想い愛
機兵操作が不得意なリュウローは、自分が空を飛んでいる事に、、、感動していた。
「お、俺…すげぇ!」
目を輝かせながら、工場地帯を真下に見ている。とってもスピンしながら。
が、退避用のジェットパックなので、燃料も少なく、飛行操作もままならないリュウロー機は、山の方へとスピンしながら飛んで、墜落する。
機兵は尻もちを着くような形で着地し、足を曲げ、尻を着いて、頭は前へと項垂れたまま静止する。
「い、痛い…ずっと飛べるんじゃねーのかよ…」
コックピットの中で、シートベルトもしていなかったリュウローは、ひっくり返っていた。
そして何処からともなく聞こえる、近い距離から大きな叫び声がしている。
「うっぎいゃああああああああああああああああああああああっ!!!!!!!」
「な、なんじゃこりゃあああああああああああっ!!!!」
そして墜落した時に、機兵の顔が右上を向いて、左の生きているカメラが真正面の股下に居る、リュウローの知らない男女をメインモニターに映し出す。
「なんだ?コイツら?こんな山の中で何してんだ?」
その男女は慌てて立ち上がり、森林の方へと走って行こうとしている。
それを見たリュウローは、慌ててハッチを開き謝る。
「おーーーい!驚かせてごめーーーん!ケガとかないかーーーー?!」
その声が聞こえたのか、走って居た2人はピタッと足を止めて、こちらを振り向き全速力で、リュウローへと向かって来る。
リュウローはそれを見て、恐怖する。
「ちょちょちょっちょっとぉ!何考えてんのよぉ!こっちは死にそうだったのよぉ?!?!」
「そうだぞ!危ねぇなっ!てか、なんだよこれは!魔竜騎か?!お前は何処から来たんだよっ!!!」
2人は、リュウローを責め立てる。
「ちょちょちょっちょっとぉ!聞いてんの!?なんとか言いなさいよ!」
特に女の方がヤバい。
1人の女は凄い勢いで、機兵をよじ登って、開いたハッチの前まで来ている。もう1人の、何だか葉っぱで作った、マントの様な物を着ている男は、何故か登って来ないで、股の所で叫んでいる。
リュウローは、2人の気迫が凄すぎて怖くなり、ハッチを閉じた。
ちなみにハッチは、観音開き型で扉には一応取っ手がある。それを女は、引っ張って開けようとしている。
「ちょちょちょっちょっと!開けなさいよ!んぎぎっ?何これ硬い!開かないわ、ちょっとヒックも手伝いなさいよ!」
「お、おう!って俺、腕がねぇんだよ!登れねぇ!」
「気合いよ気合いっ!足があるでしょ!」
「え、えぇぇ…」
リュウローに声が届く。
メインモニターは、ハッチを素手で開こうとしてる女を、ドアップで映し出す。
リュウローはコックピットの中で、震えて丸まっている。
「こ、怖ぇ。な、なんだコイツら…サ、サラン…助け…って、あっ!サラン!!って、ん?!なんだこの音…」
コックピットに何かが軋む音が聞こえているかと思ったら、突然、何か大きな音と共に、ハッチが開いた。突然の事にリュウローは、恐怖と驚きで、、、。
死んだフリをした。
「え?!ちょちょちょちょっと!大丈夫?!ヒック大変!この子、気を失ってる!」
そう言って、女はハッチから下に降りた。
それをリュウローは、薄目で見ていた。
「ロッシー、お前…アレって、手で開けて良い物だったのか?凄い音してたぞ?潰してねぇだろうな?どんなチカラしてんだよ…」
ヒックは完全に呆れている。
「だって緊急事態だし、てか男の子が中で気を…」
失ってる。と言いかけた時、ハッチは開いたままの機兵が立ち上がろうとする。
女が下に降りたのを、薄目で見ていたリュウローが、チャンスを逃すまいと、騎兵を動かしたのだ。
「え!」「うわ!」
機兵が突然動くのに驚いた、ロッシーとヒックだったが、ロッシーはヒックと自分に、飛行の魔法を使ってコックピットの方へとユラユラ飛んで行く。
ヒックは少し驚いていた。ロッシーがいとも簡単に飛行魔法を、ユニリンク状態でも無く、しかもヒック自身とロッシー本人の2人分に使っているからだ。
「お前…これって…」
その声は、集中しているロッシーに届かなかった。
機兵のハッチはロッシーが、無理矢理開けたことで、潰れたようだ。閉まらない。
しかしリュウローは少し困ったが、モニターが使えないので、前が見やすくなったと思い、そのまま前進して、工場へと機兵を歩かせようとした。
