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第7話『時計塔はトラップ地帯ですね分かります』

俺は意識を取り戻した。どれくらい時間が経ったのか分からないが辺りは薄暗い。うつぶせに寝ていたので立ち上がり、身体を軽く動かして痛みや異常が無いか確認する。


「とりあえず大丈夫みたいだ……」


「チャリ……」という音がして何か小さな硬いものが足に触れた感触があった。それは割れた「身代わりのアミュレット」だった。


「これが割れたってことは俺1回死んだんだよな?」


考えると恐怖しか無いからやめておこう。さて、ここは……石造りの建物の中だ。動画でも見たことがある、時計塔の入り口を入った所だ。もちろん入り口の大きな扉は閉まっている。


「本当にワープしたのか……どこまでもゲームっぽいなこの世界は」


まあ、本当にゲームの中に入ってしまったのかもしれないけど、それにしては痛みとか臭いとか味とか現実としか思えないけどなぁ。


さて、これからこの時計塔を上に登っていくことになる。でっかい時計だから中はカラクリ仕掛けになってて、何故かトラップも仕掛けてある。一応攻略動画で一通りみたので罠の位置と内容は大体知ってるけど……


それでも実際に体験すると感覚が違う。飛び出す針とか飛んでくる矢とか落とし穴とか落ちてくる刃物とかで散々な目に遭いながら俺は時計塔を登って行った。


「敵が配置されてないだけまだ温情があるよな……」


ゲームではクリア後の2周目はここに敵が配置されてるらしい。


この時計塔は最上部の文字盤の裏の歯車に崩れた屋根の一部が挟まっていて文字盤が動いていない。それを外せば時計が動き出して鐘が鳴る。その鐘を合図に仕掛けが作動して城砦の内部に繋がる大回廊が現れる。その大回廊も途中で崩れ落ちてるんだけど、時計塔からは乗り移れる道が開通する。


俺は「ぜえはあ」言いながらなんとかこの最上部まで辿り着いた。敵もいないのにトラップでダメージを受けまくったので持ってきた果物は殆ど食べてしまった。


俺は時計の文字盤の歯車に挟まった金属片をその辺に転がってた鉄の棒でゴリゴリほじくって取り除いた。すると「ギギギギ」と嫌な金属音と振動があって大きな機械が動き出した音が聞こえてきた。そして大きな鐘の音が「ガーンゴーン」と鳴り響く。音がでかいので腹にまで響いてくる。


音が鳴りやむと建物の外で何か大きなものが動くような地響きがあった。


「大回廊の仕掛けが動いたのか?」


俺が外へ確認しに行こうとしたその時、悲鳴のような叫び声のような嫌悪感のする音が響き渡った。そして床から青白く発光する何かが湧き上がるように出てきた。


「ああ!? そうかここのボスだ!」


全身が青白く発光して半透明の――フード付きの長いマントを纏って両手の袖から長い爪が3本ずつ伸びている幽霊のような怪物が現れた。大きさは俺の身長の倍以上はありそうだ。名前は確か「鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)」だ。時計塔を抜けるのに必死で忘れてた……。


俺は伯爵の紅曲刀(ブラッドサッカー)を構えた。鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)は爪を振り回して襲ってくる。俺はそれを躱して背後に回り込み2回ほど斬りつけた。しかし刃は鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)の身体を通り抜け感触も無く空を切った。


「空ぶった?!」


鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)は振り返りざまに俺に向かって爪で襲いかかる。何とか後ずさって躱したけど左手の甲に痛みが走り、そこには刃物で切り裂かれたような傷が出来ていた。そして鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)は少し浮き上がると空中でくるりと1回転してから両手の爪で上から突き刺しにきた。俺はそれを横に躱して反撃。今度はもっと近づいて確実に剣で斬りつけたんだけど、やっぱり空を切ったように何の抵抗もなく鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)の身体を剣がすり抜けた様に見えた。


「攻撃が効かない?!」


最初の攻撃も空ぶったんじゃなくてすり抜けたんだ、幽霊だから。マズいぞこれは、俺はこの伯爵の紅曲刀(ブラッドサッカー)に頼ってたから、コイツが効かないとなると……。


「ていうかこいつ物理的な攻撃効かない?」


この剣のHP吸収効果も発動しないからそもそもダメージが入ってないっていうか空気斬ってるみたいな感じか。でも相手はこっちを長ったらしい6本の爪で攻撃してくるしこっちはダメージがある……理不尽だなと思うけど俺もチートみたいな存在だからな……とか考えてる場合じゃないわ。なんとか躱してるけどずっとこれじゃそのうちやられるよな。


