ペンダント
「ヒック?誰だそれは...っ!?」
屋敷の主人は、震えるような声で叫ぶ。
「私のヒックを!返しなさいっ!!」
黒髪の女の顔は、怒りの表情へと変わり、強い光が部屋を覆う。その強い光は、辺りを一瞬、何も見えなくする。
そして目を開けるとロランは、何も無い真っ白い空間に居た。
本当に真っ白い。周りには何も無い。
下にも上にも、あるのは〖白〗だけ
感覚が、おかしくなる。
浮いてるのか、地面に四つん這いになっているのかも分からない。ただ手と膝には何かに当たっている感触がある。
黒髪の女が、ロランを見る。
(あ、、、)
ロランは気づくのが遅かった。隠れてた壁が無くなってしまって、丸見えになっているのだ。
まだ感覚が気持ち悪いが、地面はあるようだ。走れる。
考える前にロランは、黒髪の女と反対方向へ、全力で走った。
屋敷の主人がどうなったか?などは、一切考えず、ここがどのような空間かも考えない。ロランは、ただ『助かりたい』それだけを考えて走る。とにかく、あの女から離れなければならないと思って。
が、何かに足を引っ掛けて、直ぐに転ぶ。
この真っ白い空間でも、転けると痛いのだと、ロランは少し思った。
ロランは自身の足を見る。あの女の黒い髪が、足にまとわりついていた。
いつの間にか、黒髪の女が微笑んで、間近に立っている。
ロランは、この空間の事と恐怖で、頭が混乱して声も出せない。
女は両手を広げ、微笑みながらゆっくりと口を開き囁く...
「あぁ...私の愛しいヒック...ここに居たのね」
(ヒック?誰だ?)
「あなたよ」
(え?コイツ何を言って...)
「ダメじゃない、そんな口のきき方しちゃ...」
(?!俺の考えてる事が分かるのか?!)
「もちろんよ。あなたのママなんだから。私は、あなたの考えてる事なんて、カンタンに分かっちゃうわ...」
黒髪の女は、とても優しい笑みを浮かべている。。。
(ママ...?確かに俺に親は居ない。
コイツが俺の母親?!こんな化け物みたいな奴が?!
そんな訳、、、あああっ!もう!
頭がおかしくなりそうだ!!!!)
気づけば黒い髪の毛が、ロランの周りを囲んでいた。
そして黒髪の女の身体が中心から、十字に青白く光る。
眩い十字の光が消えると、黒髪の女は居なくなり、青白く光る球体がそこにはあった。
その球体から、細長い蛇の様な動く触手が、何本もヒックへと伸びている。それはロランのあちこちに噛み付く。
(うわっ…し、死ぬほど気持ちが悪りぃ…)
ロランは、気を失いそうになる。
「あぁ、ヒック…私の、ヒック…」
そして小指を噛まれた時、ロランは気を失う感覚に襲われたが、すぐ正気に戻る。
(はっ!?)
いつの間にか、黒髪の女は居なくなっている。
辺りを見回すと屋敷の主人の部屋だった。
ご主人様が倒れている。
とロランは思う。
他には誰も居ない。。。数十個あった黒い繭も無くなっていた。
ロランは、屋敷の主人様を抱えて、外へ出る。屋敷の火は、不思議と消えている。遠くからジュードの声が聞こえた。
「おぉぉぉい!ロラァァァン!!!」
そうだ、俺はロランだ。
ヒックなんかじゃない。
ヒック?ロラン?俺は?なんだ?誰だ?
少し頭が揺さぶられた感覚があったが、すぐ元に戻った。
「ロラン!町のみんなを連れて来た...って赤ん坊や他の連中は?」
俺は、首を横に何度か振りながら、抱えていたご主人様を地面に下ろし、そこで意識が途絶えた...。
ロランは、その後5日も眠りつづける。
屋敷は解体され、建て直し作業が進む。
屋敷の主人は、あの時の記憶があまり無い様だが、ロランを命の恩人だと言って、執事長へと昇格させた。
と言っても今や、この主人とジュード、そしてロランの3人が屋敷の住人となる。
他のメイドやご婦人方は、あの火事で亡くなってしまったらしい。ただ骨も何も見つからないので、族の仕業じゃないか、との噂も流れた。
ロランもあまり、あの日の記憶は定かでは無い。そして、あの日見た光景を思い出さないようにしていた。
しかし。
「俺の胸には、見覚えの無いペンダントがある。これはあの日、急に俺の首に出現した。どう頑張っても外す事は出来ない。。。」
そう言ってヒックは、胸元に手を入れ、青い小さな宝石が付いているペンダントを、ロッシーに見せた。
それを見てロッシーは、一瞬驚いたが。
(胡散臭い)
と素直に思った。
月がミシの街を照らし、星は空に輝く。
2人の未来が、明るく進むように。