第10話『VS双極の騎士アルドメイヤー戦・前編』
――双極の騎士アルドメイヤー。白銀の騎士アルドと暗銀の騎士メイヤーの双子の騎士で常に2人で行動しているという設定だ。色違いの同じ鎧、同じ武器を持つ。この城砦への侵入者の力量を試すかの如く立ちはだかる……攻略ウィキより、ってね。
このゲーム『灰と暗銀の城砦』でプレイヤーが行き詰まるボスの代表格と言われている。まず、2体同時に戦わなくてはいけないこと、そしてどちらもほぼ同じような能力でダッシュが速くて離れても距離を詰められやすいから逃げ回ったりするのが困難だ。さらにシンクロするような動きで挟み撃ちにしてくる。なんとか分断して1対1に持ち込むのがポイントだと攻略動画では言ってたな……
「シルヴィス、何でもいいから補助魔法をかけて。あと回復魔法は小まめにしなくていいから、危ないって思ったら頂戴。君にヘイトが向いたらヤバいから」
「よく……分からないけど……言われたとおりにやってみる……」
シルヴィスは胸の前で祈るように手を組み軽く膝まづいて囁くように何かを呟くと、俺の身体が淡く光り出した。
「護り……羽衣……命の泉……」
(防御力向上、重量軽減、持続回復か……助かるぜ)
俺はシルヴィスの方を見て親指を立てた。シルヴィスは小さく頷く。
「さて、攻略動画では……っと」
とりあえず開幕は2対で左右から突進してくるので右に思いっきり走って壁際まで寄ると――
左右同時に突進しようとした騎士2体は向かって左側の白銀が柱に引っ掛かって突進できないので右側の暗銀だけがこっちに突進してくるからそれを何とか躱す。
俺は突進してきた暗銀の突きを躱すと横に回り込んで斬りつける。俺の攻撃で怯んでいるので更に斬りつけようとしたが、深追いせず間合いを取った。するとそこに白銀が突進して剣を突き入れていた。もう一撃斬りに行ってたらやられている所だ。危ねぇ危ねぇ……。
態勢を立て直した暗銀が突進の構えを取る。暗銀に的を絞るために白銀からは死角で暗銀にはこちらが見える場所に位置取りする。再び暗銀がこっちに向かって突進してくるのでそれを横飛びで躱して斬りつける。無理はせずまた後ろに飛び退くと俺が居た場所目がけて白銀が突進して剣を突く。そしてまた白銀は柱で突進できなくて暗銀がこっちに来るような位置取りで……。
暗銀は態勢を立て直して突進する構えを取った。よし、また避けて……
「!?」
その時視界にシルヴィスが入った。暗銀の突進する直線上にシルヴィスがいる。
(しまった!)
俺はシルヴィスから逸らすように移動した。すると白銀もこちらを見つけて構えを取った。2体の騎士が俺目がけて突進してくる。白銀の方が近かったので先に間合いを詰めてくる。両手剣の激しい突きを横飛びで躱す。間髪入れず交差するように暗銀の突進突きが俺を襲う。なんとか身体をひねって刃の直撃は避けたけど左肩に掠っただけで激しい衝撃と痛みに襲われて地面に転がる。なんとか立ち上がり柱の陰に移動した。
「あ……危っぶねぇ!」
俺はなんとか息を整える。傷は……あれ、痛みが引いていく。腕も動く……そうか、シルヴィスのかけてくれた持続回復魔法か……。
「シルヴィスは……」
良かった、別の場所に移動してくれてる。でも、シルヴィスの位置も確認しながらは辛い。シルヴィスの位置を確認している隙に騎士たちに間合いを詰められていた。
白銀が剣を上段に構えて垂直に振り下ろしながら踏み込んでくる。俺は慌てて後ろに飛び退いて躱す。続けて暗銀が時間差でジャンプしながら剣を振り下ろしてくる。俺は避けきれずにそれを剣で受けた。
「がはぁっ!?」
凄まじい衝撃で弾き飛ばされて俺は背中から地面に倒れた。更に起き上がろうとするところに白銀の突進突きを受けた。奴の剣は鎧を貫通していないが激しい突きを受けて後ろに転がった。
「ぐぅぅ……い……痛てぇ……」
持続回復魔法で徐々に痛みは和らいでいるけど正直今のダメージはヤバい。次に同じのが来たら耐える自信はない。
「……癒し」
俺の身体から痛みがスッと消えていく。シルヴィスが回復魔法を使ってくれたのか……。と、一瞬安心したのも束の間、今度は白銀が高くジャンプして両手剣を振り下ろしてきた。それを横に飛び退いて躱す、しかしそこに暗銀の突進突きが来る。
「同じ手でやられるかよ!」
