三枚目
三枚目…『糸』『ぐしゃ』の短篇二作です。
『糸』
魔法をかけられて、
私は自分の左手の小指に赤い糸が見える様になった。
こんな自分と添い遂げてくれるのは、一体どんな人なんだろう…
興味本位で辿ってみた。
色々な人のすぐ傍を掠めていく糸は、私を一喜一憂させた。
ずっとずっと、ずっと辿ってきた…
薄々わかってきた。
糸の片側は、貴方に続いているのでしょう?
ずっとずっと、ずっと辿ってきた…
きっともうすぐこの旅も終わるでしょう。
きっともうすぐ赤い糸は辿り着くでしょう。
赤い糸の反対が、私の右手の小指に結ばれていたのを見付けた時。
私は微笑みながら静かに眼を閉じた。
『ぐしゃ』
雨が霙に変わってきた。
雪よりも霙が好き。
雪は綺麗に隠し過ぎてしまうから。
傘も持たずに外を歩いてみる。
ぐしゃぐしゃ…と音を鳴らし足元が汚れていく。
ぐしゃぐしゃ…と落ち葉や土や煙草の吸い殻が、霙と混じり合っていく。
ぐしゃぐしゃ…と私はその場で足踏みを続ける。
ぐしゃぐしゃ…
雪は全て隠してしまうから。
一瞬でも、この世が綺麗だと勘違いしてしまうから。
私は雪よりも霙が好き。
ぐしゃぐしゃ…と黒く濁った足元を見つめてみる。
ぐしゃぐしゃ…と理由も無く足元を汚し続ける。
愚者愚者…と理由もなく自分自身を汚し続ける。
ぐしゃぐしゃに泣き崩れた顔のまま、
私は自分が雪で隠されるのを願った。