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メアリさんと初めての異世界朝食

 私は鏡の中の自分が語ったそんな顛末を思い浮かべながら暗澹たる気持ちで頭を下げていた。


(なんで私が代わりに謝らないといけないの……)


 ユウトリウスは黙って私の方を見ているようだった。私が目線を絨毯に下ろしていても見られているのを感じる鋭い視線だった。


 張りつめた空気の中、バーサが耐えかねたという風に声を上げる。


「あー……陛下? じっくり見てるとこ悪いが、口を挟んでも?」

「……もう挟んでおる。何じゃ」

「その子だ、俺たちが助けたのは。何と言うか……しっかりしてる。何かおかしくなった後のメアリ……様は例えるなら他の奴を殺して道を進むような感じだったが、その子は違う。道を譲ってもらってお礼を言うタイプだ。……分かるか?」

「分からんわ阿呆。大体、その皆殺しにして進む者のお陰でお前は生きているのじゃろうが」

「……」

「じゃがまあ……少なくとも、何かが違うようじゃ」


 ユウトリウスは私に顔を上げるよう言った。その顔は柔和で、いかにも好々爺といった感じだった。


「まずは朝食にしよう。昨日の昼から何も口にしておらんのじゃろう?」

「え……」


 私は言われてようやく、自分が限りなく限界に近い空腹であることを知った。

 私の腹の虫が盛大に鳴く。思わず侍女の数人が噴き出したのを見て私はひどい羞恥に襲われた。

 教室で居眠りをしてしまった時にも劣らない恥ずかしさに私は俯いてしまった。


「……お言葉に甘えて」


――

――――


 私にとって初めての宮廷料理的な食事は至ってシンプルなものだった。

 パン、と言い切っていいのかは分からないが、とにかくフランスパンをトーストしたようなものが、映画で見る長いテーブルの上に用意されていた。何種類かのジャムとフルーツも置いてあった。


 私たち――私と例の三人組、そしてユウトリウスがそれぞれ席に着いた。


「手錠を外してやりなさい」


 侍女たちが国王命令に従って私と三人の手錠を外した。


「外してよかったのか? いきなり逃げ出すかもしれないぜ」

「昨日と同じように、この部屋も包囲されておる。いくらお前といえど逃げられはせん」

「そいつは残念」


 ユウトリウスは軽口を叩くバーサを一瞥すると、両手を広げて目を閉じた。


「では、皆の者……穀物を育てた者、果物を育てた者、野菜を育てた者に……感謝の祈りを捧げて食すのじゃ」


 私はなんとなく懐かしい気分になりながら手を合わせた。


「いただきます」


 向かい側に座るバーサとディエナは水の入ったグラスで乾杯してから一心不乱に食べ始めた。彼らも腹を空かせていたのは同じだったのだろう。

 クロックは私をしばらく凝視していたかと思うと、見よう見まねで手を合わせて皿に手を付けた。


「ふふっ」


 汚れた服から私と同じような服に着替えた彼はかなりの痩身に見えたが、ここに来てやっと私より少し下らしい年相応の少年に見えた。


「話はこの後で聞こう。まずは腹を満たすのじゃ。じゃが、あの者共のように一気食いはよくないのぅ、喉に詰まらせると危ない」

「ええ、そうですね。ありがとうございます」


 ユウトリウスは笑って赤いジャムを塗り始めた。

 私はオレンジ色のジャムを塗ってバゲットを食べることにした。期待通りに柑橘系の味がした。


 一人ひとりに配膳されたフルーツに私が手を伸ばし始めた頃、とっくに完食して暇を持て余していたバーサがディエナとクロックに向かって言った。


「国王のメシなんて朝から羊の丸焼きでも食ってるもんだと思ってたが……案外普通だな」

「そうね、まあ毎日これを安定して食べられるって十分贅沢とも言えるけど」

「バーサの……メシの……一兆倍は……美味いよ……」

「うるせぇ」


 ユウトリウスは手を休めて三人に言う。


「ワシらは国民に納税を強いる立場じゃ。贅沢な食事など許されるものではないわい。……調度品については、先代と先々代と先々々代の趣味故、許してもらいたい。ワシは誓って買っておらん」

