ある少年の独白(side萩里秋司)②
ブックマーク、評価ありがとうございます!
前回の続きです!
気がつけばいつもより長くなってしまいました。
今回も暗いですが……それもこの回まで!
後はいつメンがわちゃわちゃする日常に戻ります!
麗亜さんと付き合うようになってから僕の毎日は劇的に変わった。彼女と過ごす時間はどんな些細な事であっても楽しかったし、隣で僕に微笑んでくれる事が何より幸せだった。
初めての彼女という事もあって、この時僕はかなり浮かれていたんだろう。
だから違和感に気付かなかったんだ。
学校では昼ご飯を一緒に取ることはあっても放課後デートはしないし、LIME等による連絡もあまりしない。休日のデートだって月に2回あれば多い方。何より彼女の目が本当は僕に向いていなかったという事に。
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それは偶然だった。
放課後、帰宅途中に偶然、学校に忘れ物をした事を思い出した。
別に絶対に必要なものでもなかったので明日持ち帰るのでも良かったんだけど、その時は何故かそれを取りに学校まで戻る事を選択したんだ。
学校にたどり着き部活動に参加する人たちとすれ違いながら教室の前へと辿り着くと、中から話し声が聞こえてきた。
いきなり入るのは気不味くて、悪いとは思いつつ教室の中を窺う。どうやらその声はスマホで誰かと話しているようで、そして…それは最近良く聞く、僕にとって大切な人のものだった。
「………全然上手くいかないわ。あの2人は全然気にしてない……てか総堂とすら接点がないんだもん。これじゃあの陰キャと付き合ってる意味ないし。……え?キスとかしたのかって?ありえないわー!あんなのと出来るわけないじゃん」
あはは。と彼女は電話口の相手と親しげに会話をしている。
僕は僕にとって大切な、僕の好きなその声で理解出来ないナニカを発する扉の向こうの現実を受け入れる事が出来ないでいた。
何かの間違いだ、と現実を受け入れる事を拒否し、この場所を離れようとした時。
ガタッ
神様のイタズラか、それとも憐れなピエロが動揺した事による必然か…立ち上がる際、僕は足を教室の扉へとぶつけて音を出してしまったのである。
「っ!だれ!?」
そしてその音を彼女が見逃してくれる筈もなく、僕は観念し、扉を開け教室へと入っていったのである。
「……萩里君。あ、えっとね?さっきのは・・・」
彼女はスマホの会話を切り、僕に何かを伝えようとするが
「……麗亜さん。陰キャって僕のこと?付き合ってる意味がないって……好きって言ってくれたのは…」
彼女の言葉を遮り僕は今聞いたのが聞き間違いだと、または勘違いなんだと…そう言ってくれる事を信じて必死に彼女へと喋りかける。しかし…
チッ
彼女から返ってきたのは欲しかった否定の言葉でもなく、さりとて肯定の言葉ですらなかった。
その行為に驚き、現実を知るのが怖くてそらしていた顔を初めて彼女の方に僕は顔を向けた。
彼女はいつもの笑顔ではなく、さりとて怒っているのでもない。ただただ面倒臭いそして僕のことを完全に見下している……そんな顔をしていた。
「…はぁ。まさか陰キャに聞かれるなんてサイアク。
でももういいか。これ以上一緒にいても成果は出ないし。萩里君、私たち別れましょ?」
「…な、何を言ってるの?なんでそんな事を…」
彼女はさっきまでとは違う、つい数時間前まで見せてくれていたよく知っている…そして僕が好きだったその笑顔を向けてきた。
けれどその笑顔には今までのみんなが好感を持つようなものではなくそれとは似ても似つかない正反対である負の感情が込められていた。
「わっかんないかなー?君は役立たずだって言ってんの!
今日ここで別れる事になるけど、でも君は良かったじゃない。この私と付き合えたんだから。良い夢みれた事に感謝してほしいわね。……まあ私には何のメリットもなかったんだけど」
そうして麗亜さんはため息をつく。
「ど、どうしてそんな…?」
余りに唐突な現実に脳の処理が追いつかず、何に対してかわからない疑問を投げかける。
「私が本気であんたみたいな陰キャ好きになると思ったの?ウケる!あんたはあのクソ女達を悔しがらせるための道具。ホントは総堂が良かったんだけどね。どうしてもガードが固くて近寄れなかったのよ。
だったら総堂と仲が良かったアンタを使って
やろうと思ったのに。なのにアイツら・・・!!」
最初は楽しそうにその表情を歪めて喋っていた麗亜さんだったけれど、話をするうちに感情が昂ってきたのか
「アイツらは私の事を気にも止めない!!涼しげな顔をして私が努力して手に入れたモノを奪っていく!運動だってテストの成績だって先生やみんなの評価だって!!!