のだが、目の前にロッシーとヒックが宙に浮いて立ちはだかる。
この世界に魔法は無い。リュウローは本当に驚き、、、。
死んだフリをした。
「もう騙されないわよ!!」
その声を聞いて、慌ててリュウローは目を開き、機兵の方向転換をしようとする。
だがロッシーの飛行魔法の方が早いので、先回りされる。
そして方向転換をし、先回りされ、その場で回るリュウロー機。
ロッシーとリュウローは、息を切らして睨みあっている。
「ハッ?!てか俺はこんな事してる場合じゃないんだった!!」
突然にリュウローが叫ぶ。サランの事を思い出したようだ。
その声にロッシーとヒックは驚く。
「おい!空飛ぶネェちゃんら!俺は工場に戻らないとダメなんだ!行かせてくれ!」
と言いながら、夜に赤く染まる空方向へ、前進を始める。
「分かったわ…」
そう言ってロッシーは道を開けた。
「ありがとな!」
リュウローは、一刻も早く戻らないとダメだと思っているので、ロッシー達の事は気にしないようにした。
ロッシーとヒックは、機兵の肩に着地して座った。リュウローはこれに気づかない。
「け、結構、揺れるわね。ヒック大丈夫?」
「ん?あ、あぁ。これくらいなら!まだ…ぶわっ!」
森の中を歩く機兵の肩に居るので、背の高い木の枝が、ヒックの顔にぶつかった。ロッシーも当たらないように避けている。
「ん、んー。これは…」
そう言ってロッシーだけ浮いたと思ったら、ハッチの開いたコックピットの真上から逆さまに、顔だけを出してリュウローに質問する。
「その中、入れてくんない?」
突然出て来たロッシーに、リュウローは叫ぼうとしたが、驚き過ぎて声が出ない。
「…んっ…ワッ!」
ロッシーはどうしたのか分からない。
「ねぇ、せめてヒックだけでも入れてあげてくれないかな?」
そう言ってロッシーは、魔法でヒックを浮かせて、コックピットの中へ放り込む。
「のわぁ!」「うおっ!」
コックピットの中は、そんなに広くは無い。ヒックとリュウローで窮屈そうなのを見て、ロッシーは「うわぁ…」とだけ言って、また機兵の肩に戻った。
「な、なんなんだよ、あんた達は…」
リュウローは、涙目で困っているものの、工場へと進む機兵の足は止めない。
「迷惑かけて悪いが、俺たちは…」
ヒックが、話し始めた時だ。
コックピット内のモニターが、全て復活する。
コックピット内へ、ヒックが放り込まれた時に、ヒックの足が左上のセンサー切り替えボタンに当たり、機兵のセンサーが復活する。
そしてコックピット内に、サランの悲鳴が流れてくる。
「きゃあああっ!ちょ、、、これは、マヂやベぇやつぢゃね?」
それを聞いたリュウローは慌てて、サランと繋がるモニターを見る。
「大丈夫か?!サラン!!」
その声にサランは気づいて、モニターを見る。
サランは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔となる。
「リュウロー…アタシ…」
見るとサランの頭からは、一筋の血が流れて、コックピット内のメーターなどもひび割れている。
「だ、大丈夫なのか?!あの変なヤツは倒したのか!?」
その時、サランの機体に衝撃が走る。
「んあっ!きゃあああっ!」
リュウローの顔色が険しくなる。
「サラン!待ってろ!今行くから!!」
リュウローは機兵のスピードを無意識に、上げていた。
「来ないで、リュウロー!アイツ仲間が来て、そいつにアタシ…リュウローじゃ歯が立たないっしょ、、、危ないし、アタシ、もう、このまま、ムリかも…」
機兵の操作はしながらも、弱気な顔を見せるサランだった…。
「諦めんなっ!サラン!!」
リュウローは叫んだ。その声にサランの目は一瞬、見開く。
「お前だけ辛い思いはさせない!来いよ!!俺んとこへ!!!俺はお前が大好きだ!!!!」
リュウローが叫んだ。心のままに。眼差しは真っ直ぐで、澄み切っている。それを見たサランも、その心を受け止める顔をしている。
その言葉を聞き、隣りに居るヒックは
(え、今!?俺めっちゃお邪魔じゃね?)
と思いながら身を出来る限り小さくする。
「な、ちょ、、、マヂありえねー!それマヂなやつ?!」
リュウローは叫んだ!
