春の日の暇つぶし
「ねえ、サッちん。私今、すごぉーく暇なんだけど」
「でしょうね。見ればわかるって。──あと、ここに来て新しいあだ名発明すんな」
「つうわけで……めちゃくちゃどーでもいい話していい?」
「おう、しなさいしなさい。好きなだけ喋るといいよ」
「じゃあじゃあ、御厨さんのことどう思う? ほら、同じクラスの」
「唐突だなぁ。て言うか、どう思うって?」
「だから、どんなイメージかってこと。ほら、あるじゃん? 『この人○○っぽい』とかさぁ」
「あー。うーん、御厨さんねぇ……あ」
「おっ、なんか出た?」
「御厨さんはあれだ。──妹と弟がいそう」
「わかる! あれは絶対いるね。どっちかだけじゃなくて、確実に両方いるよ。面倒見よさそうだもん」
「でしょ? たぶん、共働きの両親の代わりに妹と弟の面倒見つつ家事とかしてあげてるね。あの感じは」
「目に浮かぶわー。毎日晩御飯とか作ってあげてそうだもん。ええ娘やなぁ、御厨さん」
「いや、全部私の妄想だからね?」
「いいねいいねー。こんな感じでどんどん妄想してくれたまえ。──てことで、次は……五百旗頭さん。五百旗頭さんのイメージはどんな感じ?」
「ああ、弓道部の娘だっけ。うーんとねー……。──あ、わかった。五百旗頭さんは、すごくマイナーなバンドの曲聴いてそう」
「ぽい! すごくそれっぽい! だって髪型アシメだし、孤高な感じするし! あれだわ、イヤホンじゃなくてヘッドホンで音楽聴くタイプだわ」
「だね。でもなんとなく『ザ・サブカル』なバンドじゃないかな。どっちかって言うとエモい感じのJロックとか好きそう。クールそうに見えて、ちょっとアツい人っぼいし」
「多くは語らないけど的を射たこと言う的な? 弓道部だけに」
「……ん?」
「……ごめん、スルーしていいよ」
「ん?」
「スルーしてってば! その真顔やめて!」
「はいはい。──で、次は誰?」
「おっ、お主さては、意外と楽しんでおるな? じゃあねー、次のお題は……八月一日さん! 学級委員に立候補してた!」
「これは簡単だね。もう整ったわ。八月一日さんは──めちゃくちゃ大富豪が強そう」
「そ──そう来たかあ〜。でも何故かすごくわかる。わかるよー」
「勉強とか得意そうだからね。全国のローカルルールを網羅しているよきっと。都大会くらいならたぶん出場してるわ」
「何その楽しげな大会! 私も出たい!」
「賭けるのリアルマネーだけどね」
「辞退しまーす」
「でも、優勝すればどんな願いでも叶えてもらえるよ?」
「いやどういう組織が運営してるの、それ。ていうか、もはや八月一日さんの話じゃなくなってるし。そういうのもうなしね。ちゃんと『あるある』的な奴でお願いします」
「え、そんなルールだったの? だったら先に言ってよね、んもう」
「急にキャラ変えないで」
「次。次行こ。ほら、ハリーアップ」
「だからキャラを──まあいいや。じゃあ次は……ゆいちゃん先生!」
「ゆいちゃん? って、もしかして、担任の由比藤先生? へえー、ゆいちゃんって呼ばれてるんだ」
「ううん、今適当に言った」
「えー……」
「でも、将来的にはそう呼べる仲になりたいと思っています」
「どんな決意表明?」
「私のささやかな目標だから……」
「何を照れてんの?」
「いいからぁ、早く言ってよぉ〜」
「ウザっ。……まあいいや。ゆいちゃん先生も簡単な方だね」
「自分も使うんかい」
「ゆいちゃん先生は──部屋着がジャージ、かな」
「ギャップ! ギャップだぁ! ……でも、なんでたろう……すごく親和性のある組み合わせ!」
「なんというか、ああいう真面目そうな先生ほど、私生活はだらしなくあって欲しいよねー」
「わかる、わかりますぞその気持ち。ゴミとか洗い物とか、適度に溜まってて欲しいもん。それで、ビール片手にテレビ観ながらクダ巻いてるのが理想」
