たのもー、タンワで資格ゲットだぜ
20XX年。
各国の都市に巨大な塔が地下から姿を現した。
東京、そこにも天高く塔が現れた。
それから一週間。
まるで塔を中心に、各地に地下ダンジョンが次々出現し、大小様々な入り口は生活を脅かした。
ビルの崩壊。住宅地の隔離による移住を余儀なくされ、仕事を失う者も少なくない。
そんな中、一つの希望がニュースとなって飛び込んだ。
【地下の空洞、通称ダンジョンは人類に未知の可能性を与える】
アメリカ、中国、ロシアは塔が現れたその日に、軍を派遣していた。それに遅れを取っていた日本は塔ではなく、その後に出現したダンジョンに目を向け自衛隊を派遣していた。
結果、塔を襲撃した軍は壊滅し情報を得られず。自衛隊には生存者がいたため、レベル、スキルという未知なる力の存在を、発見した。
それと同時に絶望も与えた。
【ダンジョンにはモンスターが存在し、人類を襲う脅威となる】
【塔は入れば最後、二度と出る事は出来ない】
塔へ入る事は法令で禁止され、例外関係なく立ち入ることは許されなくなった。
だが、地下に存在するダンジョンは出入りが可能であった為、半年もかからず一般人への開放が認められた。その要因となったのが、ダンジョンから取れる未知の鉱物である魔石の存在だった。
「という訳で、魔石で一稼ぎする人が溢れると。本当、人間って世界が変わっても前向きに生きれるよね。あ、違うか。がめついだけか」
古本屋にあった陳腐な本を棚に戻し、店を出た。
陳腐とは言っても、アレは空想本ではない。ファンタジー小説でもない。現実が書かれたノンフィクションだ。現に目の前にダンジョンの入り口が口を開けてこちらを誘っている。
「卒業しても、いまいち就職先が落ち着かない私には持ってこいか」
大卒後、職場を転々としていた。これといってやりたい事もないし、熱くなれる様な職場もなかった。社会人になり、身に染みたのはネチネチした人間関係の闇だけだった。それにうんざりし、転々した挙句、現在は、ニートである。
「ハロワはもういいから、タンワに行こう」
ダンジョンが一般開放されてから出来た探索者ワーク。通称タンワは探索者を募集する企業への紹介や、探索者になる為の資格を申請する行政施設である。
役所ではなく、分けて施設があるのは人の殺到を緩和させるためとニュースに出ていたが、建築費は全て税金である。無駄金。
結果的には希望者が予想を超える数もあり、批判は出なかったらしい。反対派が少し騒いだぐらいだった。
「あー、クーラーが効いて涼しい」
気温が30 度を超える真夏日。タンワの中は程よい温度に調節され快適に過ごせそう。1階の案内カウンターで話を聞き、言われるまま2階の職業訓練室へ足を運んだ。
「やー、よく来たな。若者が増える事はいい事だ」
がっはっはっと、屈強なガングロ親父が喋りかけてきた。逃げたい。
くるっと向きをかえると肩を掴まれ、部屋の中へ引きずられた。
「私はただ資格を取りに来ただけなのにー」
虚しく声がこだました。
「よし、まずはこれに目を通すんだ」
「分厚い」
出された意味不明な厚みのある本にひたすら目を通す。ペラペラペラ、長い。何ページあるんだよ。
下の方にパラパラ漫画が施されてるのに気づき、うっかり視線を逸らすと最初から戻された。
くぅ、奴は罠だった。
無事に読破、(内容は一切脳に入ってない)を終えると、2枚の紙を渡された。
「さぁ、解け。安心しろ、わからなければ、隣に参考書がある」
まさかのその場で筆記試験。参考書って……どこにどの問題の答えがあるかわからねぇー。せめて、ラインマーカーだけでもしといてよ。
出題はダンジョン内でのマナーから、モンスターに遭遇した際の手順のOX問題だった為、意外に解けた。
「君、採用。見込みある若者は歓迎だ」
その場で合格が決まり、申請書を貰い3階で手続きを終えた。
「これで私も探索者」
運転免許証に似たそれに写る、変な顔の私。写真写りは別に期待していない。でも、心はウキウキ上機嫌。軽い足取りですぐ近くのダンジョンへ向かい、痛手を負って帰省した。
初見の一角ウサギによる足蹴りに一発退場。
翌日。
タンワから事前に受け取っていたポーションのおかげで回復した私。
今度はあんなミスをおかさないよう、事前にネットで初心者向けのダンジョンを探す。
いやーネット社会は神だわ。
【金沢22番ダンジョン 地下5層 初心者向け】
場所をスマホで確認してから、タンワに向かった。
「ねぇーちゃんいつものを」
「あらあら、2日目にしてもう2本目ですか。はい、低級ポーションお試しサイズよ」
「大事に使います」
あれ、おかしいな。昨日もらったポーションより一回りサイズが小さい様な気がするぞ。
タンワでは1日一つ、低級ポーションを探索者に配布している。死者や怪我人を減らすのが目的だと渡してくれたお姉さんが教えてくれたよ。
「でも、あくまで低級ポーションなので無理しちゃダメですからね」
と念を押されました。
昨日の失敗を思い出し、恥ずかしくなりながらもタンワを後にした。
今日こそはモンスターを倒して、私もスキル持ちになってやるぞ。
そう意気込んで、金沢22番ダンジョンへと向かった。