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二話 吸血鬼学の授業①


 翌日、俺は神父様との約束通りに教壇に立った。教壇とは言っても、生徒は十人しか居ない。クローゼ村は生徒が少ないので、七歳から十五歳までの子供達は全員同じ教室で勉強している。

 ちなみに神父様は別に仕事があるらしく、一番後ろの席で何やら書類仕事をしている。

 今までも彼が忙しい時は授業やテストを代行していたので、特に珍しい光景ではない。


「では、今日は『吸血鬼学』の授業を行います。中等生の皆にとっては既に習った内容もあるけど、復習だと思って聞くように」

「はーい! ルネ、レクスお兄ちゃんのお話なら頑張って真面目に聞くよぉ!」


 一番前の席に座るルネが、茶髪のツインテールを揺らしながら机から乗り出す勢いで手を挙げる。十歳になったばかりの彼女は勉強よりも身体を動かすのが好きな娘で、神父様も手を焼くお転婆だ。

 昔からよく一緒に遊んでいたせいか、妙に懐かれている気がする。そんな彼女の調子にやれやれと笑ってから、俺は咳払いをして授業を始めた。


「えっと、気を取り直して。まずは皆、吸血鬼のことをどれくらい知っているのかな」

「はい。吸血鬼は人間の敵です。人間を騙したり、戦争を起こしたりする高い知能と凄まじい生命力を持つ人外です」


 手を挙げて発言したのは、クラスリーダーのコールだ。癖の強い茶髪と丸眼鏡をかけている。生徒の中では最年長の十四歳の男子である。


「うん、そうだね。コールの言う通り、吸血鬼は人間の敵だ。やつらの主食は人間の血なので、俺達を牛や豚と同じように支配下に置く為に戦争を起こしているんだ」

「ねーねーお兄ちゃん。そもそも、吸血鬼ってどうして生まれてきたの?」


 またもやルネが口を挟んできた。質問する時は挙手するように、と注意しつつ俺は皆にわかるように言葉を選ぶ。


「歴史の授業で『アルジェント帝国の滅亡』は習ったかな? 今から千年前、世界にはアルジェントという国があったんだけど、この国では違法な人体実験が行われていたみたいでね。その実験で生み出されたのが吸血鬼だって言われているんだ」


 既にアルジェントという国は世界から消滅しており、その真意を確かめることは叶わない。更に、吸血鬼の発生に関してはいくつもの説があり、専門家の間ではいつも討論の火種となる。

 今日の授業でも触れるつもりはなかったのにと考えていると、案の定挙手して反論した人物が居た。


「それは違うよレクスくん! 吸血鬼は神が与えた罰であり、人間の愚かさを映す呪いなんだよ。確かにアルジェント国のせいで爆発的に増えたが、それよりも遥か昔から吸血鬼は存在していたんだ!」

「……あの、神父様。そうは言っても、教科書では実験が原因だと統一されているので」


 はいはい! と誰よりも元気に手を上げる神父様を宥める。言うまでもなく、彼は神が人間を吸血鬼に作り変えたという説を推している。

 熱意は凄いが、試験では間違いになってしまうので授業の間くらいは自重して欲しい。


「……話を戻そう。吸血鬼は大きく分けて五つの階級がある。答えられる人は居るかな?」

「はい。上から『真祖しんそ』『純血じゅんけつ』『貴族きぞく』『隷属れいぞく』『屑鬼せっき』です」


 答えたのはリタ。ショートカットの明るい茶髪に、くりくりとした目がリスのような女の子だ。

 正解、と俺は頷く。


「中等学校までの授業なら、階級を把握していれば十分なんだが。今日は俺が先生だから、もう少し詳しく解説していこうと思う」


 俺はチョークを持って、背後にある黒板にそれぞれの階級を順番に書いていく。

 吸血鬼は人間の脅威だが、その生態はとても興味深い。


「まずは真祖。真祖は全ての吸血鬼達の親、と考えれば良いかな。真祖は今までに《《六体》》確認されていて、その全てが強大な力を持っている。また、いわゆる不老不死というもので、彼らは基本的に老いることもなければ死ぬこともない」


 説明しながら、俺は黒板に書き足していく。

 この千年の間で確認された真祖。しかし、六体全てが活動しているわけではない。


「真祖は長く生きているから、時代によって名前を変えている個体も多い。だから、真祖のことは識別名で呼ぶんだ。『弟殺し』『串刺し公』『血の伯爵夫人』『黒魔術師』『霧の殺人鬼』『消える屍』……ちなみに現在、一番力がある真祖は血の伯爵夫人みたいだ。一年前までは串刺し公が活発的に動いていたみたいだけどね。消滅したっていう話は聞かないから、休眠状態になったのかもしれない」


 吸血鬼は寿命が長いせいか、活動期間と休眠期間の周期がはっきり分かれている場合が多い。

 例えば串刺し公は、十年の休眠の後の七年間、吸血鬼の頂点として君臨していた。しかし一年前からパッタリと名前を聞かなくなり、代わりに血の伯爵夫人が台頭してきている。

 黒魔術師と消える屍は既に消滅しており、弟殺しと霧の殺人鬼は行方不明。ここ三十年ほどは、串刺し公と血の伯爵夫人が交互に吸血鬼を統率している状況である。


「現在、戦況は人間が優勢だ。でも……こうして見ると、吸血鬼側は活動している真祖が少ない。もしも行方不明になっている真祖が活動を再開したら、状況は一変することが予想される。油断は禁物ってことだね」


 真祖を一体消滅させるには、核兵器が必要とも言われている。とても興味深いと思うが、この授業ではそこまで深く掘り下げなくて良いだろう。俺は次に進めることにした。


「次は純血について説明をしよう。純血は真祖の直系子孫で、多少劣るもののやはり恐ろしい力を持っている」

「うーん? でもお兄ちゃん。そんなに吸血鬼が強いなら、ルネ達はとっくに負けてるんじゃないの?」

「ルネ、質問は手を挙げるように。でも、いい質問だ。真祖と純血は、人間では太刀打ち出来ないくらいに強い。でも、数が少ないんだ。先ほど真祖は六体って言ったけど、純血も恐らく五十体くらいしか居ないと教会は推測している。だから、ニュースや新聞で見るような戦闘行為を起こしているのはほとんどが貴族以下の吸血鬼なんだ。吸血鬼、と一括にしてはいるが……貴族から下の階級は別物と考えても良いくらいだ」



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