第11話『VS双極の騎士アルドメイヤー戦・後編』
白銀の騎士は光の粒子になって暗銀の騎士に纏わりついた。つむじ風のようにぐるぐると回りながら輝きを増している。
「来るぞ、こいつら合体するんだ……」
「合……体……?」
光の粒子は激しく輝くとやがて徐々に消えた。そしてそこには大きな鎧の騎士が立っていた。基本的には白銀と暗銀がそのまま倍ほど大きくなった感じだが、鎧の色が白銀色と暗銀色が半々に合わさった感じだった。
そして何より大きな変化は、腕が4本になっていることだ。左右両側に両手剣を双剣として持っている。これが「双極の騎士アルドメイヤー」って訳だ。
「カッケー……」
「カ……どういう意味?」
思わず出た言葉にシルヴィスは小首をかしげた。
「ごめん、何でもない……来る、離れて!」
双極の騎士は構えた後に例の突進突きをしてきた。横に躱して反撃を……俺が踏み込もうとした時にもう一方の剣を振り下ろしてくる。それを何とか横っ飛びに躱す。そして更に突いた方の剣を横に薙いで来た。俺はしゃがみながら前転で躱して双極の騎士の向こう側に抜けて逃れる。
「デカいのに隙が無くなってるじゃんか!」
双極の騎士は振り返ると俺に向かって踏み込みながら双剣を交差するように振った。
(左右どちらに避けても当たる!?)
俺は後ろにステップして躱す。思ったよりリーチは短いのか? そう思った次の瞬間振り下ろした双剣で突きを入れてきた。俺は咄嗟に剣で防いで串刺しにはならなかったが、両肩の鎧が裂けて刃が食い込む。
「ぐあぁぁっ!?」
「……障壁!」
シルヴィスは俺の側に駆け寄って物理障壁魔法を唱えてくれたので双極の騎士は態勢を崩し後ずさった。
「……癒し」
痛みが和らいで出血は止まった。1回の回復魔法では完治しない、ヤバいの喰らったからな……
「もう一度……」
シルヴィスが祈りの仕草をしようとした時、双極の騎士が構えを取った。
「いいから逃げろ!」
俺はシルヴィスが狙われないように双極の騎士に向かって突進した。だが、俺を無視してシルヴィスの方へ向かっていく。
「クッソ、お前の相手は俺だろうが!」
双極の騎士はシルヴィスに向かって突進突きを放つ。シルヴィスは両掌を重ねて前に突き出した。
「障壁……っ!?」
騎士は突進を止めてそこからジャンプし、双剣をシルヴィス目がけて振り下ろした。
「逃げろぉぉ!」
俺の叫び声でシルヴィスは走って躱そうとしたが躓いて転倒してしまった。そこに双極の騎士は双剣を突き立てた。
「シルヴィス!?」
よく見ると双剣はシルヴィスの身体を外していた、転んだことが逆に幸運となったようだ。
「シルヴィス!」
(返事がない、生きてはいると思うが……気絶?!)
俺はまだ態勢を立て直していない双極の騎士目がけて背後から剣を振り下ろした。流石に双極の騎士も無防備な所に背後から攻撃を喰らったのでよろめいて膝をついた。俺はその隙にシルヴィスを抱えて柱の陰に隠れた。
「シルヴィス!」
身体を軽く揺さぶるとシルヴィスは目を開けた。
「っ!?……ご、ごめんなさい……」
「よかった、無事で……大丈夫?」
シルヴィスは立ち上がり頷いた。
「大丈夫……騎士が……くる……」
「俺に考えがある。またあいつが君を狙わないように、癒しは本当にヤバい時まで使わないで。そして俺が合図したら剣の加護をかけて欲しい」
「わかった……気を付けて……」
双極の騎士は立ち上がり、間合いを計りながら歩いてくる。さっきの背中からの攻撃はかなり効いたみたいだな……いわゆる"背後攻撃"の判定が入ったってとこか。双極の騎士のこの形態の立ち回りの攻略法思い出したけど、絶対安全てわけじゃない……でも、まともにやりあうよりはいいよな。
双極の騎士は俺の狙って突進突きを放つ……それを横に跳んで躱す。そして、またもう片方の剣を振り下ろしてくる。それを躱すために双極の騎士に向かって前転しつつ足元に張り付く、こうすれば……。
俺は双極の騎士の周りに張り付きながら周囲を回る。当然双極の騎士は俺に対して剣を振り回すが……。
「こうして張り付いていると手元には攻撃が当たらないんだよ!」
双極の騎士は双剣を左右に振り回すが俺には不思議と当たらない。そう、この形態になると手元への攻撃判定が無くなって張り付いていればダメージを受けないのだ。俺は双極の騎士の周囲を回りながら攻撃を加える。
(本当に当たらないんだな、でも間近で剣を振り回されるの怖えぇ……)
もちろん双極の騎士もただ棒立ちで居るわけじゃない、俺を振り払おうと動き回る。
「逃がさねぇよ!」
(だって引き離されたら厄介だしな……)
俺は動き回る双極の騎士に嫌がらせの様に張り付きながら一撃、また一撃、攻撃を加える。双極の騎士は時折膝をつくようになってきた。
「よし、かなりダメージを与えて……痛!?」
と言った矢先に俺はこの大きな廊下の端の壁にぶつかってしまった。
「しまった、いつの間に……」
すると双極の騎士が視界から消えた――
「上か!?」
俺は双極の騎士を確認する暇が無いと思い、とにかく一か八かで回避した。大きく回避行動をとっていると俺が居た場所に双極の騎士が双剣を突き立てていた。
「危ねぇ……っ!?」
(しまった、間合いが!)
