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九話 闖入者

 ……ジェズアルドのことは気に食わないが、まあ屋敷を間借りさせて貰ってるわけだし。一回くらいは助けてあげよう。


「彼は私の隷属だよ。運動不足にならないようにお散歩していただけさ」

「なっ!?」

『まあ、そうなのですね。そういえば、クローゼ村から村人が一人消えたと伺いました。狂信者さまが隷属にされたのですね』


 うわ、本当に騙されてる。あと、ジェズアルドの顔も凄いことになっている。面白いし、ジェズアルドのことはしばらく放っておこう。彼が声を出したり動いたりしなければ、夫人もジェズアルドの存在を気にかけることはもうないだろう。

 その証拠に、夫人は完全に私だけをターゲットに認定してきた。


『狂信者さま。改めてお願いします。ダンピールや教会に手を出さないでくださいまし』

「残念だけど、それは出来ないな。今の教会は腐りきっている。神の威光をいいように利用し、私腹を肥やす人間達のねぐらでしかない」

『まあ、ひどい。可愛らしいわたくしのおもちゃ箱を、そんな風に言わないでくださいませ』

「はあ……そういうことですか」


 たまらず、と言わんばかりにジェズアルドがため息混じりに吐き捨てる。珍しいことに、今の私は恐らくジェズアルドと同じことを考えている。

 なんともおぞましいことに、夫人は教会と何らかの繋がりがある。いや、繋がりがあるなんてものではない。

 教会は彼女のおもちゃ箱……つまり、私物と化しているということだ。


『あら、狂信者さま。何か言いまして? よく聞こえませんでしたわ』

「あなたと私は全く相容れないな、って言ったのさ」

『わたくしはそうは思いませんわ。狂信者とわたくし、きっと仲良くなれます。先日申し上げた通り、本日は招待状をお持ちしましたの。直接お渡し出来なくてごめんなさい。狂信者さまのご都合がある時でいいので、ぜひわたくしのお城に来てくださいまし。極上のおもてなしをさせていただきますわ。でも……わたくしのおもちゃ箱を壊そうとしたら、その時は容赦なくお仕置きさせて頂きますので』


 それでは、ご機嫌よう。事切れたコウモリが地面に落ちると、その身体に小さな手紙が括りつけられているのが見えた。

 まさか、これが招待状か? 見なかったことにしていいかな?


「神父、忘れ物ですよ。あなた宛てなんですから、手紙だけでもちゃんと持ち帰ってください」

「げー、やだよ。いらない、あげる」

「僕だっていりません。ですが、ここにあなた宛ての手紙を残しておくのはよくないので」


 ジェズアルドがコウモリの亡骸から手紙を取り、無理矢理私の手に押し付けてきた。掌よりも一回り小さな封筒に、中身はカードだろうか。

 ご丁寧に封蝋までしてある。


「それに、何か夫人に用が出来た時にそれさえあれば会うことくらいは出来ますからね。持っていて損はないと思いますよ」

「そんなに欲しいなら、譲ってあげるけど?」

「いりません」

「頑なだね!」

「それよりも、庇って頂いてありがとうございます。隷属扱いされたのは驚きましたが」


 私が差し出す手紙には目もくれず、眼鏡を押し上げながらジェズアルドが言った。

 純血は隷属を従える側であって、隷属になることなどありえない。

 普通なら侮辱するなと殺しにきてもおかしくないのだが。ジェズアルドに気分を害した様子はない。

 ……これはこれで怪しいけれど、この違和感はひとまず置いておくことにする。


「きみがここに居るってことがバレると、私達も困るからね」

「しかし、夫人に対する宣言は完全に宣戦布告では?」

「え、そう? 心の声が漏れたかな」


 ヘラヘラ笑って誤魔化してみる。でも、さっきの会話で確信した。今の教会の醜態は、夫人が大きく関係している。

 だから、決めた。


「私の邪魔をするなら、誰であろうと罰するだけさ。兵隊達は面倒臭いけど、必ず成し遂げるとも。なぜなら、私には神の加護があるからね!」


 ジェズアルドに言われるまでもない。夫人は間違いなく敵に回るだろう。正直、教会よりも遥かに手強い相手だろう。

 でも、私の意志は変わらない。私が間違っているのなら、神が正してくれる筈だから。


「あ、でも気が変わったのなら遠慮なく言ってくれていいんだよ? なんなら、きみの『宝物』が誰にも見つからないように手助けしてあげてもいいよ」

「……はあ、やはりバレてましたか。わかりました、降参です」


 観念したように、ジェズアルドが肩をすくめた。夫人の闖入は迷惑でしかなかったが、同時に思わぬものをもたらしてくれた。

 穏やかな夜は、静かに更けていく。まるで神の息吹のような柔らかい夜風が、ジェズアルドの長い髪を揺らした。

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