信じろというの?それを?
あれからロッシーは、村での仕事が終わると、一目散にミシの図書館へと走り、本を読み漁る日々が続いていた。
(明日が来なければ、ずっとここで本を読んでいられるのに…)
そんな事を考えながら。。。
何度も足を運んでいると、往復の時間と、図書館の閉館時間などを、計算出来るようになり、一日で本が何冊読めるのか?などと計算する。ロッシーは本を読むのが早い。1日にざっと10冊は読める。
だが読める量は本の大小にもよる。その他、感動的な本の読後は、読み返してみたり、本の中に想いを馳せたりしていると、次の本になかなか進めなかったりするらしい。その場合、読める限界数は減る。
「なるほどぉ。こんな終わり方しますかぁ。なるほどぉ、なるほどぉ、ふむふむ…」
ロッシーは特に気に入った本を、メモに残す習慣がある。また読むかはさておき、何か記録として残しておく。そうする事でまた、このメモを見た時に、読み終わった時の感情が、胸を熱くしてくれるような気がするのだと言う。
そして今回も、胸に手を当ててジーン...と感動し胸を熱くしていると…
頭に鈍痛が伝わった。
ロッシーは、ここが図書館だというのも忘れて大声で
「いったあああああああああい!!!」
と叫んでしまった。
次の瞬間、口を手で覆われ息が出来なくなる。
「ば、ばか!なんて大声出すんだよ!そんなに強く叩いてないだろ!み、みなさーん、す、すいませんです!」
こないだ図書館まで道案内してくれた、足が早い好青年だ。
名前はヒックと言うらしい。
ロッシーの大声で、周りがザワついたのを謝っている。
自業自得だ。とロッシーは思ったが口には出さない。と言うより口を塞がれて喋れ無いでいる。
「(ふごぉでふがぁ!)」
喋れないと言うより、息も出来ないでいた。
「お、悪りぃ悪りぃ。本の蟲ちゃん」
「ぷはっ、ちょっと私の事を殺しに来たの?!ってか、またその名前で!私の名前はロッシーよ!いい加減覚えてよね!アホヒック!」
ロッシーとヒックは、あれから何度か道ですれ違う事があった。
ロッシーは最初、図書館へ案内してくれたお礼や、村で採れた野菜などをあげて、村で育ち、本を読む為、この大帝都ミシへ来ている事を話したりしていた。
それが1ヶ月程続いた結果、この様なちょっかいを出して来る程の仲になり、今ではこんなやり取りをしょっちゅうしている。
「ロッシー、お前ちゃんとメシ食ってるか?色は白いし腕も細い。背はちんちくりんで目も大きいから、余計に目立つ。よくそんなんで、畑仕事とか水汲みとか1人で出来てんな?」
ロッシーは朝というか、早朝には起き、まだ空が暗いうちに畑仕事を終え、身支度をして山を越え、帝都の図書館が開くと同時に入り、図書館が閉まりそうな、暗くなる時間まで本を読んでいる。
なので最近は、色も白くなり、元から体格は細い方なので、華奢に見えるのかもしれない。
けれどロッシーは、まったくもって元気!健康体!チカラだって、そこらの男にゃ負けない自信があるようで、それをヒックに、意気揚々と伝えている。
「少し、メシでも食いに行かないか?俺と」
突然の誘いに、ロッシーは目が点になった。この1ヶ月間で初めての事である。
「え?今から?」
「ああ、そーだよ。ちょうど本も読み終わっただろ?区切りがいいと思うが?」
「た、確かにそーだけど。。。」
(どっかで見てたのかしら…?)
少し怪訝なロッシーを横目に、ヒックは本の山を両手に抱える。
「んじゃ決まり!ほらっ早く本を直してこいよ!あ、高いところのは俺が手伝ってやるから」
「それなら全部片付けて来てくれたまえ。私はその間に少しこの本を...」
と、まだ読んでない本を、ロッシーは手にとって読もうとするが、ヒックのすこぶる怪訝な顔を見て、ロッシーは静かに本を閉じて返却作業へと勤しむ。
…パクッ。
モグモグ。。。
「んっ?!んまぁぁぁぃぞぉぉぉぉい!!なにコレ?!美味しい…」
ロッシーは出された料理が、何なのか分からないが食べた。
とても香ばしい甘い香りのする料理だ。
「そうだろぉ?!ミシ名物ナーウギの蒲焼きだ。俺もこの街に来た時に食べたが、腰が抜けたもんだ」
そう言ってヒックも食べ始める。ほっぺたが落ちそうな顔をしている。2人はしばらくアハハ、エヘヘと言いながら食事をしていた。
「あ、ヒックって、ミシの出身じゃないのね。て、てか、なんでこんな高い料理を…私…なんかに…?わ、私…お金はそんな持ってないからね…」
ロッシーは、(しまった)という表情になり。料理を食べる動作を止めた。
「...っプ!安心しろって!オメェがあんまりにも虚弱に見えたから、何か美味いもんでも食わしてやろうって事だよ!それと、あと頼み事があるんだ…」
馬鹿に明るく笑っていたヒックは、急に真剣な顔をする。
「頼み?!」
ロッシーは一瞬、安堵して食べ始めようとしたが、また料理を食べる手を止めた。
そして目の前で頭を下げてるヒックを、ロッシーは引きつった顔で見下ろしていた。
「た、頼み事ってなんなのよ!?私、何も出来ないわよ!てかやっぱり裏があるんじゃない!先にゴハン食べさせるなんて卑怯だわ!愚の骨頂よ!!嘘つきヒック!」
ロッシーは店内だというのも忘れ、椅子から立ち上がり大声でヒックを責めて叫ぶ。
「うわ!大声出すなよ!み、みなさーん…なんでも無いんです~。すいませんすいません。てか、落ち着けロッシー。(とりあえず恥ずかしから座ってロッシー)わ、悪いって、、、騙した訳じゃねぇんだよ。(あと恥ずかしいから早く座って)。。。何も絶対、お願いを聞いてくれってんじゃねぇの。とりあえず話だけでも聞いて欲しくて、こうやって食事に誘ったんだ…が…(早く座れよ!!)」
ヒックは顔を上げて、ロッシーに困った顔を見せている。しかし、ロッシーはヒックを、軽蔑した顔で見下ろしたまま。
「もう、あなたの事は何も信じません!」
と言いながら、料理をガツガツ食べている。ロッシーはとりあえず、食事を続ける様子であった。
ヒックはそれを見て、少しバツが悪そうにハニカミながら、ボソボソと話を始める。
「まぁ話を聞いてくれロッシー、実は俺、不老不死なんだよな…」
「はぁ???」
ロッシーの料理を食べる手が、また止まる…。
ロッシーは思う。
あぁ、早く図書館で本が読みたい。
それだけで、幸せだったのだと気づいた。
甘い話に裏がある。
本の中の世界では、いつもそうだったと思い返しながら。。。