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大好きだった彼女は、濡れた声で別の男の名前を呼んでいた

 ――イケナイコトほど知りたくなる。


 しかし人間の欲望がこれ程までに浅ましく、醜悪だなんて。目の前の光景と、知りたがった自分への嫌悪感でとにかく気持ちが悪い。

 気持ちが悪いのに。込み上げる吐き気に口元を手で押さえながら、それでも俺は目が離せなかった。


「はぁ……あ、ぁん」


 ほんの少しだけ開けられたドアの隙間から、聞こえてくる女の嬌声。この村が首都から離れた田舎とはいえ、宿屋の客室には必ず鍵が付いている。それなのに、どうして鍵が開いていたのか。

 熱に浮かされたように、何も考えられない。さっさと立ち去るべきであることは明らかなのに、足が動かないのだ。


「あっ、そこ……だめ、だめぇ」

「ダメじゃねぇだろ、ホントに弱いなココ」


 熱っぽく絡み合う男女の声と、断続的に軋むベッドの音。二人が何をしているかなんて明らかで、自分に他人の行為を覗き見する趣味など無い。

 これが全く知らない人物、もしくはただの知り合いだったならばすぐに見なかったことにするだろう。


 でも、駄目だ。


 彼女だけは、駄目だ。


「ライラ……どうして」


 視界が滲み、熱い涙が頬を伝う。もう零れ落ちる声を堪える余裕すらもう無かった。今すぐ部屋に押し入って、彼女に覆い被さる男を殴り飛ばしてやろうか。

 怒りと悲しみに震える両手を握り締める。彼女を支えられるように、隣りを歩けるように今までずっと努力してきたのに。

 ぎちりと左手の薬指に食い込む、銀の指輪。彼女の指にも、同じものを嵌めた筈なのに。約束したのに。


『嬉しい、嬉しいよレクス! アタシ、一人でも頑張るから。()()()なんて全部ブッ倒して、絶対に平和な世界にするから』

『違うよ、ライラ。二人で頑張るんだ。俺にはきみのように特別な才能なんかないけど、勉強だけは得意だから。これから頑張って勉強して、首都の大学に行って研究者になるよ。最前線で戦うことになるきみを、少しでも支えられるように』

『本当!? ありがとうレクス! 指輪、大切にするから』

『一人前になったら結婚しよう。必ず迎えに行くから、待ってて』


 思い出されるのは五年前、別れる間際の彼女だ。子供のように泣きじゃくって喜んでくれたのに。どうして。


「ああ、ヴィクトル! んっ、そんな奥ばっか……だめ、だめぇ!」

「本当に駄目なら、止めるか?」

「いやぁ……やだぁ、やめないで。もっと……欲しいの、もっと」


 どうして、大好きな婚約者は別の男を嬉々として受け入れているのか。熱と欲に濡れた声で、知らない名前を呼んでいるのか。


 ああ、神よ。なぜですか。


 なぜライラは、俺のことを裏切ったのですか――

不定期更新です。

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