「荒んでるなー。──あ、でも、そこはビールじゃなくて発泡酒じゃない?」
「え? 何か違うの?」
「よく知らないけど、安いらしいよ」
「ふーん」
「……興味ないな?」
「ん」
「じゃあ次行く?」
「ん。──次は英さんで。あ、でも、悪口とかはなしね?」
「いやそんなん言うつもりないけど……なんで?」
「だって、サッツンああいうタイプ苦手そうだし。ほら、パリピ的な?」
「『ツン』どっから出て来たの? もう変わってんじゃん。──あと、別に苦手じゃないよ。話したら普通にいいコだったし」
「えっ、もう話したんだ……ふうん…」
「そりゃ話くらいするでしょ。同じクラスなんだから。てか、何その反応」
「別にぃ〜なんでもありませんけどぉ〜」
「……ヤキモチ?」
「ちゃうわい! べらもうめい!」
「関西なのか関東なのか」
「いいから、どっちでも! それより、英さんは?」
「英さんはねー……好きなふりかけの味がのり玉」
「意外と素朴っ!」
「まあなんていうか、派手な見た目の割に、基本に忠実にそうなんだよね。外見は飾っても中身は飾らない的な?」
「なるほどねー。人間見かけによらないものなんだね。深いなぁ〜」
「いやクソほど浅いけどな。今の話、シャーレ並みの深さしかないよ?」
「じゃあここからは早押しね。テンポよくいくからね!」
「何を押すんだ私は。──しゃあ来いっ」
「周防さん!」
「家にAIスピーカーがありそう」
「県さん」
「家に滝がありそう」
「飛知和さん」
「家にダーツやる機械がありそう」
「院瀬見さん」
「家に座敷牢がありそう」
「家シリーズなんなの? あと、最後ちょっと怖いよ! ──壬生さん」
「決まった武器を持たずにその場で調達した物を使って戦うタイプ」
「よく噛まずに言えたね。──音無さん」
「……おとなしそう?」
「ただの語感じゃん!」
※
「いやー、いっぱい出たね〜。案外いい暇潰しになったよー」
「そりゃよかった。私は喋りすぎてちょっと疲れたけどね」
「じゃあ、次で最後にする?」
「だね。てか、まだあんの? クラスメイト全制覇してそうだけど」
「うん。最後は──私。私はどんなイメージ?」
「え? ミサ? うーん、結構長い付き合いだけど、改めて聞かれるとなー」
「遠慮しなくていいよ? よほどボロクソに言われない限り怒らないから」
「いやそこまで言う気はないって。うーん……」
「…………」
「……あ、これだ」
「なになに?」
「ミサはねー」
「うん」
「──可哀想な奴、かな」
「……え? ……なんで? なんで私が『可哀想』なの? 可愛いならわかるけども」
「意外と傲慢だな。──なんでって、そりゃあ……」
「…………」
「新学期早々足の骨を折って入院とか……可哀想じゃん?」
「そ──そこ⁉︎」
「うん。だって、いきなり全治二ヶ月だよ? 結局、入学式の日しか登校できてないじゃん。そんなもんおもしろ、可哀想すぎでしょ」
「今面白いって言いかけたよね⁉︎」
「まあ、もっと重傷にならなかっただけよかったけどね。意外とピンピンしてるし。──あ、もういっこ思い付いたわ。悪運だけは強そう」
「嫌だよそんなイメージ!」
「って、やば。もうこんな時間じゃん。そろそろ帰らないと。門限過ぎるとお父様に叱られるんだよねー。最近は婆やも庇ってくれないし。──じゃ、また気が向いたら来るからね。早く治しなよ? ごきげんよう」
「サッチーが一番イメージとかけ離れてんだよ! ……でも、ありがと」
友人が退室した後、左脚を足を吊ったミサは体を捻って手を伸ばし、ベッドのサイドテーブルに積まれたテキストやプリントの中から、クラス名簿を取り寄せた。そこには彼女とその親友を含め、やたらと珍しい苗字ばかりが並んでいる。
(……みんな、本当はどんな人たちなんだろう? 早く知りたいな)
春の日の夕刻。彼女は可笑しそうに、一人小さな笑みを零した。