いつもは私に頼ってくる癖に!本当に大切な場面では有栖川さん有栖川さん、蓮名さん蓮名さん。
何!!何で私じゃいけないわけ!!?
納得いかない納得いかない納得いかない……なっっっっとくいかない!!!」
そう彼女は叫び終えた後、肩で息をしながら僕を睨みつけた。…その姿はまるで癇癪を起こした子供の様に思えた。
「……なに?あんたごときまで私を馬鹿にするの?そんな目で……そんな目で私をみるな!!」
そんな感想を見抜いたのか、彼女は僕に怒鳴りながら詰め寄ってくる。
「…そ、そんなんじゃないよ。ただ…」
僕はなんとか彼女を落ち着かせようと言葉を探すが、彼女はそんな僕にお構いなく胸ぐらを掴むと
「ふん!どうだか。とにかくアンタとはこれで終わり。これから一切私に関わってこないで!いいわね!!」
そう彼女は捲し立てると僕を突き飛ばし教室を後にした。彼女が出て行った後に残ったのは先程までの現実を受け止め切れない僕と、重く静かな空気が充満する夕焼けにひどく綺麗に照らされた教室だけだった。
そしてその次の日、学校へと向かうと僕は浮気癖のある最低な男へと成り下がっていたのだった。
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4時間目の終了のチャイムが鳴り響く。
それと同時に教室には生徒達の醸し出す楽しげな音達に包まれていく。あの時とは何もかも違ういつも通りの教室に安堵する気持ちと自分1人だけ置いてかれている…そんなどこか寂しげな相反する気持ちが押し寄せてくる。
………おかしいな?1人でいる事には慣れているはずなのに。
そんな人知れず葛藤する僕の前に1人のクラスメイトーーー青木君がやってきた。
「萩里。総堂がお前に会いにやってきてるぞ」
彼がそう言いながら教室の入り口を指さす。
そのセリフを聞いて、今日のお昼は総堂君達に誘われていた事を思い出す。そして彼が指さす方へと顔を向けると、
僕が気付いた事に気付いたのか、笑顔で手を上げる総堂君と、同じように笑顔で手を振る蓮名さん、無表情の有栖川さんが立っていた。
僕は教えてくれた青木君にお礼を言って席を立つ。
……きっと噂を耳にしたんだろう。
彼の事を大事にしている2人が総堂君が不快に思うだろう噂をシャットアウトしていた事は簡単に想像がつく。しかし当然だろうけどそれをずっと続けていくのはいくらあの2人でも無理だったみたいだ。……それでもこれだけの時間やり遂げたのはすごい事なんだけど。
そう考えながら彼らへ向かって歩き出す。
しかしもうすぐ合流というところで1人の女生徒が総堂君達に声をかけた。
「あ、あの!私も一緒にいいですか!?」
そう声をかけてきたのは幼馴染の奈緒。
思った以上に大きな声を出してしまって恥ずかしいのか、勇気を出して声を掛けた事に対してかはたまた両方か、その顔はかつてないほど真剣だけれど、少し赤みがさしている。
それに総堂君達(主に蓮名さんだけど)が了承している所に僕は彼らのところに辿り着く。
「よ!おつかれ。んじゃ早速飯に行こうぜ」
そう笑顔で呟く総堂君に3人の美少女達はそれぞれの表情で頷き返す。
僕もそれに了承をしてから食事をとるであろう中庭へとみんなと一緒に歩き始めるのだった。
ちなみに璃帆は他人に興味がなく噂を本当に知らなかった。耳に入れない様行動していたのはリアのみです。
ただ2人を不快にさせない様周りが配慮していた事実もあってある意味では璃帆は貢献していたといっても間違いではないかも……。
2人がシャットアウトしていたというのは萩里君の想像の話です。
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