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第12話(最終話)『そして俺たちは――』

「行ってみよう」


俺の言葉にシルヴィスは頷いた。正面奥の大きな扉をくぐると突然辺りが眩しくなって浮遊感に見舞われた。長いのか短いのか分からないがしばらくして浮遊感は無くなり眩しさも治まると、俺たちは白い大理石みたいな石で出来た神殿のような場所にいた。


真ん中には祭壇みたいなのがある。二人で近づくと祭壇の向こうに蜃気楼のような大きな人影が浮かんだ。ギリシャとかの神話に出て来そうな女神っぽい女の人だった……めっちゃデカいけど。



"わたくしは「アドミニス」この世界を管理するものです……"



管理するものでアドミニスってベタだな……いやまあゲームみたいな世界だしな、そこはスルーだな。



"誰が「ベタ」ですか……"



「え、心が読めるの?」



"いえ、なんでもありません……貴方は転生者ですね。実はこの世界では稀に貴方のように異界で死した者を招いているのです"



やっぱり異世界転生だったんだな。



"本来なら人として生まれ変わり、探索者としてこの城砦(じょうさい)にかけられた呪いを解くために挑んでもらっているのですが……"



「城砦の呪いってなんですか?」



"この滅びた城砦はかつてここの主だった王が、とある魔術師との契約を反故にして処刑したために数々の不幸に見舞われて呪われた城砦となってしまったのです。そしてその呪いのために、住人は魂がここに縛り付けられて何度も同じ時を繰り返しているのです"



(あれか、ゲームではクリアしても2周目3周目があるからそういう意味か……)



"貴方のような転生者が挑むと状況が少しずつ変化しているので、転生者に望みを託しているのですが……手違いがありました"



「それって……」



"そうです、貴方は何故か手違いで、この城砦の住人である亡者の戦士に転生してしまったのです"



「手違いかぁ……手違いならまあ仕方な……仕方ない事あるかい!」


思わずツッコんでしまったらシルヴィスが心配そうに俺の顔を見たので「大丈夫だいじょうぶ」と応えた。


「で、アドミニスさんでしたっけ? 俺に話って、まさかそれだけですか?」



"いえ、ここからが本題です。正直に言いますと、貴方のような例外的な存在にこれ以上城砦で何かをされると、何が起こるのか予想できないので止めて頂きたいのです"



なんだそれ? 無理やり呼んどいて、手違いかエラーのバグってことか俺は?


「俺のせいじゃないのに何もするなって、ちょっと酷いんじゃないんですか……」


俺はさっきから向こうの都合だけで色々言われているので結構苛々していた。



"怒るのも無理はありません……こちらとしてはお詫びもかねて提案があるのです"



「提案?」



"こちらとしては、今後は城砦に入らないで頂きたいのです"



「城砦に入らない? ここから出て行けってこと? でも出られないんじゃ?」



"わたくしの権限で貴方をこの城砦の理から外しましょう。外の世界へ旅立つのも自由です"



「外の世界? やっぱりこの世界はここの他にも広がっているんですか?」



"ええ、この城砦はほんの一部にすぎません。時折訪れる探索者たちは城砦の外の世界から来ていますから"



「あっそうか、設定だけじゃなくて外の世界があるんだ……でも、外の世界に放り出されるんじゃまだまだ一方的ですよね?」



"もちろん、貴方がこの世界で生きて行けるように私の権限で可能な限りの助力をさせて貰います……何が必要ですか?"



必要な物、そうだなぁ……。


「まず、亡者の姿だと化け物扱いされるから人間の姿にして欲しい……出来ます?」



"可能です"



マジか、助かる……自分の顔見て心臓止まりそうになるのは嫌だからな。そして俺は食料だの装備品だのを要求してそれらはもらえることになった。ふと横を見ると、不安そうに俺を見つめるシルヴィスに気付いた。


「どこかに……行くの?」


「ああ、なんかここに居ると迷惑だって言われたからな。代わりに人間に戻してくれて、その他の装備一式も貰えるように話してたんだ」


「人間に……戻れるのは……嬉しい?」


「そうだな……亡者顔だと自分の顔を見るといちいちビックリするし、シルヴィス以外の人間には多分化け物扱いされるからな」


「そう……なら……いいけれど……」


シルヴィスは微笑んでくれたが、すごく悲しそうな表情にも見え、それきり俯いてしまった。



"もう必要な物はありませんか? 無ければ貴方がたを禊の泉に転送しますが――"



「待って、もう一つあった」



"なんでしょうか?"