「あったり前だろ!もう会えないとか絶対に無しな!」
めっちゃくちゃ可愛い顔で笑うサラン。
「りょ!アタシもリュウローの事、大好きだかんね!マヂ守ってょ、、、ぢゃんっ!!」
そう言ってサランは左上のレバーを!全力で手前へ引いた。
サランの機体から、大量の煙が噴出される。
偶然にも、先程リュウローが上昇した場所の近くだ。
轟音と共にジェットパックから噴出される炎と煙で、サラン機は空へと昇る。操作がしっかりしてるのでスピンはせず、安定していた。
サランはジェットパックでリュウローの元へ行けば、リュウローまで危険になると感じ、退避出来ないでいた。
ジェットパックに出力を奪われ、モニターが全てブラックアウトし!音声も一時遮断される。
一気に速度を上げて、空へと舞い上がるサラン機。
リュウローが空けた、天井の穴の横に少しぶつかったものの、無事に退避し!空を飛ぶサラン。センサーでリュウローの位置を把握した。
高度が高くなり、工場が見下ろせる。
工場外に、動いている機兵が数体居る事を確認する。
消火作業や、中の確認をしているのを見て、少し安心したサラン。
余裕が出来たのか、映らなくなった黒い右メインモニターに、自分の顔が映っている事に気づく。
頭から流れている血を拭き取り。髪型など、おかしい所が無いか確認する。
「よし。これで…まぢ安心って、感じ?…ん?」
プラント8の天井には、ズルワーンが突入して来た時に出来た穴と、リュウローとサランが壊した穴が2つある。
そのリュウローとサランがぶち破った穴の、不安定な部分が崩れ落ちて穴が合体し、ハートのような形になっている。
それを見たサランは、笑いながら驚き。
「テンアゲ~!マヂウケる~ありよりのあリュウロー♡」
と言った。
だがプラント8の天井に出来た、そのハートを壊して、何か青い大きな羽がついた、生き物の様な物体が追いかけて来る。
「はぁっ?!マヂありえねぇ!!!」
ハートを壊されブチ切れ顔のサランは、リュウローの位置を再確認し、ジェットの噴出量を上げてスピードを出す。
飛行状態になった騎兵は、出力が安定しモニターが復活する。
「サラン!どうなってんだ?!」
リュウローがモニターから声をかける。
「ちょまっ!もう着く!」
サランが何か焦っている事が気がかりだが、それを聞いたリュウローは、コックピットから身を乗り出して空を見る。
すると赤く染まる空の方に、一筋の煙が見えた。
「サランだ!」
と明るい顔になったリュウローだが、その顔はすぐに曇り、動きが止まっている。
「な、なんだ…アレ?」
リュウローの様子がおかしいと思って、ヒックも少しコックピットから顔を出す。
そしてサランが乗っているであろう、この機体と同じ形をした物が、空を飛んでこちらに向かって来ている。
そして、その後ろに居るドラゴン形態のズルワーンを見て固まる。
「なんで?!」
それは肩に居るロッシーも同じだった。
ロッシーは慌てて、コックピットの方へと飛んで移動する。
「な、何よあれ!なんでズルワーンが…」
訳が分からなくて、空中で慌てふためき、ロッシーは続けて叫ぶ。
「2体に増えてんのよ!!!」
それを聞いて、ヒックもかなり焦った様子で答える。
「知らねぇよ!ありえねぇ!アイツ何したんだ!」
ドラゴン形態ズルワーンの足に捕まり、ナイト形態のズルワーンがぶら下がっている。
サランの機体がジェット噴射を上手くコントロールし、森へと綺麗に着陸する。
そのままリュウロー機の元へ、サラン機は走る。
サラン機は右腕が肘から無くなっていて、その上、細かな損傷が激しい。外装が剥がれ、中が見えている箇所もある。
そんなサランもリュウローと同じように機体のハッチを開いた。そして中には、涙目笑顔のサランが見える。
それを見たリュウロー機も走る。
ヒックは振り落とされないように、コックピットの奥へ引っ込もうとしたが、身体が勝手に浮いて、外に放り出され、空へと舞い上がる。
サラン機とリュウロー機は、抱きつく様な体勢となっている。コックピットから直接、声が届く距離に2人は居る。その距離はほぼゼロだ。
2人はコックピットから身を乗り出して抱き合った。
「リュウロー…」
「サラン…」
互いの温もりを肌で感じながら、2人は目を閉じる。
「ごめんな、サラン。俺がお前を守らないとダメなのに、怖い思いさせて…」
「ううん、リュウローが得意な事で守ってくれれば、いっかなーって…あれは完全にアタシ担当ぢゃん?」
「ふふ…そうだよな。また今度美味いもん作るよ。食べてくれるよな?」
「あったり前ぢゃん!リュウローの料理、ちょーマヂ激ヤバ卍丸って感じだっしょ!」
2人は、目を開けて、見つめ合いながら笑っている。そして優しい顔になる2人。静かで優しい気持ちを2人は感じ、互いの顔と顔を近づけて行く。
そして、唇と唇が触れそうになった時…
「工場内での、ふしだらな行為は!禁止されている筈だぞ!君たち!」
何処からともなく聞こえるギルバートの声に、2人はギョッとなり、慌てて離れて互いのコックピットへと戻った。
「KYっしょ!?!」
サランは、ハッチを閉めて機兵を操作する。
「ど、何処から聞こえてきたんだ?!」
リュウローは、何とか機兵の扱い方を思い出して、慣れて来たのか操作がスムーズになっていた。
抱き合っていた機兵も互いに離れ、声がする方を見ると、ナイト形態のズルワーンがそこに居た。
ロッシーとヒックは、来た道を飛んで戻って居た。
「ちょっと!なんでズルワーンが2体もいるの?!卑怯よ!」
ヒックは、険しい顔をしたまま黙っている。
が、後ろに気配を感じて振り向くと、ドラゴン形態のズルワーンが追いかけて来ている。
その上には、、、見知った顔が居る。
フォルが、仁王立ちし、その後ろには青白髪のズルワーンが白衣をはためかせて立っている。
ズルワーンは、薄らと笑いながらメガネの横を押し上げた。
「ヒック、そして女。探したぞ…」
空は、紅く染まり、夜は深くなって行く。