「罠だらけの時計塔でボス自体も罠だったって訳かよ!」


俺は鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)の攻撃を躱しながら何か手は無いか考えた。今まで拾ったもの、その中でコイツに効きそうなもの……


「あ……」


俺は思い出した。尖塔の聖堂で手に入れた短刀「聖女の守り刀」の事を。これは聖属性武器だからイケるんじゃね? 鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)から逃げながらアイテムポーチ「旅人の鞄」に手を突っ込んでかき回し短刀を引っ張り出した。でも正直こいつたしか最弱レベルの短剣(ダガー)と同じくらいの攻撃力なんだよな……でも無いよりはマシか。


「よし、これで……」


俺は鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)に向かって聖女の守り刀を構えた。鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)は低空飛行の様に宙を舞いながら長い爪ですれ違いざまに斬りつけてくる。短刀なので届かないからもっと奴が近づいてきてくれないと……向こうの爪の方がリーチが長いので間合いの内側に潜り込まないと無理だな。


「間合いに潜り込むのはいいとしても本当にこの短刀が効くのか?」


一応こういう鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)系の敵には聖属性武器が有効ってウィキにも書いてたけど動画では見てないんだよな。でもこれに賭けるしかないだろう。鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)は両腕を広げて空中から急降下して間合いを詰め、左右の爪で抱きしめる様に突いてきた。俺は咄嗟にバックステップで躱した。鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)はまた宙に浮かび上り旋回している。


「クソ、短刀だって認識してんのかよこいつ? さっきから空中ばっか飛びやがって!」


鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)はまたすれ違いざまに切り裂く攻撃を繰り返してきた。これでは短刀で攻撃を当てるには厳しい。


「さっきの急降下攻撃って密着してきたよな? あの瞬間を狙うか……でも攻撃が効いたとしてそのまま向こうの攻撃が止まらなかったら?」


このゲームの突き攻撃には敵を後ずさり(ノックバック)させる効果がある。奴が俺に抱き着いてくるタイミングで思いっきり短刀で突けば攻撃の後に逃げる隙も出来るんじゃないか? そう考えてると鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)は空中で両手を広げた。急降下抱き着き攻撃の初動だ。


「やるしかない……やってやる!」


俺は短刀を腰だめで両手に持ち、間合いとタイミングを見計らって助走をつけて鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)を突いた。両腕の爪が当たる前に短刀が鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)の胸に命中した。それまでの空を切るようなものとは違う何かに刺さる感触があり、刺さった部分と短刀が輝いていた。鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)は現れた時のような生理的嫌悪感のある金切声を上げながら光の粒子となって消えた。


「え、ええ? い、一撃?」


いや確かに鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)には聖属性武器が有効ってことだけど……俺はふと思い出した、この聖女の守り刀は通常攻撃力は最弱クラスだけど聖属性の攻撃力は全武器中トップクラスだったことを。それにしても一撃って……このゲーム属性値エグイな。


「痛てて……」


戦ってる時は気づかなかったけどそれなりに鐘鳴らしの亡霊(リンガーファントム)に斬られてたみたいだ。果物ももう殆ど残って無いけどこの先は奴と、銀色の騎士(ヘルメシオン)との戦いがあるからな、食っておくか。


果物を食べたり装備の確認をしつつ休憩した俺は時計塔頂上部の出口から外へ出てみた。


「うわ、すげえ……」


城砦の城下町やその外側の街、そしてスタート地点の礼拝堂跡や納骨堂(カタコンベ)も一望できる。城砦の周りには何もない荒野が広がっている。城砦側を見ると西洋の巨大な砦のような城があり、その背後を囲むような崖がそびえたっている。大回廊はその崖と城砦を直接結ぶための開閉式の大きなつり橋だ。時計塔が丁度中間地点のつなぎ目になっている。


崖側にも大きな門があって本来はそこと繋がるはずだけど、崖側の方は落ちてしまったのか無くなっている。だから今は城砦側の橋だけが降りてきていた。時計塔からは小さな梯子があり、それを使って大回廊に降りた。


大回廊は木造で屋根のついた頑丈な造りになっていた。つまりでっかい渡り廊下ってことなのかな?


「この先にあいつがいる……はず」


俺は伯爵の紅曲刀(ブラッドサッカー)を構えると用心しながら城砦へ向かった。

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