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00 ボッチ追放

「貴様をパーティーから追放する」


 ボス部屋の前でイケメンリーダーが俺に指をさした。

 俺が口を開く前に共有意識から断絶され、このパーティーから追放された。


「……」

「釈明によってはパーティーに戻してあげてもいいぞ」

「……」


 ボッチでコミュ障の俺に何も言うことはない。


「無視すんじゃねえぞ!」


 巨漢のイケメンアタッカーが叫んだ。

 大声を出して脅したところで俺の無口な口から言葉ひとつ出ないぞ?


「黙っていても何も伝わらない。僕らはパーティーなんだぞ」

「……」

「誰が何を欲しているか分からないと一緒に戦えないだろうが」


 苛立ち気味にイケメンリーダーが俺を睨んだ。


「てめー、黙ってねーで何か言えよ」


 巨漢のイケメンアタッカーが濁声で唸る。


「もういいよ。こんなキモイ奴ほっとこうよう」


 女子力低そうなパーティーメンバーが俺を睨んだ。

 キモイって何だよ。抽象的すぎるだろ。

 俺のどこの何がキモいのか論文に書いてキモイ学会に提出してくれ。


「いや待て……どうせパーティーから追放するんだったら、こいつに先にボスと戦ってもらおうぜ」


 盾持ちのイケメンが悪い笑みを浮かべた。


「ああ、ボスの弱点を見つけてもらおう」

「俺らの為に犠牲になってくれや」

「それってウケル」

「キモい」


 元パーティーメンバー達が俺を見て笑った。


「……」


 俺は無言で睨む。


「何だ、その目は?」

「キモイ」

「やんのか? ああん?」

「てめえ一人ボッチでサッサとボス倒してこいよ」


 巨漢のイケメンアタッカーが俺の背中を蹴った。

 ヒョロガリボッチの俺はヒョロヒョロとボス部屋の中に足を踏み入れてしまった。


「なんだその目は? 逆ギレか?」


 おいおい、キレていいのは俺のほうだぞ。

 ボス部屋に一人放り込まれたんだぞ。

 だが安心しろ。俺は平和を愛する温厚ガンジーボッチだからキレないぞ――という目で笑った。


「……」

「なに笑ってんだこいつ。いい度胸だ」

「助けてほしかったら誠意を見せなさいよ」

「ああ、ボス部屋の中に入ればボスに勝つか死ぬまで出られない、謝るなら今のうちだ」


 そもそも何を謝るんだよ。誠意ってなんだよ。謝るのはお前らだろうが。

 こいつらのこれまでの悪行が走馬燈のように俺の頭に浮かび上がる。

 俺が頑張ってダンジョン内をマッピングしてたらそんなの意味がないって方眼ノート奪い取って捨てたよね?

 魔物が来るかもって警告したら、なに睨んでんだってキレたよね?

 全員分の荷物持たせて歩かせて、歩くの遅いって殴ったよね?

 援護攻撃しようと前に出たら、邪魔だって押したよね?

 ゴブリンの放った矢が飛んできたのを叩き落としたら、余計なことするなって責めたよね?

 女子メンバーの太もも見てたら何エロい目で見てんだって殴ったよね。


 うん、どう考えても俺は間違っていない。

 ただ、俺がちょっとだけ無口で無言だっただけだ。

 たったそれだけなのにパーティー追放ですか?

 勝手にパーティーに誘っておいて、勝手に追放?

 ひどいよ。誰が誘って欲しいオーラ出したんだよ。

 俺はソロが大好きなボッチ道の探究者なんだぞ。


「プッ」


 なんだよボッチ道って、俺は思わず笑ってしまった。

 馬鹿じゃねえの? 俺。


「てめー、何笑ってんだよ」

「今のは許せないなあ」

「てめえええ」

「これは僕らに対する宣戦布告かな?」

「絶対許さねえ」

「ぶっ殺す」


 散々俺のこと笑い者にしておいて自分が笑われたらキレる?

 それって逆ギレじゃね? 俺は肩をすくめた。

 イケメンリーダーと巨漢のイケメンアタッカーが怒りに我を忘れて、ボス部屋に入ってきた。


「ちょっとボス部屋に入っちゃダメ、ヤバいよ」


 慌てる女子メンバー達。

 だがもう遅い。


「はっ。しまった」

「まさか、僕達を怒らせてボス部屋に招き入れる作戦だったのか?」


 そんなクレバーなプラン練れたら、パーティー追放されてねえんだが?


