メアリさんと『山賊団』
「では、今度は皆さんのことを私に教えてくださいませんか?」
私のことはさっきの場で包み隠さず話したが、私は彼らのことを何も知らない。国王と面識があるようだったことや、どうして指名手配を受けているのか、そしてもう一つどうしても知りたいことが。
だが、私の言葉に返って来たのは苦々しい反応だった。
「俺たちのことか……」
「話してあげたいのは山々だけど、ちょっと気が引けるわね……」
「メアリ……さん……の話が……綺麗……すぎた……」
「ええっ!? 教えてくださいよ! だって不公平じゃないですかぁ!」
私は身を乗り出して訴えた。しかしそれでも彼らの態度は変わらない。
仕方ないので、私は切り札を切ることにした。
「私……皆さんの命の恩人ですよね?」
可能な限り威圧的に言った。傍から見て威圧感があったかは別の話だ。
するとしばらく逡巡した後、バーサは茶色の髪をぐしゃぐしゃと乱暴に掻きむしって言った。
「ああっ、分かった分かったよ! 話せることは話してやる! これで満足かい、命の恩人様よ!?」
「言いましたね? 嘘は一切なしですからね?」
「ああいいさ、俺もお袋の名に誓ってやるよ。命の恩人様に俺たちの赤裸々なプライベートをじっくりねっとり語ってやるってな!」
もはや自棄といった感じだった。
してやったり、という優越感と、申し訳ないことをしたかな、という罪悪感が同時に沸き起こった。
「はあ……俺はあんたを舐めてたかもな、メアリさん」
「見直しましたか?」
「ああ、最高にな」
そう言ってから、バーサはどこから話すべきか、と思案した。
「そうだな……まずは俺の出自について語るか……。そこからじゃないと、二人の話もしにくいかもだしな」
バーサは顎に手を当ててから始める。
「俺の親父は山賊だった。その名も『バーサの山賊団』、それの長だ。……ああ、バーサってのは名前じゃなくて名字なんだ、親父のな。縄張りは海をも超えてミッドリア全域の山地。拠点はこの島だったけどな。……この国で親父以上の悪人はいなかった。物も金も女も腕ずくで奪い取る屑野郎さ」
にわかに彼の顔が険しくなる。
「俺も当然の成り行きで山賊になった。俺はこの王都近くで仲間を引き連れて活動してた」
「山賊の活動と言うと……」
「もちろん真っ黒な犯罪だ。盗みはスリから強盗までやったし、子供を攫って売ったこともある……」
私は言葉を失った。陽気な彼の顔に影が差すのを見て酷い罪悪感に襲われた。
私は、彼に話をさせたことを後悔したくなった。
「人売りは二度はやらなかった。俺には荷が重すぎた。まあ、だからってそれで一度目が許されるとは思っちゃいないが……」
彼は固く握っていた拳を解くと、急ににやついた顔になって続けた。
「で、ここからは笑える話なんだが、当時の俺は二足の草鞋を履いてたんだよ。山賊と、あと一つ。何だと思う?」
突然年齢当てクイズのようなことを言われた私は言葉に詰まりながら答えた。
「え、ぇと……ホスト……とか?」
私は彼の顔を見ながら言った。多分私が元の世界でこんな顔の人を見てもホストかな、と思うだろう。
するとバーサは大笑いしながらディエナの肩を叩き始めた。
「聞いたかディエナ! どうだ、ホストっぽく見えるか!?」
「ちょっ、やめてよ痛いわ。叩くならあんたのすっからかんの頭にしなさいよね」
「いや~面白い! この俺がホストか! 気に入ったな、来世はホストに生まれるとするぜ! まっ、今のままでも転職すればあっという間にナンバーワンだろうけどな!!」
「ちょっとは静かにしなさいよ……こっちは見張られてんのよ? 大体、あんたみたいなのがいる店なんて看板見ただけで嫌な予感しかしないわよ」
「そ~んなこと言っておいていくらでも貢ぐくせによく言うぜ!」
「ああ!? あんたが今まであたしに送りつけてきたいらないプレゼントがいくつあると思ってんのよ!?」
二人は立ちあがって片方は笑いながら、片方は怒鳴りながら言い合っていた。
なんだか、親戚の方の葬儀前夜がこんな雰囲気だったような気がした。
ややあって、やっと落ち着いたバーサは涙を手で拭いながら席に着いた。
「あ~……いいね。いい回答だった。ただ、正解は違う。これはこれで面白いんだが、ホストほどじゃない」
「正解はなんでしょう?」
「騎士だ。ユウトリウス陛下直属の騎士団にいた」
「……えっ!?」
私は目を剥いた。そんなもの、日本で言えば警察官が暴力団の若頭というようなものではないか。どう考えても普通じゃない。常軌を逸しているとしか言いようがない。
「親父が俺を潜り込ませた。情報を流させるためにな。最初は絶対バレると思ったんだが、これが案外バレなかったんだよなぁ」
「で、では陛下と会ったことは以前にも……」
「もちろんあるぜ。当時の俺はそれはそれは優秀な騎士様で、国王陛下や、あの『輝けるバッキス』にも目を掛けられてた。バッキスの息子のマルキスは俺をライバル視してたが、俺の方が三倍は強かったね。……そこで色々あったからか、どうやら一部の騎士団関係者とユウトリウスは俺を恨んでるらしい。公務中以外の時間で俺を見つけたらすぐさま八つ裂きにしてくるだろうってくらいにな」
「ああ……」
なるほど、と私は心中に納得した。それはユウトリウスたちに恨みを持たれていても仕方ない。このバーサという男、何から何まで因果応報の体現者なのだと思った。




