表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/25

能力=魅了(広範囲)

「惑わされるなっ!!


あのような卑劣な勇者の戯言ざれごと

心を乱されてはならんっ!!


奴の策は既に見抜いている

すべてはお見通しだ


奴は、既に死した

我が同胞達の亡骸なきがら

死霊術で操っているに過ぎないのだっ!


奴こそはネクロンマンサーの勇者に

他ならんっ!!」


魔王軍進攻部隊の隊長は

声を張り上げ、そう檄を飛ばす。


それが隊長の出した答えだった。


結論としては、仲間は見捨てる。

それは間違いない。


だが、そのまま

仲間を見殺しにして戦わせる、

そういうことにしてしまっては、

部隊の士気にもかかわって来る。


例えそれが、嘘ではあっても、

大義名分としては

肉の盾にされた仲間は

既に死んでいるという

言い訳をしなくてはならなかった。


「随分と

回りくどいことをするものだ


ハッキリと見殺しにすると

宣言してしまえばいいのに


でも確かに僕の発言を

信用する義理は

向こうさんには無いからねえ」


魔族ですら

味方の士気を気にするというのに、

女神アリエーネの言葉通り、

この勇者にはそんな人間性の欠片も無い。


「それよりも何よりも

見殺しにすると決断してくれて

むしろ僕は嬉しいよ……


同族同士の殺し合いを見るのは

やはりゾクゾクするからねえ」


-


魔王軍兵士達を『魅了』で操った

肉の盾によって、

魔王軍の遠距離、中距離攻撃は

ほぼすべて完封されていた。


その為、敵兵達は

接近戦を余儀なくされたが、


『盾』と言いつつも、

彼等は同時に攻撃も行って来るので、


幾層にも重ねられた

肉の盾を掻い潜って、

勇者まで辿り着くことですら

容易ではなかった。



息絶えて使えなくなった肉の盾は

まさしく使い捨てて行く。


代わりとなる者が

いくらでも周囲にいるので

いつでも補充することが出来る。


敵がどれほどの大軍勢であろうとも

そのすべての者達が

勇者の肉の盾となってくれるのだ。


倫理観さえ問われなければ、

これ程の必勝法もそうはないだろう。



敵からしてみれば、後は

広範囲に及ぶ、周囲を巻き込んだ

魔法攻撃ぐらいしか打つ手は無い。


しかし、それも

すでに織り込み済みであった勇者は


『魅了』の効果を広げ、

敵魔法士達のそばに居る兵を操り、


広範囲魔法を使いそうな者達を

次々と殺害させる。


仕舞いには、

そのまま『魅了』の範囲を更に広げ、

その効果で敵同士を戦わせた。


いつの間にか、魔王の大軍勢は

仲間同士、味方同士で

同族殺しを続けるだけの集団となり果てた。


幾重にもなる肉の盾に守られた勇者は、

魔王軍の同族同士が殺し合う

その様子をただじっと眺めているだけ。


「まるで給油メーターみたいに、

Lv.がドンドン上がっていくねえ


この分だとすぐにでも

次のランクの能力が使えそうだ」



今回、勇者がその気になれば、

ここに居た大軍勢すべてを『魅了』で

自らの手勢とすることも出来ただろう。


だが、勇者はそれをしなかった。

というよりは、それを許さなかった。


敵には、即、死あるのみ。


この勇者からすれば、今回の転生は

自分と、この世界のすべての命との殺し合い、

ただそれだけでしかない。



左腕を奪われ

呆然としていた女兵士が、

我に返って気づくと


そこにはただ山のような屍が

築かれているだけだった。


生き残っている仲間もほとんどいない。


女兵士は、左腕と仲間と

そして健常な心を失って、

その対価として命を拾ったのか。


この異世界にあるすべての命を

殲滅せんとする勇者が、

彼女を見逃していたのは

幸運なことだったのかもしれない。


しかし、ここで死んでおいて楽になるか、

この先も生き続けて地獄を見るか、

どちらが彼女にとって

真の幸運だったのかは分からない……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