第9話「Blown a Wish」
良し! もしかしなくても駄作かもしれないが、
僕、「早水 心也」の四十年間を暫定的に打ち込めた。
これは、僕にとって何かを始める上で最も大切な事のひとつなので、
早めに僕自身の精神安定の為に、胸によく刻んでおこう。
人間は完璧じゃない。だから完全も求めない。
まず一歩踏み出してみる事が大切、できるできないは天命。
できるなら、勝手にできる。“好きこそものの上手なれ”。
才能というものは、結果的に「人を喜ばせる」人間に宿るもの。
人気を得る能力。どんなに優れて見えるものでも仮説、暫定に過ぎない。
独りがそれ程怖くないのなら、才能の差を恐れる必要なんてない。
ただの……、きっと、個性と呼ばれるものの範疇。
僕の場合すぐチューニングが狂うから、備忘録。
………………
…………
……
この創作は全十一話と始める前から決めていたから、
あとは、今回を含めて三話で終わり。
三話余る事も分かっていたので、何を物語るのが僕らしさかしら?
そう悩みましたが、さん……三か…………、っ、
セックス・ドラッグ・ロックンロール?
いや、ダメだ……、セックスした事ないし、
ドラッグの知識だって大した事ない、
僕のロックンロールは形骸化して中身もないし、無い無いだらけだ。
打ち込んで、やり甲斐を感じられないなら、僕の創作はそこで終わり。
うん、僕の様な中途半端で浅い人間が、
セックス・ドラッグ・ロックンロールとくるからダメなんだ。
単純に、
性・薬・音としてゆこう。
………………
…………
……
まず「性」の話しから、
幼稚園で性に目覚めてから、およそ三十五年間、
全く自慢にもならないが、自慰行為をしていない一日の方が圧倒的に少ない。
立派な性依存と呼んで差し支えないだろう。
しかし、大半の自慰行為の思い出は、ひたすら虚無的だ。
やらなきゃいけない気がするからやってる。
要は心身、脳内からの命令でほとんど義務的に行ってきた。
小学生高学年から中三頃までは、
悪友コバタンによる、エ○マンガ調教を施された。
いや、好きでやってたんだけど……。
真実は闇の中、
僕にはその頃、リアルの女の子より、
エ○マンガの美少女の方が扇情的だった。
学校に行って女子を見て勃起する様な経験は一度もしていないが、
エロマンガは雑誌の表紙を見るだけでよく勃起したものだ。
もうこの頃に、僕の童貞航路は出航していた様に思う。
三次元の女性に、数えられるくらいしか、学生時代は興奮しなかった。
だから、今でいうならリア充男子に見える輩が、
「あの子とキスしたらしい」とか「あの子と寝たらしい」と聞いても、
全くピンとこない、「それって美味しいの?」ぐらい、
僕のリビドーを揺らしもしなかった。僕には無関係の話しだ。
高校時代にサッカー部のマネージャーのホンダさんの胸を触った時は、
おそらく勃起もしていただろうが、それを女性器に挿れるなんて知識さえ、
高校生になっても知らなかった。
ミドーの友人男性の、スミくんの彼女さんの手を握った時は、
はっきりと勃起した事は今でも覚えていて、
女性と手を繋ぐだけで勃起する事実には当時驚いた。
けれど、好意をよせている女性に対してさえ、
積極的にセックスしたいとか、
特に、キスしてみたいなんて、まるで考えなかった。
そこで二十一歳にフクさんと出逢う訳だが、
現在間違いなく最愛の女性でも、
その頃はフクさんにさえ無反応だった。
大体なんで、キスとかセックスとかになるんだ。
全くしたくない訳ではないだろうが、
何十年間もしてきた自慰行為の成果か、
最初は夢中になってセックスを求めるだろうが、
すぐに飽きる事になるだろうとシミュレートはできた。
その結果だけで絶望する。
大勢の女性と寝る事が生き甲斐の男性には、
僕の思考は理解が難しいだろうが、
僕が求めているのは、愛する一人の女性との、飽きない性行為の探求だ。
しかし、それもドラッグの快楽を覚えてしまった事で、
嗚呼、
こりゃ素面のセックスじゃどうしようもなんないわと、寂寥と諦観をした。
ドライオーガズムを極められれば、この限りではないのかもしれないが、
あまりにも高いハードルの様な気がして、やる気が起こらないのが現状。
男女や同性間でドラッグをキメてセックスする、
いわゆる「キメセク」には惹かれなかったし、風俗に行くなら、
独りで部屋にこもって「キメオナ」をしている方が余程性に合った。
ここまで来ると本格的に悩む、
僕は、人間自体が嫌いなのではないのだろうか、と。
だけど三十代半ばを過ぎた頃、
