プロローグ
『……ねぇ?知ってる??川次さん彼氏に浮気された上に、酷い振られ方したんだって』
それは晴天に恵まれた、いつもと変わらない日常の中で聞こえた生徒にとっては面白おかしいひとつの噂話だった。
廊下を歩いていた俺はふとその噂話に対して思考を巡らし……
「……川次、といえば雪斗さんのご友人の方の彼女では?」
、かけたが直ぐに右隣を歩く少女の発言によって現実に戻る。
ーーー有栖川璃帆。
濡烏のような美しい髪を真っ直ぐ腰まで伸ばし、目元は少し垂れているが、それでも彼女の性質か、知的な雰囲気を醸し出してなお、可愛らしいという相反する魅力を持つ、まさしく大和撫子という言葉が似合う美少女である。
彼女の家は政界では昔、時の総理大臣より発言力があるのでは?と言われる程の権力を保持し、引退してもなお、その界隈に多大な影響力を持つ祖父を持つ。さらに彼女の父も将来は総理大臣確実と言われる程の政治一家である。
そんな彼女が頬に指を当て、少し考えるように言葉を発した。
極端に人に興味のない彼女が俺の友人を覚えている事には少々驚いたが、この分だと名前自体は覚えてないんだろうな、と苦笑いが溢れる。
そして彼女の発言に俺を挟んで彼女の反対側ー左側を歩く少女が反応した。
「あー!秋司君だね!確かにあの川次ちゃんと付き合ってるって一時期話題になってたね!」
ーーー蓮名リア。
薄い色素のウェーブのかかった綺麗な金色の髪を肩口で揃え、目元は猫のように少しつり上がっているが、それが逆に愛嬌を持たせており、彼女を見た人間にははつらつとした印象を与える、これまたかなりの美少女である。
日本とイギリスの両親を持ち、その両親含め親族は世界でも有数な大企業の経営者であり、本人もその優秀さをしっかりと受け継いでいる。
「そうだな。しかしあまりいい噂では無さそうだな。・・・よし」
「雪斗さん?」
「雪にゃん?」
2人は俺が突然歩く方向を変えたのを怪訝に思ったのか、俺の名前を呼び止めたが、俺はそれに手を挙げて答えた後、噂をしていた彼女達に向かっていった。