双極の騎士は再び俺に向けてジャンプしながら双剣を振り下ろしてきた。俺はそれを後方に飛び退いて躱す。
「間合いを!」
俺が間合いを詰めようと前進した時、双極の騎士も踏み込みながら双剣を交差するように振り下ろしてきた。俺は出会い頭だったので防御できずにまともに喰らってしまった。
「がはぁっ!」
喰らってしまったが、弾き飛ばされたので致命傷にはなっていない……なってないけど……胸の鎧が裂けて身体にまで傷を負った。
「まだだ、まだぁっ!」
痛い……めちゃくちゃ痛い……でもシルヴィスのかけてくれた防御と持続回復の魔法が効いてるから戦える。俺は双極の騎士に向かって踏み込む。
「だめ……癒し!」
「いや、武器強化だ!!」
「!? ……剣の加護!!」
双極の騎士はジャンプした。俺は構わずに踏み込んで前方に飛び込む。直後、俺の真後ろに騎士が双剣を振り下ろして着地する。そして俺の剣は輝き、光の刃を纏う。
「喰らえ!!」
俺は双極の騎士めがけて背後から首筋に剣を突き立てた。
「どうだ!?」
双極の騎士はまだ動こうと剣が刺さったまま立ち上がった。俺は振り落とされて仰向けに倒れる。双極の騎士はフラフラとこっちに振り向く。首筋に突き立てた剣は貫通して光の刃の切先が喉元から突き出ている。
「クソ……マジか……」
俺が絶望して歯を食いしばったその時、双極の騎士は崩れる様に倒れて光の粒子となって霧散した。騎士が消えた後には光を纏った傭兵の片手剣が落ちていたがすぐにその光も消えてただの剣に戻った。
「はは……あははは……ほらな、やったぜ……」
俺は気が抜けて大の字に寝転んだ。シルヴィスが駆けてくる足音がする、なんとか二人とも生き残れたな……良かった。
「大丈夫……なの!?」
シルヴィスは寝転んでる俺を泣きそうな顔で覗き込んでいる。
「ああ、お陰様でね。ごめん、あの時は反撃のチャンスだと思ったから回復より武器強化だと思ってね。ほら、かけてくれてる命の泉の持続回復効果もあったから、なんとかなるかなって……あ、癒し貰える? 流石に痛くて……」
シルヴィスはプイと横を向いて俯いてしまった。
「えっと……シルヴィスさん?」
「……知りません」
「え?」
「命の泉の……効果がまだあるのだから……別に要らない……でしょ」
シルヴィスは顔を背けたまま怒り声で呟いた……うそ、マジおこなの?
俺は身体を起こしてシルヴィスの隣に座った。
「ごめん……もう無茶しないからさ……いや、またこんな事があったら分かんないけど……なるべく……善処します……」
俺が平謝りしているとシルヴィスからクスクスと含み笑いが聞こえてきた。
「冗談……でも……私のせいもあるから……ごめんなさい……」
そう言うと癒しをかけてくれた。さてと、もう見えない壁は無くなってると思うんだけど……。
"よく此処まで辿り着きましたね……貴方たちに話があります、わたくしの元に来てください……"
突然女性の声が響き渡った、辺りを見渡すが誰もいない。シルヴィスも同じようにキョロキョロしているので俺だけに聞こえたんじゃないな。
すると、奥の扉が開いた。これは中に入れって事か?
「行ってみよう……」