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零
咀嚼の音が、辺りに響いている。
子供が聞く音ではないであろう、生々しい音が。
だが、そこには子供がいる。数えて三つか、四つくらいの。
腰が抜けて動けないのか、肩が震えている。
音の主が、子供に気付いた。
動けぬ子供の目と、主の視線がかち合う。
それが飛び掛った瞬間、子供は目を瞑った。
だが、いくら待っても痛みは来なかった。
子供を、男と女が守っているのだ。
薄い紫色の半透明の壁が、女と子供の前に張られて。
それを張っているのは、男の方だ。
傷だらけで、腹からは出血が治まらない。
男が何やら叫び、女が泣きながら子を抱え、必死に走った。
だが、その後を夥しい数の蛇が追う。
やがて女の体力も底を付き、足がもつれ、転んだ。
好機と言わんばかりに蛇の波が、女を埋め尽くした。
女は、最後の力で子供を逃がした。
子供が目を覚ました時、空は夜明けの瞬間だった。
東から太陽が顔を出し、西に月が沈んでいる。
大勢の大人に囲まれた子供は、その空をずっと見上げていた。