第2話「Loomer」
それでは引き続き、小学校一年生の記憶を掘り起こしてゆこう。
しかし、こちらも幼稚園と同様に、一年生の頃はほとんど思い出せない。
これでは、何の為に、何を残したいのかすら分からない程、
僕の記憶は曖昧模糊、……いや、もはや、子虚烏有かもしれない。
人は忘却ができるからこそ生きていけるとは思うが、
なんて空虚な過去なのだろう。
そこでふと、今年……、2018年の年賀状を取り出してみる。
スーくん、タダヨシ、ミユキさん、ボブ。
四人か……、少なくとも僕と繋がってても良いという友人が、
僕には四人以上もいるんだ。しみじみ感謝する。
スーくんは、小中を卒業するまで、僕が一番苦手とする友人だった。
タダヨシは口は悪いが、根はとても優しい高校時代からの友人。
ミユキさんは、僕にとって一番の女性の友人で、とても誠実な人物でいてくれる。
ボブは、アダ名であり、実際は日本人女性だ……、多分。
僕は無関心だけど、
そんな僕が人間を続けていても良いと思わせてくれる人達だ。
あとは、年賀状は途絶えてしまっているけれど、
僕の、一番の男友達、ミドー。
勝手な僕の持論だけど、最高の友達とは、
最悪の思い出を共有してくれた人物でもある。
僕はそう思って、毎日を歩んでいる。
ミドーは僕の心の中に確かに存在している。
OLinerとして過ごしていれば、
みんなに、また必ず出会えるだろう。
はてさて、そんなこんなで、人生をわずかに振り返ってみると、
おぼろげにその輪郭が見えてきた気がする。
小学一年二年の頃までは、そうは思っていなかったけれど、
小学三年生になった時、僕ははっきりこう思った。
「まだ、あと三年間も小学校に通わなきゃいけないんだ……」
これが僕の、おそらく生まれて初めての、自殺の記憶。
僕はこの頃で、学校というものがほぼほぼ嫌いになった。
原因は先程のスーくんによるものが大きい。
三十年以上前の人間関係を、緻密に思い出せる程、
僕の頭は出来が良くないから、適当にはっきり断言するなら、
イジメにあう様になった事だ。
けれど人生に無駄な事などない、そんな考え方もある。
昔はどうあれ、現在の僕はあらゆる人々から恵まれた環境にいる。
だからこそ、こう思える。
長いスパンで見れば、イジメられっ子より、イジメっ子の方がシンドい。
その人に、愛するものができた時、それは自然と解けてゆくのが人生だ。
だからこそ、僕もスーくんを恨む事ができない。
“人を呪わば穴二つ”、だから。
それに、子供は純真な害悪でもあるから、
イジメられっ子がイジメられていると思ったとしても、
イジメっ子にはその意識がない場合もあると思う。
僕にしたって、蛾を捕まえて羽を引き裂いたり、
蟻達の巣に意味もなく水を注いだり、
蛙達を指ではじいて気絶させたり、心無い事を続けてきた。
まさに自業自得、因果応報だ。今日、命があるだけでも有り難い。
僕が最も嫌いな言葉に、「何の罪も無い人々」という言葉があるが、
そんな人間は存在しない。人間は、生きているだけで虐殺者だ。
真実は自分自身が決めればいいが、
現実は限りなく事実。だから、本来ならば、人生とは肯定し続ける事しかない。
しかし、それでも中庸さや否定が存在するのは、
人々の中に愛があるからこそだろう。
右も左も大切。どちらかに偏りすぎては、人間は立ち行かなくなる。
自己責任も連帯責任も、人々の都合よく利用してゆかなければ、
瞬く間に、人類は滅びてゆくだろうから。
僕の小学三年生での自殺に並行して、捨てる神あれば拾う神あり、
それは某国民的RPGからもたらされた、僕の兄からの言葉だった。
兄はこう言ってくれた……、「キャラクターの名前、心也が決めていいよ」と。
たかがそんな事かと思われるかもしれないが、
僕には信じられない程の喜びがあった。
僕にとって名前とは特別なもので、
そんなに大切な事柄を、僕に任せると言ってくれたのだから。
カッコいい名前をつけなければと、
実家には、兄という大きな安らぎがあった。
父は、男は背中で語れという人だったし、
母は、勉強のできない僕には厳しい人で、
姉は、兄と僕の部屋には、滅多に訪れなかったから。
一応大人をやらないといけない筈の年齢になった今ですら、
特に姉という存在は、理解が難しい……。
でも、少なくとも僕程度が心配するなど、まだまだおこがましい、
強く優しくも世話焼きな、立派な男性二人を育て上げた母親だ。
姉の旦那様、僕の義兄も、僕などでは到底太刀打ちのできない、
頼りがいのある、勇気の人だ。しかし僕の長年の度重なる無礼で、
ずいぶん信用を失ってはいると思う。
けれど、姉を、姉だけを守って下されば、
僕はそれでいい、それだけで、お返しできるものなど何もない大恩。
姉兄は他人の始まりというが、
僕の身の回りは、これ以上望むべくもない人々に満たされている。
特に兄は僕の尻拭いばかりだ。
僕から、一度伝えはした、
僕と絶縁してもらってかまわないと。
けれど今でも僕の尻拭いをし続けてくれている。
兄のお嫁様、僕の義姉と二人の姪には、やるせなくてどうしようもない。
答えがあるとすれば、これからよくよくおとなしくしておく事だろう……。
すでに兄のご家族には、
これから一生をかけても、返しきれない恩がある。
そして僕は兄のご家族へ命を預かってもらっている。
その善し悪しは分からないけれど、
僕は、自分自身を信じる以上に、兄を信じている。
兄は、軽々しく暴力を振るう様な人では、決してないが、
弟の身として、怒った兄は、今でも怖い。
兄を怒らせた時点で、まず間違いなく、僕の方に落ち度がある。
なんて有り難い導き手だろうか。
………………
…………
……
嗚呼……、気軽に自分の過去を散文にして見始めたけれど、
本当に悪い意味での散文でしかないな……。
とは言え、一度始めた事は、できる限りやり遂げたい。
僕はアマチュア作家だ。やり直したければ、死という制限まではやり直せるはず。
創作は僕のライフワーク、生きる意味のひとつ。
目的は、永遠の女性への、捧げ物。
………………
…………
……
僕は、祝いの席も、弔いの席も、いつも何故かどれも好きじゃなかった。
それはきっと自分の無力さを思い知らされるからだろう。
僕のこれから向かう場所が、神聖なものか邪悪なものかなんて分かりはしない。
けれど、
孤独を感じ、人々と手をとりあって歩まねばならない事は、確かな事実だろう。
ねんにいちどでもきみにあえたらな
ぼくのしかいにうつってくれたらな
ねぇヴェガ