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Take On Me   作者: マン太


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13/42

13.反省

 家に戻るとすぐに亜貴(あき)が飛び出してきた。

 時刻は夜十時を回っている。リビングには真琴(まこと)(まき)(ふじ)もいた。


大和(やまと)、大丈夫だった?」


「おう。大したケガじゃなかった──」


 俺は安心させるためニコリと笑むが、途中で頬が引き攣った。その横から(たける)が。


「頬を十センチ切られた。お前じゃなくて良かったとは言えない」


「……っ」


 亜貴はくっと唇を噛みしめた。

 岳はその傍らを通り抜け自室へと向かう。血のついた服を着替えるのだろう。


「牧と藤は帰っていい。ご苦労だった。亜貴はリビングで真琴と待ってろ。話がある。大和もな」


「分かった」


 俺が答える傍らで、亜貴は去って行く岳の背を黙って見つめていた。


「じゃあ、俺たちはこれで。お疲れ様でしたっ!」


 牧はぴょこりと、藤はのそりと巨体を折って岳の背中へ頭を下げると、真琴に見送られ帰って行った。

 真琴はリビングに戻りながら、廊下に立つ俺たちに。


「二人共、中に入ったらどうだ?」


 入るように促す。真琴の言葉に俺は亜貴を振り返り。


「行こう。お茶くらい淹れられる」


 亜貴は何も言わず、俺の後についてリビングに入ってきた。


+++


「で。お前はどう思ってる?」


 リビングのソファには岳の隣に真琴が座り、向かいには俺と亜貴が座っていた。

 岳は腕組みして亜貴を見つめている。ソファの背に上体を預けて凄む姿は、俺の知らない岳の姿だ。


「反省してる…」


「反省か。言葉では何とでも言えるな」


 岳の視線は厳しいまま。表情も冷たい。

 その空気を割るように、真琴が今回の件の首謀者について報告する。モバイルに映し出された画像をこちらに見せながら、


「大和を襲ったのはうちの組の若頭補佐、(くす)の実弟、楠倫也(ともや)だ。職は無職に近い。人から巻き上げた金で生きてる。まあクズだ…。年齢は三十二才。兄とは正反対の性格ではあるが、その分、兄への憧憬が強く、邪魔者は排除しようとする傾向がある。今回の件もそうだ。岳は兄、楠と跡目(あとめ)を争っている。兄の邪魔になる岳に脅しを掛けて来たんだろう」


 画面には、証明写真のように正面を向いた倫也の顔が映し出されていた。髪もまだ染まっておらず、俺を襲った時より少しはまともな姿をしている。

 岳は亜貴を見つめながら。


「今回、大和はケガで済んだが、お前の代わりにもっと酷いけがか、もしくは命を落す危険もあった。お前の遊びに付き合ったばかりにだ。それに、このケガはお前が受けるはずのものだっただろう。この始末をどうつけるつもりだ?」


「岳。始末って、亜貴は普通の高校生だろ? そんな脅すみたいに言わなくたって」


 俺は止めに入るが、岳は亜貴に厳しい目を向けたまま。


「一般人だろうが、組員だろうが、そんなことは関係ない。やったことの後始末は自分でするのが当たり前だ。誰かに拭ってもらっている様じゃ、一人前の人間にはなれない。で、どうするつもりだ?」


 俺は二の句を継げなくなる。

 それまで俯いていた亜貴は、閉ざしていた口をゆっくりと開くと。


「兄さんの言った意味が良く分かった…。俺が言いつけを守らなかったから、大和が怪我をしたんだ。全部、俺の責任だ。もう二度と背かない。治まるまで大人しくしてる…」


 岳は深いため息をつくと。


「分かったならいい…。抜糸が終わるまで、大和は家政婦を休みにする。代わりに俺が朝と夜は準備する。昼の弁当は学食にでもしておけ」


「…兄さんが?」


「な、亜貴も驚くよな?」


 俺は重い空気を振り払うように身を乗り出せば。


「ううん。小さい頃、兄さん、良く作ってくれたから…。なんか久しぶり」


 その口元に漸く笑みが浮かぶ。


「後はちゃんと大和に謝れ。お前の身代わりになったんだからな?」


「いいって! 大袈裟だな? 俺は大した事ねぇって。大体、俺もぼうっとして隙があったんだ。だから亜貴に機会を与えたわけで」


 しかし、それを岳が手で制する。


「お前に非はない。悪いのは亜貴だ」


 岳はそこは一歩も引かない。俺はうっとなって言葉を詰まらすが。


「ごめん。大和。それに…ありがとう…」


 横に座る俺に、亜貴は深く頭を下げたまま小さく呟いた。


「ありがとうって、礼を言われるようなことは…」


「でも、俺があちこち歩きまわる間、ずっと周りを警戒しててくれただろ? …気づいてた。それで俺も勝手に大丈夫だって、思い込んで…。だから、ありがとう…」


 亜貴の頬が僅かに染まる。

 うへ、こんな美少年に頬を染められたら、そっちの気がなくったって、よろめきそうになるな。

 勿論、性格を知らなければ、だ。それもかわいいと思えばそれまでだが。

 俺はポンとその肩を叩くと。


「亜貴、もう謝ったんだからこれでお終いだ。だから、気にすんなよ?」


「…うん」


 笑って返せば、亜貴は俺の顔をちらと見てすぐに視線を逸らした。頬は相変わらず赤いままだった。

 真琴はモバイルをパタリと閉じると。


「さて。俺はこれで引き上げよう。明日は俺もお前の手料理をご相伴に預ってもいいのか? 久しぶりだな」


「好きにしろ。明日、頼んだぞ」


「ああ。きっちり証拠資料は揃えとく。また明日」


 そういうと、リビングを出て玄関へと向かう。その背を玄関口まで出て岳と見送った。


「おやすみ。真琴さん」


 すると俺の顔を見て、真琴はふっと笑んだあと。


「おやすみ。大和。タケ、良かったな?」


 にっと笑んだ真琴は帰り際、岳に謎の言葉を残し、帰って行った。


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