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第七話 二日目の朝

異世界転生に勢力争いの要素を加えた作品の第七話です。

エレンディアでの初めての夜を過ごしたマサキは翌朝に・・・。

初めまして方はどうぞ第一話から読んで下さい。お願いします!

読んでくれたら、もうなんでもするかもしれません!


 どこかで鳴いた鶏の声によって俺は目を覚ました。だが、気分は最悪で頭に締め付けられるような痛みが走る。原因を探ろうと昨日の記憶を呼び起こすが、その途端に幾つかのビジョンが浮かび上がり、俺は一気に飛び起きた。

 視界に入ったのは慣れ親しんだ自分の部屋ではなく、もっと狭い粗末な部屋だった。小さなテーブルと椅子があるだけで、寝ていたベッドのマットレスも薄く、毛布も毛が荒くて快適とは言えない。

 日本ならどんな安宿でもここまで酷くないだろう。そう、俺はエレンディアでの最初の夜を過ごし、二日目の朝を迎えたのだ。


 昨夜はアリサの勧めで夕食を摂りつつ麦酒を飲んだのだが、調子に乗って三杯目を空にしたあたりで気分が悪くなり、この部屋に案内されていた。どうやらこれが俗に言う二日酔いという現象なのだろう。

 可能ならばもっと横になっていたかったが、朝食を済ませたら天秤勢力の拠点とされるトレムの街にアリサと出発することになっている。歩くのも無理という状態ではないので、アリサを待たせるわけにはいかなかった。

 無意識に脱いでいたブーツを履き、部屋に用意されていた水差しとたらいで身支度を整えると俺は部屋を出る。この旅籠屋は二階が客室で一階が酒場を兼ねた食堂になっている。アリサとはその一階で落ち合うことになっていた。

「おはようございます。だんな!」

「・・・えっと、あ、おはようございます」

 階段を降りると宿の主人とすれ違って挨拶を受ける。〝だんな〟とは誰だと一瞬戸惑うが自分のことだと気付き慌てて言葉を返す。日本では未成年とされる俺の年齢だが、こっちでは既に一人前の扱いを受けるようだ。

 もっとも、いくら客の立場でも髭を生やした中年の男性から〝だんな〟と呼ばれるのには違和感がある。今更だが、エレンディアは日本とは異なる価値観を持つ世界なのだと痛感するしかない。


「おはよう、マサキ。どうやら、一人で起きられたみたいだね」

「ああ、おはよう、アリサ。でも二日酔いになったみたいで気分はあんまり良くない」

 既にテーブルで朝食を食べていたアリサを見つけたので俺は挨拶を返して合流する。彼女の脇の椅子には膨らんだバックパックとマントそして杖が用意されており、既に出発の準備は万全のようだ。

「うむ、まさか私もあんたが三杯くらいであんなに酔うとは思わなかった。朝には回復していると思ったけど、仕方ない。ちょっと頭を出してみるといい」

「こ、こう?」

 アリサの前に座った俺は言われた通りに顔を突き出す。もしかしたキスでもされるかと期待をするが、彼女は右手に杖を持つと左手で俺のおでこを軽く触れる。

「命を司る精霊よ、この者を蝕む毒を浄化せよ!〝キュアーポイズン〟」

 その言葉と同時に俺の頭痛と倦怠感は嘘のように消え去る。

「え、なんだこれ、魔法?!」

「そのとおり。マサキの身体から酒精を消してあげたよ。これでもう大丈夫のはず!」

「ああ、確かに治ったし、すごいけど・・・これは回復魔法なんじゃないの?」

 楽になったからか、俺は気分を高揚させながらアリサに問い掛ける。彼女が回復魔法スキルを所持しているとは聞いてなかったからだ。

「もちろん、回復魔法だよ・・・ああ、マサキの言いたいことがわかった。精霊魔法スキルはね、レベルを上げると一部の回復魔法も扱えるんだ。厳密には名前は同じでも発動のプロセスは異なるのだけど、効果は同じだから術者以外は区別のしようがないね」