俺は突進突きが来るのを警戒していたので更に横に飛び退いて躱し、カウンターの突きをお見舞いする。だが、攻撃が浅かったのか暗銀は俺の突きに合わせて剣を振り回した。俺は横腹に剣を喰らい、弾きとばされた。
「うごぉ……げほ……」
「……癒し」
すかさずシルヴィスの回復魔法で痛みが瞬時に消えた。ヒーラーが居るって心強いな。暗銀は俺と少し間合いを取って俺の動きを警戒している。白銀は……あれ? 別の方向を向いている――
「ヤバい!」
白銀はシルヴィスに気が付いた様子で彼女の方へ向っている。攻撃しなくても回復魔法を使っていると敵のヘイトが向く――標的になるというシステムだ。
白銀がシルヴィスに向かって突進突きを放った。
「逃げろぉ!」
シルヴィスは避けずにまっすぐ白銀の方を向きながら両手を重ねて身体の前に突き出した。
「……障壁」
白銀はシルヴィスの手前で見えない壁に激突し、よろめいた。
「大丈夫……気にせず……戦って」
シルヴィスは物理障壁も使えるのか……灰被りってゲームでは戦うこと無いからなあ。
「とりあえずこいつ倒すまでは何とか頼むぜ……」
この暗銀さえ倒せば勝ちの目は見えてくる。しかし、伯爵の紅曲刀と違って魔法効果とか無い普通の剣だからな……。
「せめて武器強化のアイテムでも持ってたらな……」
このゲームには魔法効果の無い武器に一時的に魔法効果を与えるアイテムや魔法がある。場合によれば元から魔法効果のある武器より強力になることも……。
「無い物の事言っててもしょうがないよな……」
そんなことを考えていると、暗銀が突進してくる。躱して斬りつけようとした時、突進を途中で止めて急停止する。しかし俺はもう回避行動をとっていたので止まらない。暗銀はジャンプして剣を振り下ろしてきた。
「クソ、フェイントかよ!?」
俺は何とか剣で防御したが強烈な一撃に後ろへ弾き飛ばされた。地面で頭を打ったからフラフラする……。
「……癒し」
シルヴィスは俺にまた回復魔法をかけてくれた……が、その時シルヴィスを狙っていた白銀が突進突きを見舞う。このタイミングでは障壁の魔法は間に合わない。俺はなりふり構わずシルヴィスの元へ走った。
「避けろぉ!」
シルヴィスは障壁を使おうとしたが間に合いそうにない……俺はシルヴィスを突き飛ばした。
「きゃっ!?」
シルヴィスは小さい悲鳴を上げて転倒した。そして俺にはシルヴィスを狙っていた突進突きが命中した。直撃じゃないけど……白銀の両手剣は俺の鎧の左脇腹をえぐり、身体に食い込んでいた。
「げはっ!」
俺はもう何かのスイッチが入ったのか痛みよりもこいつを倒すという事で頭がいっぱいだった。キレてるというより妙に冷静でどこか他人事の様にも思えた。俺は脇腹に食い込んでる剣を左腕で挟んで抜けないようにしてから右手の剣で白銀を突いた。一撃、二撃、三撃……白銀は剣を抜こうとするが、俺は必死で抑えた。
「やめ……て! 癒……」
俺は思い出した、確か神聖魔法にも武器強化魔法があった事を。
「武器……強化……武器強化を!」
「っ!? ……剣の加護」
シルヴィスが祈ると俺の傭兵の片手剣が激しく輝き、光の刃となった。俺はそれを白銀の顔めがけて突き入れた。堅い兜をいとも簡単に貫き、「白銀の騎士」は地面に倒れた。
そして俺の剣を纏った光は消えて普通の剣に戻った。この魔法は威力は高いが効果時間がかなり短いのでゲームだと使いどころが難しいんだよな、でもシルヴィスがかけてくれたのでなんとかいいタイミングで決まった……。
「……癒し!……癒し!」
シルヴィスは必死で回復魔法を使ってくれて俺の傷はすぐに治った。すぐに立ち上がりシルヴィスの側に駆け寄った。まだ暗銀の騎士が残っている……戦いはこれからだ。
「突き飛ばしてごめん……痛くなかった?」
シルヴィスは涙目で俺を睨む。
「無茶は……やめて……」
「ごめん……説教は後で聞くから、まだもう一体残ってる」
暗銀の騎士はゆっくりと倒れた白銀の騎士に近寄り膝まづいて手を触れた。そうすると白銀の騎士は蒼い炎に包まれて光の粒子となって宙を舞う。
(あ、そうだ……どちらか片方倒すと第2形態になるんだった……)
「この……気配は……恐ろしい……気を……付けて……」
シルヴィスは震えている。俺はシルヴィスの手を握った。
「大丈夫、これだけやれたんだ。俺たちなら勝てるよ……あともう少し頑張れる?」
「……うん」
シルヴィスは大きく頷くと握っていた手を放して一歩下がり、祈りのポーズをとった。
「来るぞ……気を付けて」