俺は俯いているシルヴィスの横顔を一瞥してからアドミニスに言った。


「彼女も、灰被り(サンドリヨン)シルヴィスも一緒に連れて行きたい。彼女もこの城砦の理ってやつから解放して欲しい」


俺の言葉を聞いていたシルヴィスは驚いたような表情で俺を見つめた。


「な……なにを……」


シルヴィスは唇を震わせている。俺は言葉を続けた。


「彼女が居なければ俺もここまで城砦を探索して回ることは無かった。そして、彼女が灰被り(サンドリヨン)の立場を超えて俺と一緒に戦ってくれなければ、こうやって生き残ることも無かった。彼女も、もうあなたの言う例外ってやつだと思う。だから、彼女も共に連れて行った方がいいんじゃないかなと思うのですが、どうですか?」


俺ってこんなによく喋るんだなと自分で感心した。シルヴィスは緊張した面持ちで俺とアドミニスを交互に見ている。さて、どうなるか……。



"なるほど、そうですね――貴方の言う事はもっともです。分かりました、灰被り(サンドリヨン)シルヴィスもこの城砦の理から外しましょう"



「ありがとう、俺の要求は以上です」



"それでは貴方がたを城砦の入り口、礼拝堂跡の(みそぎ)の泉へ転送します。望みの物もそこに送っておきましょう"



不安そうな表情で俺とアドミニスの会話を見守っていたシルヴィスは口を開く。


「帰れる……の?」


「そうさ。そのあと、俺と一緒に……外の世界へ付いて来て欲しい……どう……かな?」


不安そうな顔をしていたシルヴィスの表情がぱぁっと明るくなった。


「はい……」


シルヴィスは満面の笑みを浮かべた。



"では、転送します……さようなら、幸運を"



眩しい光に包まれてまた浮遊感が身体を包み、一瞬意識が遠くなる――






――しばらくして意識がはっきりしてきた……眩しい光は無くなり、俺とシルヴィスは禊の泉の前に立って居る。シルヴィスはまぶしさで眼を覆っていた。


「シルヴィス、もう大丈夫だよ」


シルヴィスに声を掛けると周りを見渡してほっと溜息をつき、住み慣れた小屋の中に入って行った。俺はとりあえず一息つきたいのでボロボロになった鉄仮面付鎧(フルフェイスメイル)を外した。


「アドミニスに頼んだ装備品が小屋に届いてるはずだけど……もし無かったらまたあそこまで文句言いにいってやろうかな?」


そんなことを言いながら俺も小屋に向かうと、中からシルヴィスが出てきた。


「すごい……色々なものが……置いて……」


シルヴィスは俺を見て絶句して固まった。


「その……姿は……」


俺は自分を指さしてシルヴィスの目を見た。シルヴィスは口を開けながら頷いていた。俺は自分の顔を手で触ってみる。


(柔らかい?!)


俺の亡者顔は筋張って硬かったのに?! 慌てて禊の泉の水面に顔を映してみる……。


「お……俺だ……」


それは生れてから毎日拝んできた、転生前の俺の顔だった……俺は嬉しくて嗚咽を漏らした。シルヴィスはそれを心配してくれたのか隣に座る。俺は亡者になってから思っていた不安や恐怖を情けなく泣きながらシルヴィスに話した。シルヴィスは俺の手を握り、ただ頷いて聞いてくれた。今まで無意識に抑え込んでいた感情が情けなくも溢れ出て止まらなかった。


恥ずかしげもなくひとしきり泣いたり喜んだりしていたのが落ち着いた頃――




「おーい!」


礼拝堂跡から泉に向かってやってくる人がいた、あの逃げ回っていた探索者の人だった。


「君たちも無事だったか! 良かったなあ……」


俺もこの人が無事でなんかほっとした。


「君らに借りを返したくて城砦へ追いかけたけど、逆に色んなものに追いかけられちゃってね……何の役にも立たずに結局逃げ回ってやっと帰ってきたよ」


「役立たずなんて、あなたがいなければ死んでたよ、ありがとう」


俺とシルヴィスは頭を下げた。


「ええ?! いやいやそんな。まあ、なんだかよく分からないが役に立ったなら良かった!」


笑ってそう言った。


「俺はもうこりごりだから今度こそ帰るよ。君らはどうするんだい?」


俺とシルヴィスは顔を見合わせて答えた。


「俺たちもここから出ようと思ってるんだけど、行くアテがなくて……ここ以外のことはよく知らないし。ここから一番近い街とか教えて貰えると助かるんだけど――」


「それなら、俺と一緒に行かないか? どのみち街に戻らないとどうしようもないから俺もそのつもりだったんだ」


助かった、渡りに船ってやつだな。


「そういや名乗ってなかったな。俺はヴァン、テリィンのヴァンだ。あんたら見たところ準備まだだろ? 俺は街はずれに装備を隠しててな、準備してるからあとで来てくれ」


そういうとヴァンは街はずれに向かって去って行った。


俺とシルヴィスは小屋に戻って出発の準備をした。結構欲張って色々頼んだけど、旅人の鞄があるから軽々と持っていけるのは有難い。


シルヴィスはいつの間にか聖女のローブから灰被り(サンドリヨン)のローブに着替えていた。以前の綻びや汚れも無く小奇麗になっているのはアドミニスのサービスだろうか?


「聖女のローブ似合ってるのに……」


「私は……こっちの服が落ち着くの……それに……聖女のローブでは……目立つでしょう?」


確かにそうだな……アレはもしもの時の為に取っておくか。


「あの……そういえば……ずっと聞けなかったことが……あるの」


シルヴィスは俺をまじまじと見つめながらそう言った。


「え……な、何?」


「あなたの、名前……聞いてなかった……なんて……呼べば?」


「へ? あれ……言ってなかった?」


俺のとぼけた答えにシルヴィスはクスクスと笑いながら頷いた。


「俺の名前は……」




【終わり】

お読み頂き、ありがとうございました。

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