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第8話『VS銀色の騎士ヘルメシオン戦』

時計塔から大回廊に辿り着き、警戒しながら城砦へ向う。俺は人の気配を感じて物陰に身を隠した。そっと様子を伺うと……奴だ。大回廊の端、城砦の入り口前の噴水跡に「銀色の騎士(ヘルメシオン)」は居た。


(誰かと一緒なのか?)


話し声が聞こえる……気付かれないように身を隠しながら距離を詰める。よく見ると銀色の騎士(ヘルメシオン)の目の前には暗い灰色の汚れたローブを身に着けた人が座っている。騎士はその人に槍を向けていた。


灰被り(サンドリヨン)!?」


そう、確か城砦の入り口には禊の泉がある。ボス手前のセーフティゾーンだからな。俺は灰被り(サンドリヨン)の姿を見て心臓が飛び出るほど驚いた。シルヴィスと重なったから……でもあれは何人かいる灰被り(サンドリヨン)の一人だ、シルヴィスじゃない。


灰被り(サンドリヨン)は同じ様なボロボロのローブを着ているけどみんなよく見るとそれぞれ違う格好をしている。比較画像も見たことがあるからな。


「ちょっと待て、あいつまさかあの人も?!」


と呟いた矢先に銀色の騎士(ヘルメシオン)灰被り(サンドリヨン)の左肩を槍で突いた。肩から槍が抜かれると灰被り(サンドリヨン)は傷を手で押さえてうずくまる。


「おい、やめろ!」


俺は堪えきれずに怒鳴りながら飛び出してしまった。いや、だって無抵抗の人を刺すとかヤバいだろコイツ……。


銀色の騎士(ヘルメシオン)はこちらに顔を向けた。兜の面に顔も覆われているのでどんなヤツかも、表情もわからない。


「なんだ貴様は? 探索者か……誰かは知らんが邪魔をするな」


割と二枚目っぽい男の声だ。まあ顔は分からないけど。


「その人灰被り(サンドリヨン)だろう? お前も探索者なら回復とかして貰ってるんじゃないのか? なんで殺そうとするんだ!」


俺がそう言うと銀色の騎士(ヘルメシオン)は身体もこっちに向けて近づいてくる。


「貴様……何を知っている? どこの手のものだ?」


銀色の騎士(ヘルメシオン)は近づきながら三日月みたいな形をした左右非対称の十字槍「銀月の槍(クレセントスピア)」を両手で持って臨戦態勢で歩いてくる。


「どこの者でも無いけどな、お前に殺された礼拝堂跡の灰被り(サンドリヨン)の敵討ちだ!」


俺がそう言うと銀色の騎士(ヘルメシオン)は歩みを止めた。


「貴様……見ていたのか?」


「見ちゃい……」


俺は躊躇した、直接見たわけじゃないからさ。ウィキで見たって言うのもおかしいよなあ……。


「どうした、今更何か隠し事か?」


「み、見てないけど、灰被り(サンドリヨン)に聞いたからな!」


「ほう……灰被り(サンドリヨン)は死んで身体ごと消滅したと思ったのだがな、違ったか?」


顔は見えないけど、声色で銀色の騎士(ヘルメシオン)がほくそ笑んでるのが分かった。そう、シルヴィスの遺体は無くて服だけが落ちていたんだった……俺は次の言葉が出ずにいた。


「どうやらお前には色々と話を聞いた方がいい様だな……とりあえず死なない程度にしてやろう」


銀色の騎士(ヘルメシオン)銀月の槍(クレセントスピア)を構えてこちらに突進してきたので俺は咄嗟に横に跳んで躱した。


「フ、その装備は飾りではないようだな、いい動きだ……だがな!」


銀色の騎士(ヘルメシオン)はこちらに踏み込みながら槍を横に振って薙いでから素早く突くという連続攻撃を仕掛けてきた。俺は回避に専念してたお陰でなんとか躱せたけど、これじゃリーチに差がありすぎて近づけない。


