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第1話『異世界転生したんだけど俺は……』

――とにかく、覚えているのは眩しいヘッドライトと凄いブレーキ音だった。そこから真っ暗になり記憶が無かった。


えっと、俺は……ごく普通の男子高校生だった。「ごく普通」というのはもちろん俺の主観なんだけど。スポーツが出来るわけでもなく、勉強も赤点になるかならないかの所をウロウロしてる程度の学力だった。絵が描けるわけでも歌が上手いわけでもない……好きなものといえば親父の影響でやってたTVゲームくらいかな。ゲームか、そういえば途中のやつがあったな……結構手ごわいから攻略動画見まくって予習はバッチリ。さあこれからってとこだったんだけど……俺ってこれ、死んだの? 周り真っ暗だし、天国とか地獄とかそういうのってやっぱり無いのかね……。


そう思って辺りを見回すと小さな光が見えた。ひょっとして出口とか? 俺は他にどうしようもないので小さな光を目指して歩いた。光がどんどん大きく眩しくなるので近づいているのが分かる。どんどん光に向かって歩き、やがて眩しい光の中に入って行った。目が痛くて開けてられない。そしてめまいの様な感覚が来て、立ってるのか寝てるのか分からなくなり気を失った。




――目が覚めると俺は何やら遺跡のような場所に立っていた。空は青く昼間であることが分かる。草原に石段や石柱が点々として崩れかけた石造りの建物があった。なんか見憶えがある気がするけど、まあいわゆるヨーロッパとかにありそうな教会の遺跡っぽい場所だからテレビとかで観たんだろと思った。


辺りに誰か居ないか見渡すと、少し離れた所に人が立っていた。このヨーロッパの遺跡っぽい場所にぴったりの甲冑を着た人だった。これは夢なのかそれともあの世ってやつなのか分からないけど、とにかく話しかけてみることにした。


「あの、すみません。ここってなんていう場所なんですか?」


甲冑の人は全く反応がなくこちらを振り向いてもくれない。やっぱりここは外国なのか。言葉が通じなくても反応くらいないのかねえ……そう思って甲冑の人の前に回り込んで顔を見た。


「う、うわあああああ!」


甲冑を着た人の顔はまるでホラー映画のゾンビのような顔をしていた。俺は驚いて走り出し近くの遺跡か廃墟っぽい建物跡に逃げ込んだ。物陰からそーっと甲冑ゾンビを見ると、さっきと全く変わらない位置で立ったままだった。


とりあえずひと息ついて改めて自分の格好を確認すると、どうやら甲冑ゾンビと同じような格好をしているように見えた。「まさか……」と思い近くに水の入った桶があったので覗いてみた……なんてことだ、俺はあの甲冑ゾンビと同じ姿だった。


あまりのショックにまた「うわああああ!」と叫んだ。ひとしきりショックを受けてからなんとか落ち着いて、俺は辺りを歩いてみる。何でかというと意識が戻ってからずっと抱いている既視感があったからだ。


そう、俺はここを知ってる。こっちには階段が……あった。そしてそれを登ると行き止まりで古い樽が2つ……置いてある。で、こっちに行くと狭い通路があって、宝箱が3つ……あるし!


宝箱を開けてみる。中身はたしか1つ目が使い捨ての回復薬、2つ目がショートソード、3つ目が油壺(あぶらつぼ)……全部合ってる……。


答えが導き出されてしまった。ここはゲーム『灰と暗銀(あんぎん)城砦(じょうさい)』の世界だ。そして俺は、スタート地点を出て最初に戦うことになる"亡者の戦士"という、いわゆるザコ敵キャラに転生した……ということだ。


「マジか……なんで……」


こういうゲーム世界に転生とかよく小説やアニメとかであるけどさ、大体はプレイヤーだったり、せめて村人とか悪役キャラとかさ、そういうのじゃない? 


「なんでゲームの最初に出てくるザコキャラなんだよ!」 


そうやってひとしきり独り言で愚痴っていたが、「もうどうにでもなれ」という感じで開き直ってきたので、気を取り直して歩き回ってみた。元々持っていた武器は亡者の戦士の折れかけたボロボロの剣だったので宝箱に入っていたショートソードを貰う事にした。プレイヤーにあたる人間が来るかどうかは知らないけど、早いもん勝ちだよね? 回復薬も貰ったけど効くのかこれ……。油壷は武器にも道具にも使えて便利なので持っていこう。


とりあえず確認すべきは、プレイヤーキャラが回復や休養できるキャンプ地点があるかどうかだ。小さな泉の隣に雨宿りできるくらいのボロボロの小さな小屋が……あるな。本当にゲームの通りなんだな。


ゲーム『灰と暗銀の城砦』はダークファンタジーな世界観のアクションRPGだ。プレイヤーは探索者として滅びた城砦都市を冒険して何処かに眠る秘宝を探すというものだ。城砦都市各地にこういう「(みそぎ)の泉」という泉とセットで小屋とか部屋があってそこで回復したりアイテム管理したりできる。そしてそこには「灰被り(サンドリヨン)」というNPCが居て回復とかしてくれるんだけど……。


小屋の中をそっと覗いてみた……灰のようなもので汚れたぼろぼろのローブを着た人がいるはず……。


(うわ……本当に居たよ)


ゲームで灰被り(サンドリヨン)は会話するキャラじゃないんだよな。話しかけたら「回復する」「セーブする」みたいなコマンドが出るだけのNPC。でも今俺、敵キャラじゃん? ここって一応聖なる場所って設定だから入りにくいよな、イメージ的に。


とりあえず俺は禊の泉をスルーして、攻略動画を思い出しながら集められるだけ最強装備を集めてみることにした。だってもしプレイヤーみたいなのが来たら俺ザコキャラだし、真っ先に殺されるし。先にゲットしておけば身を護れるからな。


こうして俺はゲームそっくりの世界でザコ敵キャラとして生きていくことになった。亡者だから生きてるのか何なのかよくわからないけど。


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