表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/25

メアリさんと庭園

 私はドロシーに聞いた、城の出口に向かうことにした。どうやらそれは庭園の奥にあるらしく、その先は騎士団宿舎のすぐ近くに繋がっているという。私にとってはこれ以上ないというほど好都合だ。

 一階まで螺旋階段を降りると、彼女の言葉通り、右手側に鳥の彫像が見えた。鴉か何かだろうか。

 私は右手に曲がり、そこを突き当りまで直進した。


「えっと……この扉でよかったよね……」


 そこからさらに左にも廊下があったが、ドロシー曰くそこには倉庫しかないとのことだった。庭園へ続くのは真正面の大き目の扉だ。

 私が両手で把手とってを握って体重を掛けると、思いのほか扉はあっさりと開いた。


 そこから一歩前に出て、私は息を呑んだ。


 ゆるりと伸びた石畳の道の脇には色とりどりの花が咲き乱れ、風に乗せて各々の香りを遠くへ遠くへと運ぼうとしている。

 その道の先では、噴水がそこに虹をかけていた。その虹で遊ぶように鳥たちがさえずり、水面を突っついては飛んでいく。

 歩きながら見上げると、頭上にも花のアーチが掛かっていた。その下を大小様々の蝶たちがふわふわと浮かぶ。

 天からは太陽の光が降り注ぎ、木洩れ日はまるでキリンの網の目柄のようだった。


「すごい……」


 私は嘆息を漏らす。お母様は趣味でよくガーデニングをしていたが、それはやはり限界があるものだ。しかしここは一国の王が住まう城。お母様の庭とはまるで規模が違っていた。


 噴水を通り過ぎると、その奥に蔦のような意匠の格子で閉ざされた扉があった。私はこの景色が終わってしまうことに幾ばくかの寂寥感を覚えつつ、それを押し開いた。


 その先は話に聞いた通り、騎士団の本部、そして彼らの訓練場にほど近い場所だった。私は太陽を見て方角を確かめつつ東の方へと歩いた。

 整備された芝生に覆われた地面は、寝転がればそのまま安眠できそうなくらい目にも足にも優しい。などと思って訓練場の方に目を遣ると、坂になった場所には本当に寝転んでいる騎士の姿があった。鎧はさすがに着ていない。昼休みのシエスタか何かだろうか。


 私はそんな風に思いながら、穏やかな気持ちで東へ向かう。

 私がこの世界に来て数日、心臓に悪いことばかり起きていた。まあ、主に初日と二日目に偏っているが。

 それらが一旦の解決を見た今、心穏やかにならずにはいられないのが人情というものだ。


 しかしゆっくりもしていられない。できるだけ早く、こちらの世界にある「捻じれ」を探さなければならないのだ。

 私はその決意も新たにしながら、今だけはと平穏なこの昼下がりを楽しむことにした。


 やがて、城の外郭と騎士団関係の建造物に囲まれて人目につかなくなっている場所に着いた。その奥に三人の人影が見える。

 もちろん、バーサとディエナ、クロックの三人だ。


「おっ、来たな」

「お待たせしました」


 私が駆け足で近寄ると、しゃがみこんで草を触っていたクロックも立ち上がってこちらに向き直る。


「いや……僕たちも……今来た……ところ……」


 それを補足するようにディエナが言う。


「あたしやクロックは平気だったけど、こいつが手荒い歓迎を受けててね」


 顎をしゃくるその先にはひどく疲れた様子のバーサがいた。


「大変だったぜ、本当……」

「どうかなさったんですか?」

「バッキスの奴、いきなりチャンバラで百人抜きしろなんて言って来やがった……」

「百人ですか!?」


 常識的に考えれば、百人同時というわけではないだろう。つまり一人ずつ戦って、勝ったら次の一人が出てくる、という訓練のはずだ。


「昔の同僚が特に張り切って斬りかかって来てな。まっ、全員倒したわけだが」


 彼は大儀そうに背伸びをし、上体を左右に揺らしていた。

 ディエナはニヤニヤと唇の端を歪めながら黒髪を縛っていた髪留めを外す。


「本当に歓迎してるのもいれば、本気で殺そうとしてるようなのもいたわね」

「ああ、多分あいつ、俺が昔エロ本盗んだのをまだ根に持ってんだろうな。ったくネタなんて城下に行けばいくらでも売ってるっての」

「ネタ……何のですか?」


 私が訊くと、ディエナがバーサの頭を叩いて口を封じた。


「手品か何かじゃないかしら。ここの城下町には『娯楽通りエンタメ・ストリート』っていう芸人やマジシャンが集まって商売したりする場所もあるらしいし」


 私はそれを聞いて、その場所に思いを馳せた。


「へぇ……! 面白そうですね!」

「今度行ってみるといいわよ」

「そうします!」


 ディエナはにっこりと笑うと、私から一瞬顔を背けた。なんだかその時、彼女は安堵の顔をしたような気もする。


 バーサはディエナの長い指を振り解くと、大袈裟に肩で息をしてから深呼吸した。


「……ふぅ、死ぬかと思った」

「嘘くさい……ね……」

「シッ、余計なこと言うな」

「了解……」

「よしいい子だ……。んんっ、それじゃあ本題に入りたいんだが?」


 バーサは咳払いの後、若干低くした声で言った。

 そう、別に私たちは雑談をしにここに集まったわけではない。もっと大切な相談のためだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