「あんた、俺みたいなこと言ってるぞ。分かってるか?」

「……うるさいわ」


 バーサは眉をひそめたユウトリウスを見てにんまりと笑った。


 咳払いをして彼は続ける。


「しかし……その者の言う通り、国民の中には満足に朝食も摂れない者がおるのも確かじゃ。何としてもワシの目が黒い内に解決したいところじゃな」


 ディエナはそれを神妙な面持ちで聞いていた。何か思うところがあるのだと私は感じた。


「さて……皆の者、腹ごしらえは済んだな。ではそろそろ本題に移るとするかのぅ」


 四人の視線が私に集まる。私はいつにない緊張感に生唾を飲み下した。


「まずは……そうじゃな、昨日のことを覚えているかどうか訊こう」


 ユウトリウスの問いに私ははっきりと首を横に振った。


「申し訳ございません。大変な無礼をはたらいたにも関わらず、私にはその記憶はありません」

「本当びっくりしたぜ、いきなり『殺すぞ』なんて啖呵切る女は俺はこれまで一人しか見たことなかったね」


 ディエナがバーサの頭をはたく。

 そしてにこりと笑って言った。


「あんた黙ってな。……どうぞ陛下、続けてくださいな」


 クロックはひひひ、と引き笑いを漏らしていた。


「記憶はないというが、お主はそのことを知っておったな。誰から聞いたのじゃ。バッキスか、それともマルキス――お主を連れてきた騎士か?」

「違います」


 あの騎士はマルキスと言うのか、と思いながら私は答える。


「では誰に?」

「……正直に申しますと、私がこれからするであろう話は皆さんにとっては信じ難いものだと考えております。ですが、私は一つの偽りも申しません。父と母、それに……友人の名に懸けて真実だけをお話しさせていただきます」


 私はテーブルの下で拳を握り締めながら言った。お父様とお母様、そして葵さんの顔が何度も脳裏を駆け巡っていた。


「ふむ……とにかく話してみるがよい」


 白い髭を撫でつつユウトリウスは促す。私は頷いた。


「まず陛下のお言葉にお答えさせていただきます。私が事の顛末を聞いたのは昨夜、檻の中でのことです。相手は……『鏡の中の私』でした」

「何じゃと?」


 信じられないのは当然だ。一番目と耳を疑ったのは当事者である私なのだから。


「私が目を覚ましたのは陽が落ちてから――恐らくは深夜だったと思います。ですよね、バーサさん?」


 私は不貞腐れた風に窓の外を見ていたバーサに同意を求めた。証言ができるのは彼しかいなかった。

 するとバーサは水を得た魚のように生気に満ちた顔つきになってニヤニヤしながら始める。


「ああそうだぜ。あれは零時を少し過ぎた時のことだな」

「何故お前がそれを知っておるのだ」

「さあ? ただ俺は二十四時を回った頃、彼女が目を覚ましたことを知ってるってだけさ」

「……さては貴様……脱獄しおったな?」

「どうだろうなぁ? だがまぁ……仮に、あくまでも仮に俺が脱獄しようと思えば……十分と掛からずに抜け出して、侍女共のメイク室を漁ってどこかに行って戻って来るまで……一時間も掛からねぇだろうな」

「……今夜から警備を強化させる。情報提供に感謝するとしておこうかの」


 ユウトリウスは凄まじい剣幕で唸った。一方でバーサは宝くじが当たった翌日といった風にニヤニヤが止まらない様子だった。

あらすじの雰囲気変えてみました。どんな感じがいいのか全然わかんねぇなぁ……。

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