第一話 秩序と混沌、そして天秤
異世界転生に勢力争いの要素を加えた作品です。
一言で説明すると、某エルリックサーガの世界観をラノベに落とし込んだ作品でしょうか。
舞台のエレンディアは、秩序と混沌そして天秤の三勢力が公平な条件で覇権を競い合うために創られたゲーム的世界です。
そんな世界にいまいち使えないスキルを持って放り出されて主人公が、ヒロイン達の助けを得て生き残り、彼女達とイチャイチャをしたり、冒険者として活躍したりしながら、ゆくゆくは世界の根源に迫るという話になる予定です。
気になった方はどうぞ読んで下さい。お願いします! なんでもするかもしれません!
「「「竜ヶ崎昌樹」」」
誰かの呼び声によって俺は自分という存在を思い出す。現象的に捉えれば、それは幾つかの音の組み合わせでしかないが、名前を聞かされたことで消え去ろうとしていた俺の意識と自我は再び熱と色を取り戻した。
その途端、暗闇に覆われていた俺の頭上に光が射す。本能的に光の先が〝出口〟であると悟ると、俺は泳ぐように上へと向かう。泥の中を進むような抵抗を感じるが、ただひたすらに光を目指した。
その最中、俺の本質は以前にも似た行為をしたことを思い出す。そうだ、俺はこうしてこの世に生まれだと。
「覚醒されたようですね、リュウガサキさん」
光に辿り着いたと思った瞬間、俺の瞳に一人の若い女性の顔が映る。彼女は白を基調とした修道女のような服を着て、銀髪と青い眼をしていた。その顔は優しそうな微笑を湛えておりとても美しい。
だが、あまりにも整い過ぎているためか、作り物のような錯覚を受ける。ルネッサンス時代の我が子の亡骸を抱く聖母の彫刻を彷彿させた。
彼女の存在に驚きつつも俺は慌てて周囲を見渡す。そこは記憶にない厳かな部屋で俺の身体は木製の椅子に座っていた。教会のようでもあり、裁判に使う法廷のようでもある。
「・・ここは?・・・どうして俺の名前を?」
「ちょっと、そこをどきな!」
目の前の女性に思いついた疑問を口にする俺だが、それをかき消しながら新たな声が掛けられる。聖女を押し出すようにして新たに視界に入ったのは金髪の巻き毛をした、こちらも若い女性だった。
「あんたは選ばれてチャンスを掴んだんだよ。あたし達が見つけてやったのさ。期待の出来る奴を探していたんだから、名前を知っていて当然だろ。それより、マサキ、あんたはさっきの真面目な不感症女とあたしどっちが良い女だと思う? もちろん、あたしだよね? そうだろうふふ」
一応は問いには答えてくれているようだが、俺には彼女の言葉の意味が理解出来ない。戸惑う暇も無く金髪の女はまるで答えは決まっているとばかりに、逆に俺へと問い掛ける。そして赤く塗られた唇を開けて大きく笑うと、艶やかなポーズをとった。
突然の割り込みに驚いていたので気付くのが遅れていたが、彼女は半裸と言うよりは紐のような黒い下着を付けただけの姿で、その肉感的な肢体を見せつけている。
更に良く見れば頭には一対の角を生やしており、耳の先端の尖っていて瞳も猫の紡錘形をしている。俺は悪魔を見たことはないが、先程の聖女のこともあり、目の前のポルノスターのような女性がそれに近い存在であることを理解した。
「そのような低俗なことはおよしなさい!」
悪魔女が伸ばした指先が俺の下顎に触れようとしたところで聖女が一喝し、それによって俺は金縛りから解放される。彼女の金色の猫の目に見つめられた俺はその妖艶さに取りつかれたかのように身動きすることが出来なかったのだ。あるいは、ただ単に快楽への誘惑に身を委ねようとしたいたのかもしれない。
「ふん、決まったことしか出来ない石頭が!」
「そちらは考えて行動出来ない単細胞如きの知能ですわね!」
「・・・エレンディアにようこそ、マサキ殿。混乱さていると思われますから、順に説明しましょう。あなたは一度、現世においてその命を失くしています。そして、この場所は選択の間、現世とは掛け離れた世界であり、あなたのこれからの運命を決める場所です」
「・・・命を失った?」
聖女と悪魔女が向き合って小競り合いを始めようとしたところで、俺は新たな声を聞き、その言葉の意味を反芻するように口にする。
「ええ、その通り。あなたはあなたの世界で亡くなったです」
