「そうだな。確かにこれ以上、何か起これば組も分裂しかねない。少しは荒れるだろうが、それも一時の事。もう少し時間が欲しかったが…」


 一度伏せた視線をひたと岳に向けると。


「楠を呼んでくれ。話がしたい」


「分かりました。後で洲崎(すざき)から連絡を入れさせます。それでは、今日はこれで…」


 要件のみの会話に反応したのは俺だった。


「えっ? ってもう? 久しぶりに出てきたってのに…」


 ついぼやくと、岳が額を押さえため息をついた。


「大和。《《ここ》》はもう引き上げるだけだ。…少しくらいどこかで息抜きする」


「良かったぁ~。ホント、久しぶりの外の空気だからさ。もうちょっと、のんびりしたいなって。岳がいるなら安心して出歩ける。って、岳も狙われてるのか?」


「いいや。俺自身には手を出して来ないだろう。そこまで馬鹿じゃないはずだ。そんな事になれば一気に組の内紛が起きる」


「内紛…。まさにヤクザ映画の世界だな?

てか、リアルヤクザだもんな、岳。一緒にいるとつい忘れちゃうけど。若頭ってどんだけ凄いんだ。全然、それっぽくないもんな?」


 まじまじと見つめる俺に、岳はすっかり呆れ、言葉を失くした様子。


「ったく。お前は…」


 岳は苦笑を漏らす。

 そんな様を潔が笑って眺めているのに気がついた。


「仲がいいな。岳がこれ程気を許してるのは見たことがない。この分なら亜貴にも好かれている事だろうな? 大和君。これからも面倒をかけるが二人を頼む」


「はいっ」


 頬を上気させて答えれば、その肩を岳が引いた。


「帰るぞ」


「って、なんだよ? 慌ただしいなぁ。じゃあ、これで──」


 頭を下げるのもそこそこに、岳に強引に外へと連れ出された。


+++


 病室の外にいた見張りの男達は、岳を見て一礼して見せた。それに応じながら岳は切っていた端末の電源を入れる。


「んだよ。まだ親父さん、話したそうだったぞ?」


「いいんだ。あれ以上話すことはない。変に勘ぐられる…」


「何を勘ぐられるって言うんだ?」


 岳は何も言わず、こちらを見つめてくる。


「別に…」


 そう言った割には、何か言いたげではあったが。俺はいい機会だと、口を開いた。


「あの、さ…。前に考えとけって言われただろ? あの時の、返事。今しても──いいか?」


 立ち止まった俺に倣って、岳も足を止める。岳の視線が俺に注がれた。


「…勿論だ」


 個室が並ぶ廊下は人通りがなかった。防音設備の整った病院内はシンとしている。

 窓の外の木々が揺れ、緑の影を院内の白い壁に作っていた。

 自分の心音がうるさい。


 ええい、止まれ!


 いや、止まったらマズい。せっかくの答えを伝えられなくなってしまう。


 その『答え』は決まっていた。


 岳が思うように、俺だって岳と一緒にいたい。今と同じ様に過ごせるなら、こんな嬉しい事はない。

 でも、そう答えると言うことは、岳から向けられる思いも受け入れると言う事に他ならない。


 それ込みで、俺は──。


 なかなかの一代決心だ。

 ひと呼吸置いて、口を開こうとしたその矢先、岳の端末が着信を知らせて来た。

 それで、ピンと張り詰めた空気が途切れる。

 岳は小さくため息を漏らした後、すまないと断りを入れて電話に出た。ディスプレイに表示された名に無視は出来なかったらしい。


「どうした、真琴──」


 薄っすらと漏れ聞こえてくる真琴の声がいつになく厳しい。暫く話したあと、通話を切ると。


「大和。話は後だ。お前は病室に戻ってろ。親父には俺にそう指示を受けたと言え」


「えって、岳?」


 岳は俺の背を追いやる様に病室前に立つ部下に押しつけた。


「お前たちはそこを動くな。誰も中にいれるなよ」


「はっ」


 見張り役の男たちの顔に緊張が走る。

 そう言い残すと、岳はすぐに踵を返し、エレベーターを使って階下へ降りて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