「ちょっとヤバいよ、早く戻ってきて」

「ああ、これってもしかして私達もボスを倒すまで出られない?」


 激しく動揺する女メンバー達。

 ボス部屋に立ち入った者はボスを倒すまでは部屋からは出られない。

 それがダンジョンルール。

 つまりこいつらもボスを倒すまで出られない。

 ザマー。

 しかも俺はもうこいつらとは他人。


「……」


 せいぜい頑張ってくれ。

 俺はボッチで部屋の片隅で寂しく見学してっから。


「くそっ。何とか言えよ」

「ええい、戦闘準備、こいつの処遇は後だ」

「はい。ガードアップ、ディフェンスアップ、スピードアップ」


 女子メンバーが支援魔法を唱えた。

 イケメンリーダーと巨漢のイケメンアタッカーと盾持ちの三人が淡い光に包まれる。

 身体強化魔法だ。


「助かるよ」

「これで勝てるぞ」

「テメーは後回しだ」


 パーティーから外された俺には支援魔法は発動しない。

 パーティーとは深層意識の連携だ。

 魂が連携すると支援魔法が使用可能となる。


「リーダー。周囲のメンタル霊が集まってきてる、ボスが来ます」


 女子メンバーが叫んだ。

 こいつ見た目はウェーイだが生意気にもメンタル霊が見えるらしい。


「戦闘態勢、こいつを盾にしろ」


 イケメンリーダー達が俺の後ろに隠れた。

 おいおい、こいつらヒョロガリボッチの後ろに隠れやがったぞ。

 イケメン達が俺の後ろに隠れるこの状況、人道的にいいのか? ダメだろ?


「来るぞ」


 メンタル霊が収束し具現化していく。

 メンタル霊とはその名の通り、精神の霊力。

 つまり想像力。

 ダンジョンも魔物も全てこのメンタル霊で構成されている。

 このダンジョンに入った冒険者である俺達の身体も同様。

 ダンジョンとは物質と霊体の狭間にあるハイブリッドワールド、半物質状態の事象。

 霊トレーサーである選ばれた者にしか入れない。


「慌てるな。ここは初心者級ダンジョンのボスだ。たいして強くはないはずだ」


 イケメンリーダーの言葉を肯定するかのようにメンタル霊が螺旋を描き、具現化し、半物質化した。


「グオオオオオオ」


 ボス部屋の床を揺るがすそれはまさに巨人。

 言わずもがなこのダンジョンのボスだ。

 だってデカいし。強そうだし。ボスっぽいし。


「そんな、なんだれは?」

「でかい」

「なっ、あれはメガオーガです」


 メンタル霊を見える女子メンバーが声を失った。


「な、メガオーガだと?」


 イケメン盾持ちの盾が震えた。


「なんで深層ダンジョンにしかいないメガオーガが初心者級ダンジョンで出現するんだよ」


 巨漢のイケメンアタッカーの剣が震えた。


「このメガオーガの等級は?」


 イケメンリーダーが叫んだ。


「メンタル霊保有量……S級オーバー!!!!」


 女子メンバーに太ももが揺れた。


「S級オーバーだと!!!」

「そんなバカな、何でそんな奴が出てくんだよ!!」

「勝てるはずねえ。俺達は冒険者になったばかりの初心者なんだぞ!!」

「あり得ない。あり得ない。これは夢だ!!!」


 動揺するパーティーメンバー達。

 ダンジョンの魔物やボスは侵入した霊トレーサーのレベルに応じて変化すると言われている。

 それもダンジョンルール。


「おい、ボッチ、テメーが先に行けよ、テメーが先にボス部屋に入ったんだからな」

「そうだ、貴様は僕達の盾だ。ここまで連れてきてやったんだ。役に立て」

「文句は言わせねえ、ボスに殺されるか? 俺達に殺されるか選べ」

「そうよ。キモいのよ」

「……」


 えっと、こいつら魔物より酷くない?

 こいつら本当に霊トレーサー検定に受かったのかよ。

 俺が試験管ならイケメンというだけで落とすぞ。


「ほ、ほらいけよ」

「先に死んで来い」

「ひひひはは」

「キモいのよ」


 元パーティーメンバー達が俺の背を押した。

 俺はふらふらと、よろよろとメガオーガの前に出る。


「グルルル?」


 醜悪な顔をしたメガオーガが俺を見て舌なめずりする。

 メガオーガ、それは角を生やした巨大な怪物である。

 この溢れるメンタル霊からS級というのは間違いないだろう。


「……」


 俺は小さなナイフを構えた。


「え? それがお前のイマジナリーウェポンか?」

「知っちゃ。ナイフ? ぷっ、めっちゃ弱そう。ウケル」

「ププ、そんな弱そうなイマジナリーウェポンしか持ってないお前なんか瞬殺だろうな」

「少しぐらいの時間稼ぎにはなるだろう」

「……」


 イマジナリーウェポン――それは己の魂から分霊された霊トレーサーの専用武器。

 半物質であるダンジョンの魔物には物質と幻想の二つの要素を併せ持つイマジナリーウェポンでしかダメージが与えられない。


 イラっとした俺はナイフを背嚢に収納した。

 俺のイマジナリーウェポンを馬鹿にしたな?

