はじまりの日
― 数日前:ロッシーはまだ1人だった ―
(俺はただ、この目まぐるしく廻る時を。ロッシーを。幸せになって欲しかっただけなんだ…)
私はロッシー。今日も本を読んでいる。
大帝都ミシの図書館で。
「んー、これは読んだわね。じゃ、こっちにしよっと」
村の畑仕事や家の水汲み、薪割りを終わらせると、すぐここ大帝都ミシの図書館へ来て、本を読む。
ここ数週間は、毎日がその繰り返しだ。
私に母と父は居ない。村の人達は、そんな私の面倒を見てくれる。自分で出来る事はしているつもりだ。
畑も結構充実していて、野菜や果物は高く買い取ってもらえるので、そのお金で肉や米を買い、他は自分の畑から取ったり、必要な時は、狩りもする。1人で生活する分には、それで充分。
何より私は、本が好き。本が読めれば、食事なんて食べなくたって気にならない。
最初は村で本を持ってる人に、どんな本でも借りたわ。
絵本や伝記、おとぎ話の本や辞書や図鑑、色々な本があり、1人の寂しさを紛らわす事が出来た。
最初はそんな動機で読んでいた本だけれど、次第に本の魅力に取り憑かれてしまった。
来る日も来る日も、本を読む。 自分の周りの事だけは最低限して、本を読むことだけに全力だった。
しかし村の本は、そのうちに底をついてしまったの。私はもう読む本が無いと思い落胆した。
あまりにも私の元気がないので、村の人が「大帝都に行ったらどうか?」と言う。
大帝都?
私はそんな所があるなんて、知りもしなかった。
たまに来る行商人はそこから来てたのね。と目からウロコだった。というか、その事に気づかなかった私は、かなり抜けている。
そして何より、その大帝都ミシには、図書館なる本の山。宝の山。のような場所があると教えてくれた。
私は次の日、すぐに大帝都へ出かける事にする。
山道は整備されていて、のろのろと歩いて、山を越えるだけで辿り着けた。
多少は疲れたが、いつもこれくらいの体力は、畑仕事や水汲みや、狩りで使っている。
そして山を抜けた向こうには、大帝都ミシの街並みが!
私は目を丸くした。
見るもの全てがキラキラしていて、見たことも無い物が沢山あった。本の中の世界と同じなのだ。
こんな場所が、こんな近くにずっとあったなんて。と私は自分の頭を数回軽くたたいた。
自分への戒めである、愚か過ぎる自分への。
大帝都ミシは、10km平方くらいで、周りを壁でぐるりと囲っており、8個の門で出入りが行われてる。中には10万人ほどの人が住んでいるらしい。
門も大きくて、閉ざされる事は、ほとんど無いそうだ。緊急事態が来ない限り、解放されたままらしい。ミシの中心には王様のお城や色々な設備があるらしいが…。
そんな事より、私は【図書館】なる宝の山!
じゃなくて、夢の場所!じゃなくて、街の建造物を探してウロウロとしていた。
が!全然見つからない!というか日も暮れて来たし!山道だし!暗くなる前に帰らないとなのに!!
焦る私の目は、充血して血走り、形相も相当ヤバかったのか、街の人々が怯えていることにも、私は気付かなかった。
ボソボソと(トショカン...トショカン...)と呟いていた。
らしい。
この男が言うには、だ。
「おい、お前。そこの猫背で形相の悪い、この辺じゃ見かけない女、、、おい!聞いてんのか!お前だよ!お前!!!」
「え?わ、私?!」
見慣れない男が、私に話しかけて来ている。
「あんたしか居ねぇだろ!そんなヤツ!」
彼は道に積まれた木箱の上に座り、こちらを指さしている。
「だ、だれが猫背で形相の悪い女よ!探し物してただけだっての!背を伸ばし~顔も笑顔を作れば~。ほらっ!カワイイ☆(ウインク☆)」
私は悩殺ポーズで、彼にウインクした。
「んで探し物って何?」
その男は無表情で、質問して来た。
悩殺ポーズの私は、無視してんじゃないわよ!と言いかけてやめた。
私には時間もなく、探している物がある。
「図書館...」
私は、下を向きながら答えた。
「え?図書館。。。探し物っていうより場所だなそりゃ。分かった。俺が連れってやるよ。もうすぐ日も暮れるし、急がねぇと図書館も閉まっちまうしな」
見慣れない男は、少し疑問が残るような顔をしてたが、笑顔で私を案内してくれると申し出てくれた。
「え?図書館って閉まるの?うそ!ちょ!早く案内しなさいよ!!早く!!!はーやーくー!!!!!」
私は彼の手を引っ張り、道を歩き出した。
「うっせぇ!!てか、そっちじゃねぇ!こっちだ!ちゃんと着いて来いよ」
そう言って彼は、私の手を握り返して、反対側へと引っ張る。
「何ちんたら歩いてんのよ!走りなさいよ!!!」
その手を振り払い、私は走った。
よくよく考えれば、私は男の人と手を繋ぐなんて、初めてだった。それに気づいた途端、何故か顔が熱くなり、胸がドキドキとした。
「いっ!わ、分かったよ!置いてきぼりくうなよ!」
彼は走るのがとても早かった。私の前をすぐに陣取り、私へ挑戦状を叩きつけて来た。
「上等よ!」
私は受けてたった。
私と彼は、図書館まで結構な速さで走った。二人ともに息切れしている。
「着いたぞ」
と言う、彼を私は観察してみた。
身体は、まぁまぁ鍛えられてるし、身なりはそんなに貧相でもなく、嫌に目立つ事もない。年は私より少し上だろう。
髪は黒く、顔も聡明であるが、何処か格好のつかない雰囲気がある。ただ困ってる私に声をかけてくれる程には、優しいのかもしれない。
息を整え、彼を観察するのをやめて、建物に目をやる。そこには今まで見た事もないような、巨大な建物がそびえ立っていた。
「こ、これが、、、と、図書館!?!」
こ、こんな巨大な建物の中に、幾らの本があると言うのよ…。私は興奮し過ぎていた。
彼に礼を言うのも忘れて、中に飛び込み。。。
「閉館時間だ」
と中の職員に、つまみ出されるまで本を読んでいたのだった。。。。
中には沢山の本が山のようにあり、全てを読むまでに、いくらの時間が必要なのだろうか。と思いを馳せ、この場所から離れたく無いとさえ思った。
(また来たいな)
と思える場所がある事は、素敵なのだと、初めて知った。
そして、村の人ではない彼との出会い。
今までの私は、こんな気持ちで、一日が終わる事があるだなんて。
考えた事すらなかったのに。
その日は、突然に始まるのだった。