「どうした、避けるだけか? 灰被り(サンドリヨン)の敵討ちとかほざいて、わざわざ私を追ってきたというのに逃げ回るだけか。まともに戦う度胸もないくせに滑稽だな!」


「何だてめぇ……」


煽る様な銀色の騎士(ヘルメシオン)の言葉に釣られないように「冷静になれ」と自分に言い聞かせていたが……


「クソ!」


俺はつい怒りにまかせて剣を振りかぶって突進してしまった。


「ハハハ!」


銀色の騎士(ヘルメシオン)は笑いながら俺の剣を弾くと遠心力で槍を回して反対側の部分で殴った。


「がはっ!?」


槍の柄で肩を殴られた。鎧を着ているが衝撃で強い痛みが走る。俺は後ずさって間合いを取った。


「貴様の目的はなんだ? まさか貴様も灰被り(サンドリヨン)が目的なのか?」


いちいちムカつくなコイツの喋り方……いちいち癇に障る。


「貴様も、ってことはお前の目的は灰被り(サンドリヨン)なのか!?」


銀色の騎士(ヘルメシオン)は「フン」と鼻で笑う。


灰被り(サンドリヨン)は魂をアイテムに封じ込める事が出来る。それはとても便利なものになるからな、高く売れるのだよ」


「売る?! ヒトを何だと思ってるんだ!」


「ヒト? フン……アレが人か? とうの昔に滅びた王国の、しかも聖女のなり損ないのゴミではないか? この城砦の呪いの中でしか形を保てないモノだろう?」


「なり損ないの……ゴミだと?」


こいつ……なんでこんなに嬉しそうにこんな酷い事を言えるんだ? 殊更に身振り手振りをしているのが腹が立って仕方がない。


「いい加減にしろ、このクソヤロウ……」


俺は怒っていた。胸糞の悪いコイツだけはなんとかしないと、こんな奴にシルヴィスが……俺が剣を構え直すと銀色の騎士(ヘルメシオン)も再び槍を両手持ちで構えた。


「よく見れば貴様のその剣、なかなか良さそうだな。フン、お前からは大した情報は得られ無さそうだからそれを貰ってやる」


「貰ってやる? お前になんかやるわけないだろ!」


「貴様の意思など知らん、ここで殺すのだからな……」


銀色の騎士(ヘルメシオン)は小馬鹿にするような口調から一転して、背筋が寒くなるように感情の無い声でそう言った。


「く……はいそうですかってやられるかよ!」


俺が剣を構えた瞬間、銀色の騎士(ヘルメシオン)は凄い速さで槍で突いてきた。やっぱりさっきまでのは手加減してたのか!? 俺は槍を躱すので精一杯だった。


「クソっ!」


俺は一太刀浴びせようと踏み込んだその時、風を斬る音が間近に聞こえたので恐怖で足が竦んだ。


(ガキィン!)


頭に激しい衝撃を受けて俺は後ろにのけぞって尻もちをついた。目のまえにパチパチと星が散り、頭にはグワングワンという痛みと立っていられない奇妙な感覚に襲われていた。これは脳震盪ってやつなのか? ヤバい、立たないと……。


「ちぃ、兜が外れて威力が逃げたか……なんだ貴様、亡者ではないか?」


銀色の騎士(ヘルメシオン)にそう言われて俺はさっきの衝撃(多分あいつの攻撃)で鉄仮面付兜(フルフェイスヘルム)が飛ばされていたことに気付いた。


「亡者が喋っていたのか……どういうことだ?」


銀色の騎士(ヘルメシオン)は少し戸惑っているようだ。なんとか少しでもいいからこの眩暈(めまい)だけでも回復してくれ……。


「そうか、お前もここの城砦の呪われた住人というわけだな……いいだろう、この私が始末してくれる」


銀色の騎士(ヘルメシオン)は槍を構えて大きく踏みこんできた。俺は一か八か、その踏み込んだ左脚を狙って剣を突き出す。半身を横に逸らしたお陰で心臓に刺さるはずの槍は俺の左肩に突き刺さった。とはいえ、痛みと衝撃で気が遠くなりそうだ。


俺の突き出した剣は銀色の騎士(ヘルメシオン)の太腿の付け根辺りに刺さった。俺は槍で突かれた衝撃で後ろに倒れ、銀色の騎士(ヘルメシオン)は剣が太腿に刺さって唸り声を上げている。俺は槍が刺さったまま横向きに倒れ、銀色の騎士(ヘルメシオン)は刺さった剣を抜くと忌々しそうに地面に叩きつけた。


「……亡者が! この私に……手傷を……貴様も灰被り(サンドリヨン)も他の化け物共も、この滅びた城砦に巣食う亡霊だろうが……亡霊は大人しく地獄に堕ちろ!」


俺は肩に刺さった槍を抜こうとしたが、貫通しているのか深く刺さっていて激しい痛みもありなかなか抜けない。銀色の騎士(ヘルメシオン)は左足を引きずりながら鼻息荒く迫ってくる。そして俺に近づくと刺さった槍を力任せに引き抜いた。


「ぐあぁぁっ!」


俺は悶絶してのたうち回り、歯が割れるんじゃないかと思うくらい食いしばりながら銀色の騎士(ヘルメシオン)を睨んだ。


「失せろ雑魚がぁっ!」


銀色の騎士(ヘルメシオン)が槍を頭上で振り回したその時――


「うわあああ!」


悲鳴を上げながら時計塔の方から男が走って来た。よく見ると銀色の騎士(ヘルメシオン)を開放したと言っていたあの探索者の男だった。


「何ごとだ!?」


銀色の騎士(ヘルメシオン)が面を喰って走って来る男を見た。男の後ろから歪な形の短剣を持ちボロボロのマントを纏った亡霊が何体もゾロゾロと追いかけてくる。


「どけぇ、退いてくれ!」


男は銀色の騎士(ヘルメシオン)の横を走り過ぎていった。銀色の騎士(ヘルメシオン)が呆気に取られていると亡霊たちが次々と襲い掛かりはじめた。


「ぐあ!? なんだこいつらは!」


銀色の騎士(ヘルメシオン)は槍を振り回すが亡霊たちの身体をすり抜けてしまう。銀色の騎士(ヘルメシオン)は亡霊たちの歪な刃で切り刻まれている。


「や、やめろ! うああああっーー!!」


銀色の騎士(ヘルメシオン)は亡霊たちから逃げる様によろめきながら大回廊の柵が壊れた場所から転落してしまった。


「え、ちょ……まじか?」


亡霊たちは倒れている俺を囲んでグルグルと周りを何周か周り、やがて男が逃げた方向へ去って行った。


「あの人、マジで迷惑プレイヤーみたいな人だな。まあ、お陰で助かったけど……」


俺は深くため息をついたがそれで傷が激しく痛み意識が遠くなる。気を失う直前に、なにか柔らかく温かいものに触れられた気がしたが……折角助かったのにお迎えが来たのか?


そして俺は意識を失った――

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