「マジか、すごいスキルじゃないか、精霊魔法!」

「いや、本家の回復魔法なら確か5レベルくらいで〝キュアーポイズン〟を使えるようになるから、そうとも言えない。ただ、精霊魔法は攻撃や回復系の魔法を手広く扱えるようになるから、万能タイプの魔法スキルなのは確かだね。魔法スキルについては奥が深いから、トレムへの旅の間にちょっとずつ教えて上げるよ。そんなわけで、まずは静かに朝食を食べよう」

 驚きの声を上げる俺をアリサは苦笑で浮かべながら窘める。周りをみると集まり出した宿泊客達が困ったような視線をこっちに向けていた。どうやら。朝の食堂で騒ぐのはこちらの世界でもマナー違反のようだった。


 朝食を終えた俺はこれまでの代金をアリサに支払ってもらい宿を出た。その際この世界での貨幣価値も彼女から教わる。原則的に金貨1枚で銀貨20枚、更に銀貨1枚で銅貨20枚の価値があるとのことだ。宿代は食事を除くと一泊銅貨10枚ほどで、一食が銅貨3枚ほどなので平均すると一日銀貨1枚が必要となる。もちろんこれは、比較的安い宿に泊まった場合なので、質を求めれば上限はないのだろう。

「次は村の役場に行くよ」

 その指示に従い俺は朝の陽ざしを浴びながら彼女の後に続いた。

「こうした集落では役場が冒険者ギルドの仕事を兼ねているんだ。現地では解決出来ない何かしらの問題が起ると役場がトレムの本部に依頼する。そうして、私のような冒険者が派遣され、その問題を解決するってわけ。ちなみにゴブリンは常にギルドから懸賞金が掛けられていて、ある程度の額までなら村役場で報酬を受け取ることが出来る」

「ああ、昨日の説明はそういうことだったのか、でも退治したのを証明する証拠が必要なんじゃないか? 嘘を吐くような者もいないわけじゃないだろう?」

「もちろん証拠は必要で、そのためのステータス表だよ。あれには今まで倒したモンスターや敵の名前が記録されるんだ。それを提示して確かに討伐したことを証明するのさ!」

「ああ、このステータス表にはそんなことも表示出来るんだ」

 アリサの説明を受け、俺はステータス表を確認しようと呼び出す。

「おっと! 今更だけど、それを人目があるところで簡単に出さない方が良いよ。マサキに関する情報が事細かく書かれているわけだからね。誰が見ているかわからない!」

「え、でも昨日、アリサは俺に見せろって言ったじゃん?!」

「あれは、マサキの能力やスキルを知らないと助言をしようがないからね。本来は見ず知らずに者に見せるべきじゃないの。ギルドや役所でも見せるのは必要なところだけ。・・・特にあんたは・・・ろくな戦闘スキルがないからね。弱いことが知れたら、盗賊に狙われるかもしれないよ! ふふふ」

「・・・そういうことだったのか」

 俺はステータス表を消すと笑い声を上げるアリサに憮然と答える。一度笑いのスイッチが入るとなかなか止まらないのは既に承知していた。


「本当に俺が全部貰っていいのか?」

「ああ、構わない。倒したのは私だけど、マサキと一緒に討伐したことに間違いないからね。その金でこの村の雑貨屋で最低限の旅装を整えるといいよ!」

 役所と言っても小さなカウンターに店番のようなおばさんが一人いただけだったのだが、アリサはそこで得たゴブリン討伐の報酬を俺に譲ってくれた。そして、彼女の言うとおり、俺のステータス表にはゴブリン五匹を倒したことが表示され、獲得経験値は600まで増えていた。

 実際にはアリサの戦いを見学していたに過ぎないのだが、この世界のルールとしては共闘と認められたようだ。どこで線引きがなされているのかはわからないが、彼女を信頼していたのが効いたのかもしれない。

 もっとも、ゴブリン五匹を倒して得た報酬は銅貨60枚である。アリサは簡単に倒していたが、ゴブリン五匹を同時に相手にするとなると、俺には不可能な芸当だ。スキルを考慮しないと、男三人を集めてなんとかなるかぐらいだろう。命を賭けるには安すぎると思われた。

「ありがとう。本当に助かるよ!」

 それでも俺はアリサの厚意を有難く受け取る。彼女への借りは溜まって行く一方だが、確かに今の俺には装備が必要だった。

ご愛読ありがとうございました。一日一回、三千字程を目標に更新しますのでこれからもよろしくお願いします。

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