初めて人にキスしたいという感情を覚えられた。
フクさんにキスしたいと本気で想った。
それは僕にはこの上ない喜びのひとつで、
人間らしい感情や欲求を持てた事が嬉しかった。
この頃からはマンガではなく動画を鑑賞して劣情を処理する数が増えてゆく。
リアルの女性にも、性的欲求を向けられる様になってきた。
それはそれで、僕には喜ぶべき事でもあるのだが、
モテない人間にとって女性に対する性的欲求なんて、
煩わしいだけのものとも思い知る。
ただ精神的なものだけでなく、身体的に不安な部分もたくさんある、
頭部は髪が薄くなってきたし、なら体毛自体も薄くなってくれと思うのだが、
いかんせん体毛は濃く醜い身体だ。運動不足と過食で太ったり、拒食で痩せたり、
およそ僕の人生の履歴書が存在したら、何処にも引き取り手がないと思う。
幸か不幸か、孤独には耐性があるので、まだ健康な今の内はのん気なものだが、
高齢者と呼ばれる頃にはどうなる事やら。
僕の創作の価値観から言えば、みんな「普通」だが、
植え付けられた社会的価値観で言えば、僕の存在価値は風前の灯火だ。
生殖行為は人として生まれたからには、経験しておきたいものだが、
フクさん以外とはしたくないし、子供を作るという前提でなければ、
別にオナホでも買えばいいと思ってしまう。
性依存という言葉の多様さを思えば、
性依存でない人間を探す方が難しい様な気がする。
セックスをした事がないという事実は、
世間一般では恥の部類に入るのかもしれないが、
およそ、「依存」というものに対して、
体験した事がないという事実は、「依存」に対する最高の防衛手段だ。
それを自覚しているかしていないかでは、
人生を操る側か操られる側になるかぐらい深刻で重要な問題。
裏表なんて、本当に紙一重なんだ。
………………
…………
……
物語の始まりは、ほんのささいな事。
男の子は、女の子と出逢えた、大きな喜びと、
女の子に、お別れを告げなくてはいけない大きな哀しみを、
きちんと整理する為だけに、物語を創る事を決めました。
でも、
お別れをしてしまう事が本当の哀しみじゃないって、
しばらくしてから、男の子は気付けたんだよ?
きっと誰でも本当に嫌なのは、…………大切な人を忘れてしまう事。
けれどきっと、それもきっと、あっという間の一日の終わりを迎える為に、
神様がご用意して下さった、人に必要な、大切な安らぎなんだと思います。
有難う 出逢ってくれて
僕 きっと また 君の事 忘れちゃう
だけど 必ず また 見つけてみせるよ
繰り返す 繰り返せる いつか来た道を もう一度 また
君と歩く為に
切なる願い 君の傍にずっと
それは
強い風に吹き飛ばされたとしても
………………
…………
……
「っ……さん? ぉ……と……さん? ぉ……父……さ……んてば?!」
「ぅ…………ぅん? は……ぃ? あ……れ? 捧華が……いる……?」
「っ、何言ってんの? 当たり前でしょ?
あたしは夏休みなんだから。
朝ご飯できてるよ? 二度寝したらお母さんに殺されるよ!?」
「……そうか、倖子君がいるのか……」
「っ? お父さん? 寝ぼけるのもいい加減にしなよ?」
「そう……ですね……、捧華や?」
「な――、なに? お父さん、泣いてるの?」
「捧華を……、抱きしめてもいいかな?」
「いっ!? ほっ、本当に何言ってんのお父さんっ!?
いっ、嫌に決まってるでしょ!? そんな事よりまず服着てよっ!?」
「そうか、分かりました」
「ぉっ、お父さん? なんで泣いてるの? 悲しい夢でも見てたの……?」
「は……はは、悲しい夢か……そうだね、
そうかもしれないね、“うつし世はゆめ よるの夢こそまこと”」
「江戸川乱歩?」
「そう、捧華はどんどん賢くなってしまうね」
「お父さんのその言い方、まるであたしに賢くなってほしくないみたいね?」
「そういう訳じゃありませんよ?」
「じゃあ、どういう訳なの?」
「うつし世も、夢も、まことたりうる、という事です。
少なくとも、僕にとっては」
「っ? それって」
「おい! バカだんな様!! 早く起きないと朝ご飯抜きにするぞっ!!」
「てへっ♪」 「ふふっ♪」
………………
…………
……
そうして僕は、
こうしてふたつ以上のまことを行き来し、
日々をなんとか、生き延びているので御座居ます。
なぜならそうしなければ、
僕の人生には、なんの意味も残らないのですから。
創作者の歓喜と悲哀、
君に――、
君達に――――、
触れられる涙、触れられぬ涙。
ねがいをふきとばした
まだきみたちといたい
いまおもうのはそれだけです