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転生の女神・アリエーネ管理官

転生の間に鳴り響く警報。


  ――なにっ!?


転生の間どころか、

ここ転生管理センターのすべての部屋が、

警告システムの発動により

赤く光り点滅を繰り返している。


「これは一体どうなっているのっ!?」


転生の女神であり、

センターの管理官であるアリエーネ。


「転生システムが

何者かによってハッキングされましたっ!!」


彼女の部下が慌ただしく

現状を報告する。


「千里眼、画面出してっ!」


「はいっ!」


千里眼を使った映像転送によって

巨大モニターに映し出される男の姿。


「あ、あの子は……」


二十歳前後の若者であろう

男の姿にアリエーネは戦慄する。


この転生の間に来たにも関わらず、

人間性に多大な問題がありとして、

転生を見送られた一人の若者。


そう判断を下したのは

他ならぬアリエーネ自身であった。


「あの子だけは、

あの子だけはダメ……


あの子は、例えどんな世界であっても

人間として転生させてはいけない存在」


転送システムのコアに触れる男の姿、

それを見たアリエーネは、

その目的を察し瞬時に指示を出す。


「システムを強制シャットダウンしてっ!」


だが、時すでに遅し、

返って来たのは絶望だけ。


「ダメですっ!」


「自身をシステムにコネクトさせて、

ここで管理している

能力、スキルのほぼすべてをダウンロード!

インストールされましたっ!」


アリエーネが知る限り、

最も極悪な人間に

全知全能にも等しい能力を

奪われたということになる。


駆けつけた警備班が

取り押さえようとするが、

犯人は軽々とそれをかわし、

逃走し続ける。


「このまま、

異世界に逃げる気だわっ!

転送システムをシャットダウンしてっ!」


「ダメですっ!

コントロールを奪われていますっ!」



男には、転生システムを使って、

まんまと異世界に逃げられてしまう。


「彼の転生先はっ!?」


「今、追跡していますっ!」


「あの子は、

人間の姿をした完全なる悪意そのものよ


今までも、

過去の勇者の中には


破壊者として


すべての命をないがしろにして、

神々に逆らった者や

多数の異世界を滅ぼした者はいたけど


それでも、

彼等には彼等なりの行動理念や

人間性の欠片はあったわ


だけど、彼には

そんな物すら微塵も無い


完璧なる快楽殺戮者


完全なる悪意、邪悪、

闇、深淵、虚無……


そう言ったもの達が

一つにまとまって

具現化したような存在……」


転生の女神として

数々の勇者を送り出して来たアリエーネ。


そんな彼女ですら嫌悪する存在。



「場所、出ましたっ!」


「こ、これはっ……」


男の転送先。


それは、

魔王が世界の七割近い領土を支配する

圧倒的に魔王優位である異世界。


この先の展開を理解したアリエーネは

再び絶望する。


「転生先のクラスは……

勇者ですっ!!」


「そうでしょうね……

あの世界で破壊と殺戮を楽しむなら、

勇者を選ぶしかないでしょうね……」


「最悪ね、

神々の遣いである勇者が、

よりにもよってあの子だなんて……」


だが百戦錬磨のアリエーネ、

すでに起こってしまったことを

嘆いてばかりはいられない。


すぐにでも

やらなければならないことがある。


「データのバックアップを急いでっ!」




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