見上げると、今度はどこから現れたのか灰色のローブを着た人物が立っており、争う奥の二人を遮るようにして俺の疑問に答える。
彼女の顔は上半分をフードで隠しているため全容は知れないが、声質と筋の通った鼻と見事な曲線を描く顎のラインからするとやはり若くて美しい女性のようだ。
「その事実は私からリュウザキさんにお伝えしようとしていましたのに!」
「いや、あたしがマサキにするはずだったんだ!」
「誰からしても同じでしょう」
ローブの女性に対して聖女と悪魔女が抗議の声を上げ、それに反応する声が聞えたが、既に俺にとってはどこか遠くで起っている出来事のようだった。
謎の女性の指摘によって、俺の脳裏にあの時の生々しい情景が浮かび上がる。波に流されて悲鳴を挙げる子供の声、助けを求めようと周辺を見渡すが、どこにも見えない人影、飛び込んだ時の予想以上に冷たく塩辛い海水、俺に縋りつく子供の表情、そして荒ぶる波によって減り続ける俺の体力。・・・そこで俺に記憶は刃物で切られたかのように綺麗になくなり、気付いた時にはこの椅子に座り、奇妙な女性達に囲まれていたのだった。
「・・・そうだ、俺はもう息継ぎをする力もなくなって、あの後に・・・・死んだんだ。・・・じ、じゃあ、ここはあの世なのですか? それと溺れていた子供はどうなりました? あの子もここに?!」
「安心してください。あなたが助けようとした少年はあなたの活躍によってその命を繋ぎ止めましたので、ここにはおりません。・・・そして、ここが死後の世界である解釈としてはその通りです」
「もっとも、正確にはエレンディアへ繋がる選択の間と呼ばれている世界ですわ」
「さっきも言ったろ、あんたは選ばれたって」
海で溺れる最後の情景を思い出した俺を取り囲みながら、例の三人は三者三様に言葉を紡ぎ出す。あの子供が無事だった聞かされたことで俺は満足した気持ちとなるが、新たな疑問が沸き上がる。
「・・・俺は選ばれた?」
「そう、あなたは現世でその命を失いました。ですが、幼い子供を救おうとその身を危険に晒した勇気の輝きを私達は見逃ししませんでした。あなたにはエレンディアに転生し、今一度その勇気を発揮する資格を得たのです」
「我々は非業の死を遂げた若者の魂に、その力を活躍させる新たな機会を授けようとしているのですよ!」
「あたし達は度胸がある奴が好きなのさ、あんたも色々とやり残したことがあるだろう。エレンディアでそれを果たすチャンスを与えるっていうわけさ!」
俺は女性達の言葉の意味を読み取ろうと頭を巡らす。当初は〝転生〟が何かの比喩ではないかと勘繰ったりもしたが、今の状況からすると言葉通りの意味と捉えるしかないだろう。
もしかすると、意識を失っている俺が見ている夢かもしれないが、夢なら深く考えても無駄だ。とりあえず俺は、彼女達が死んだ俺を〝エレンディア〟という世界に転生させようとしていることを理解した。
「・・・お、俺を生き返らせてくれるのですか?」
「ええ、その通りです。ご理解してくれたようですね」
「もっと詳しく説明する準備もしていましたが、この段階で気付くとは聡明ですわね!」
「たまに理解出来なくて頭が固まっちまう奴も出るんだが、さすが見込んだ奴だ。でもよ、タダってわけじゃねえんだ。あんたの転生先のエレンディアはあたし達三つの勢力が直接争う世界でな。マサキ、あんたはその三つの中から一つを選んであたし達の手駒・・・おっと、今のは聞かなかったことにしてくれよ、代表の一人として残りの二つと戦ってもらうことになってるんだ!」
状況を理解しつつある俺だったが、悪魔女が新たな情報を提示する。
「そう、我々がリュウガサキさんに転生の機会を与えようとしているのは、エレンディアで行われている聖戦への参加を期待してのことなのです。この地は私が司る〝秩序〟と・・・」
「あたしの〝混沌〟」
「そして中立を司る〝天秤〟の私達はこの地で行われる、多元宇宙の支配を掛けた戦いに赴く勇者を探し出して送り出す役目を負っているのです」
三人の女性達はそれぞれが引き継ぎながら俺にそう告げた。
ご愛読ありがとうございました。一日一回、三千字程を目標に更新しますのでこれからもよろしくお願いします。