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メアリさんとクロックの作戦

 その竜は低い唸り声を上げる。まるで私たちの姿を探し求めているようだ。


「ドラゴンなんてものが……本当に……!」

「舟の墜落に……巻き込まれて……雪の下敷き……になってた……んだと思う……」

「では、あれが『義賊団』の舟を襲った……?」

「そう……。可愛くないね……」


 クロックは肩をすくめた。全くもってその通りである。

 私は岩にしがみついたまま、出来るだけ小さな声で訊いた。


「あれも魔獣……なんですか?」


 すると以外にも、クロックはかぶりを振った。


「いや……あれは……魔獣じゃない……よ……。いぬとか……ねこと……同じような……『動物』に……分類される……」

「そうなんですか。私にとってみれば、ゾンビなんかよりよっぽど『魔獣』って感じがしますけど……」

「魔獣の……話も……今度……してあげる……」


 言いながら、彼は岩陰から顔を覗かせて様子を窺った。斜面に落ちた影から見るに、どうやらあまり動いてはいないらしいことは私にもわかった。


「どうして今になって復活したんでしょうか……」


 私は誰にともなく呟いた。

 バーサたちの話によると、飛空船が襲撃されたのは数か月前のこと。その間、雪に埋もれたドラゴンが生存していたことは驚きだが、私が持つ『ドラゴン像』に当てはめれば納得できなくはない。しかし、どうしてそれが今になって地表に現れたのかが不可解だった。


 するとクロックはズレた帽子を被り直しながら答えた。


「多分……ルーン共鳴……を使ったから……起きちゃった……んじゃないかな……」

「さっきの玉……大アルカナ、を回収したことが彼を目覚めさせた、と?」

「多分……だけど……」


 確かにその通りかもしれない。眠っている間にあんな揺れを起こされたら私だって跳び起きるだろうし。


 とにかく、この状況をどうするか、私はクロックと相談する必要があった。


「どうしますか? もう一つの魔法道具がまだ見つかっていないんですよね?」

「うん……あいつが……超音波……みたいなもの……を出して……邪魔してる……みたい……」

「ここは一旦帰って、ドラゴンがいなくなった後にまた来ますか?」


 私はそれが最も現実的だと思った。はっきり言って、私の貧弱な魔法ではドラゴンは倒せない。メアリ様の力でも借りれば簡単なのかもしれないが、彼女に話しかける手段もなければ、話しかける気も毛頭ない。


「それでも……いい……」


 実際、彼もそう言った。

 だが、私は次のクロックの話を聞いて考えをすぐに改めた。


「でも……次に来られる……のが……いつになるか……分からない……」

「え?」

「その……メアリさんが……持ってる……魔法道具……。僕らが……一生働いて……一枚買えるか……買えないかって……くらい高い……から……」

「はっ!?」


 目玉が飛び出るかと思った。そんな億ションみたいなものがポケットの中に入っているかと思うと、なんだか急に恐ろしくなってきた。


「嘘でしょ!?」

「本当……だよ……」

「あの人……」


 バーサめ。そんなものを掴ませて気軽に使えなどと……。

 私は握っていた紙の代わりにカッターナイフをポケットから引きずり出した。


「やっぱり、どうにかここでドラゴンを撃退して、小アルカナも回収して帰りましょう!」


 クロックはこくりと頷いた。


 ……ただ、そうは言ってもその方法がない。どうしたものだろうか。

 見つからないように身を隠して考えていると、クロックが私の上着の袖をちょいちょい、と引っ張った。


「どうかしましたか?」


 クロックは岩陰からドラゴンの腕の辺り――いや、そのもっと奥を見据えていた。


「あれ……見て……」

「うん……?」


 そして彼は突然こちらに向き直り、鼻と鼻がぶつかりそうな距離でこう囁いた。


「僕は……二人みたいに……ギャンブルは……好きじゃない……んだけど……」


 クロックの帽子越しに、白でも赤でもない色が見えた。それは今まで雪の下で眠っていたもの。大アルカナの浮上、そしてドラゴンの目覚めによって姿を現したものだ。

 その色は艶のある茶色。空飛ぶ舟の亡骸の一部だった。


「どう……かな……」


 あれを使ってドラゴンを倒す策がある。それに賭けないか。

 彼はそう言っていると、私にはすぐに分かった。


 今度は私が頷く番だった。

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