メアリさんの語り
多分この辺から読んでてそんなに面白くないと思います。
書いてる方は楽しいんだけどなぁ……。
なので、ある程度連投していこうかと思います。お目汚しご容赦ください。
私は続ける。
「目を覚ました私の手元にはどういうわけか手鏡がありました。それを覗き込むと、映ったのは私の姿――ただし、昨日シャワーを浴びる前と同じように汚れた姿でした」
「その時のお主は今と同じ姿じゃったにも関わらず、か?」
「その通りです。驚いた私に向かって鏡が声を発しました。鏡に映った私……つまり、陛下のお目にかかった『茅ヶ崎メアリ様』が喋っていたのです」
「なんと鏡が……到底信じられん話じゃが……」
「そこで私は彼女から様々な話を聞きました。一つは陛下との話、一つはこのミッドリア王国と世界各地を繋ぐポータルの話、一つは……茅ヶ崎メアリが魔獣に対して殺戮を行った話です」
全て私の記憶にはない出来事。でも全て『茅ヶ崎メアリ』が体験した出来事に違いはない。
私の記憶はごく小さな『蛇』を見たところで途切れている。それ以降の『茅ヶ崎メアリ』は『私』ではない。……とは言っても簡単に信じてもらえる話でないのは百も承知だ。
ユウトリウスは吟味する視線で私を見ていた。私も決して彼から目を逸らすことはしなかった。
沈黙がしばらく続いた後、彼はゆっくりと口を開く。
「……やはり、簡潔にこう訊くべきじゃな。お主は何者じゃ」
私は大きく息を吸い込んだ。きっとこれから言う事は荒唐無稽極まりないものになる。それを相手に信じさせるためにはまず、私自身がそれを信じて、胸を張って言うことが必須だった。
「私は……」
一度バーサに視線を向ける。彼も先程とは打って変わって真剣な眼差しだった。
次にディエナに。そしてクロックに。誰も一様に私を見据えている。
「私は、日本国東京都に住む高校生です。学校は私立清澄女子高校。一年二組の茅ヶ崎メアリ、出席番号は十五です。昨日の朝、登校した私は英語の授業中に『蛇』に襲われて死亡しました。その後、私は『双界の主』さまの元に召されました」
断末魔の叫びを上げる間もなく絶命した葵さんの軽くなった体が目の前に見えるようだった。教室に充満するむせ返るような血の臭いも。
私は息継ぎをして続ける。
「彼女曰く、こちらの世界と私が住んでいた世界を繋ぐ捻じれが発生しており、魔獣とそれを操る術者が私の世界を襲いに渡って来たとのことでした。しかし彼女は多忙でそれを解決できないために、私を使いとしてこちらの世界にお送りになったのです。故に、私の使命はその捻じれを見つけ出して閉じること。その際に、私は捻じれを通って元の世界に戻ることができます。内側から捻じれを閉じ、還る。戻ればそこは私が死ぬ数分前の世界です。そして私は友人を……北乃葵さんを救わなければいけない」
声が震えるのを感じた。自分の無力さと、葵さんを殺した奴らの身勝手に対する怒りから涙がこみ上げてくる。
誰も声を上げなかった。私は大きく深呼吸して、テーブルの上にあったナプキンで涙を拭ってから声を張り上げる。
もう少し、もう少しだけ強くいなければ。
「双界の主さまは私をお送りになる際、二つのものを私に授けてくださいました。どちらもこの世界で生き抜くための力です。ほとんどは『彼女』から聞いたことですが……そのうちのひとつが彼女自身です。そしてもうひとつは『魔法の力』……血を操る魔法の力」
彼女の言葉がフラッシュバックする。一言一句違わずに思い出せる。
『オレはお前に足りない全てだ。悪意、闘争心、傲慢さ、狂気、暴力性……その化身がオレだ。そしてあのババアがお前に寄越した魔法はオレのようにイカれてねぇと使いこなせない。お前じゃ血自体を操ることもできねぇだろうな。精々、血が付いた物を動かすくらいか……。そんなわけでお前はコバエ未満ってわけだ』
私は何も言えなかった。
温室育ちの自覚はある。皆と仲良く生きてきた。喧嘩は嫌いだ。世界が平和になればと願っている。
だからこそ対極にいる彼女の存在が憎くて仕方ない。そしてこんな悪魔を主さまに生み出させてしまった自分自身が憎くて仕方ない。
「二つを授かった私はラルケーの町で彼らに助けられました。何も分からない私はただ隠れて、逃げて。そして逃げている途中で『蛇』を見た私は蘇った恐怖のあまり気を失いました。そこからの記憶はありませんが……後は皆さんの方が知っているかもしれませんね」
私は最後にこう言って締めくくった。
「これが私……茅ヶ崎メアリの正体です。一片の偽りもありません」
私が彼らの立場ならとても信じられないだろう。いくら私でも天国とか地獄とか、ましてや別世界とか転生とか信じてはいなかったのだから。清濁併せ呑んで生きてきたであろう彼らが信じられるはずがない話だ。
ユウトリウスは髭をさすり続けたまま声を発しなかった。さながら彫刻のように気高い姿だった。
昔、見に行ったミケランジェロの「モーセ像」を彷彿とさせた。
そんな中、初めに沈黙を破ったのは意外にもクロックだった。
「僕は……信じるよ……『テラ』の話……」
彼が発した言葉、昨日も聞いたものだ。
それに次いでユウトリウスは言う。
「『テラ』……お主の言葉を信じるとすれば、きっと知らんじゃろう」
「はい……何のことです?」
テラ、という字面だけを見れば寺院のことか地球のことが思い浮かぶ。流石に前者は無いと思ったが。
「子供向けのおとぎ話じゃ。この世界をお造りになった創造主『双界の主』は同時によく似た世界をもうひとつ造った。それが『テラ』。主さまはそれぞれの世界を造った後、それを奪わんとする異次元の邪神と戦い続け、彼女のお陰で今の世界の平穏があるのだ、と教える話じゃ……」
私は雷が落ちたような衝撃を受けた。ユウトリウスの話は私が体験したものにぴったりと即していた。恐ろしさすら感じるほどに。
「知らぬ者はおらん……。しかし信じる者もごく一部しかおらん。赤子はコウノトリが運んでくるというのと同次元の話じゃ」
「俺もお袋から聞いたことはあるが、当のお袋も半笑いで話してたくらいなもんだ。クロックは……生まれが変わってるから信じてるけどな」
「僕は……メアリの……話……信じる……」
クロックは体の前で両手を握って頷いてくれた。少し勇気づけられた。




