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メアリさんと巨影

 「今のは一体……?」

「これは……大アルカナ……バーサの宝物……。ペンデュラムと……同じルーンが……入ってるから……近くにあれば……引き寄せられる……」

「そう言うものなんですか?」

「そう言うもの……」


 心なしか、クロックは上機嫌なように見えた。

 私は立ち上がって雪を払うと、彼が手の平に乗せたそれの中を覗き込んだ。確かに何らかの文字が見える。私が読める文字――日本語や英語ではないのは明らかだったが、それが『ルーン文字』かと言うとそれもどうやら違いそうだ。


「うぅん……これ、梵字(サンスクリット文字)……かな?」


 馴染みはない文字だが、私はその文字からそのような雰囲気を感じた。

 その正体は分からないが、とにかく私たちは一つ目の魔法道具の回収に成功した。


「残りは一つですね!」


 彼は大アルカナを鞄に仕舞って頷く。


「もう一つ……は小アルカナ……。でも……少し……変だな……」


 また振り子を垂らしたクロックだったが、その無表情に陰りが見えた。

 私もその異変に気付いた。


「振り子が……動きませんね」


 先ほどはそれなりに離れた場所からでも激しく振れていた重りだが、今度はぴくりとも動かない。それこそ風が吹きつけて揺れる程度だ。


「反応しないくらい遠くにあるんでしょうか……?」


 言って、私は自分自身でそれを否定した。一つがここにあったのなら、もう一つがそんなに離れているのはいささか不自然だ。まさかこんな険しい雪山に盗人がいるとも考えにくい。


 ――また、地面が揺れた。


「……治まりましたね。今のもクロックさんが?」


 私は訊いた。だが、黙って振り子を見つめる彼の顔は疑念に満ちたものに見えた。


「……違う……。でも……近くには……ある……と思う……」

「さっきのように引き寄せられそうですか?」

「……なにか……探知を……妨害してる……ものがある……『いる』……?」


 ――地面の揺れが大きくなる。


「メアリさん……気を付けて……!」


 クロックがか細く叫んだ。


 ――がくん、と激しい揺れが再び襲う。


 そして次の瞬間、クロックが私に覆い被さる。そしてそのまま私たちは岩陰に滑り落ちていく。


「きゃっ!?」

「ぐっ……!」


 クロックは厚着でもこもこになった腕で私を庇いつつ、背中を強かに岩に打ち付けながらもそれを掴んだのだった。


「滑ら……ない……ように……!」

「は、はい!」


 私は彼の言う通りに、掴みやすい岩を見つけてしっかりと抱き着いた。


 何が起きたのかまるで理解出来なかった。

 ただ、私は一瞬後のその光景を認めて肝を冷やした。

 今まで私たちが立っていた場所を、凄まじい勢いの雪の濁流が流れ落ちていったのだ。


「雪崩……!」

「見て……あれが……探知を……邪魔してた……」


 崩れる雪の上に巨影が落ちる。突然曇りにでもなったかのようだった。


 見上げると、そこには二枚の翼に積もった雪を吹き飛ばして吼える巨躯があった。

 下半身は見えない。だが、その正体を推して測るには見えている部分だけで十分だった。


 一対の翼、鋼の鱗で覆われた赤い皮膚、そしてぎょろりと私たちを睥睨する爬虫類の瞳。


「ドラゴン……‼」


 それは、バーサが地面に描いた可愛らしいトカゲとは似ても似つかない、神々しいまでの禍々しさを湛えた怪物だった。

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