 いいだろう。見せてやろう。


「はっ? 戦闘放棄?」

「え? どういうつもりだ?」


 その大きなイケメンの目をかっぽじいて見やがれ。

 これが俺の本当のイマジナリーウェポンだ。


「え?」

「二本も?」


 そう、これが俺の本来のイマジナリーウェポン――阿形と吽形だ。

 それはごく普通の剣。見た目が同じだから、俺にもどっちがどっちだか分からない。

 だがひとつだけ分かっていることはどっちも強いってことだ。

 二振りの剣から膨大なメンタル霊が噴出し、俺の髪を揺らした。


「何だ、それは? それが君のイマジナリーウェポンなのか?」

「何だ、その溢れ出たメンタル霊は? その剣おかしいだろ。さっきのナイフはなんだ?」

「ぐえええ」


 魔法を詠唱中の女子メンバーが吐いた。


「……」


 勿論俺は答えない。わざわざ自分の秘密を赤の他人のパーティーに教えてやる義理はない。

 さあクロミズ、黒牛守。こんな弱そうなボスさっさと片付けて、先輩方の巨乳を拝みに戻ろうか。

 俺は心の中に住む、ボッチの友達――ボットモ達に語り掛けた。

 同意するかのように半透明のゼリー状の物体が俺の身体を覆った。


「え?」

「は?」

「えっ? 何それキモイ」


 おいおい。俺のボットモであるクロミズの加護をキモいとは聞き捨てならんな。

 まあ実際見た目は実際キモいのだ。承知の上だ。

 俺は阿形と吽形を構えた。

 いざ推して参る。


 その瞬間俺の目の前にボス部屋の壁があった。

 物理法則を超えた俺の一撃。


「ギャアアアアア」


 背後から叫び声と大質量の激突する音が合唱を奏でた。

 目の前のダンジョンの壁はの向こうに灰色の空間が見える。

 おっと、勢い余ってダンジョンの壁ごと斬ってしまったようだ。

 ダンジョンの外は何もない。白でも黒でもない灰色の世界が広がるだけだ。


「「「はあああああああ」」」

「おいおい? 何が起きた」

「はっ? 斬ったのか?」

「全く見えなかった」

「キモい」


 驚愕に目を見開く元パーティーメンバー達。

 そう床に激突したのはメガオーガの上半身と下半身。


「……」


 俺は血振りするように剣を振ってメンタル霊を飛ばした。

 そう、キモイと蔑まれ、馬鹿にされていた俺がメガオーガを斬ったのだ。

 ソロでお一人様のボッチパーティーの俺が一人でやったのだ。

 どうだ参ったか?


「斬ったのか?」

「そんな、あり得ない!! メガオーガはレイドボス級だ。一人で倒せる相手じゃない」

「そんな馬鹿な。ダンジョンの壁は破壊不可能のはずだ」

「どどどど、どうなっている」

「きききき、貴様! 何をした? 答えろ」


 イケメンリーダーが怒鳴った。


「……」


 いいだろう今の俺が何をしたか説明しよう。

 クロミズの加護を纏って身体強化して瞬歩で物理法則を越えて、阿形と吽形の次元断絶剣で空間ごと斬ったから壁まで斬れただけだ。

 ……と答えようとしたその瞬間。


「無視してんじゃねえよ。何とか言えよ。ふざけんな」

「あり得ない、あり得ない、あり得ない」


 巨漢のアタッカーと盾持ちのイケメンが俺のセリフを止めた。

 そうこうしているうちに分断されたメガオーガがメンタル霊となって舞い上がり、俺の身体に吸収され経験値となった。

 ダンジョンルール――倒した魔物のメンタル霊はパーティーの経験値となる。

 だがお前らはもうパーティーではないから、メガオーガの経験値は俺だけのものだ。


「くそ、経験値を独り占めかよ」

「こんなの夢だ。あり得ない」

「信じられない」

「独りでボスを倒した?」


 は? こいつがボスだと本気で思っているのか?


「待って、周囲のメンタル霊が収束している。これはボスの出現する前兆。まさか今のメガオーガはボスじゃなかったってこと?」


 俺のことをキモいとしか言わないこの女子メンバーは悔しいが優秀らしい。


「え? あれがボスじゃなかったらなんだ?」

「どういうことだ? 中ボス?」

「今のメガオーガはボスじゃないってこと?」


 それを証明するように禍々しいメンタル霊が収束し、禍々しい巨大な門が出現した。


「……まさかゲート」


 女子メンバーの歯がガタガタ鳴った。

 やっと本命のお出ましか。

 そう今のメガオーガはボスじゃない、ただの雑魚だ。


「そんなゲートだと?」

「どどど、どうなっている?」

「分かんないよ、分かんないよ。意味分かんないよ」


 怯えるパーティーメンバーをあざ笑うかのようにゲートが開いた。

 噴出したメンタル霊が暴風となりボス部屋に吹き荒れ、俺の黒髪を揺らす。


「……来たか」


 俺の小さな声と共にゲートの中から巨大な人影が浮かび上がった。


「そ、そんなあれは?」

「ばかな」

「ひいいいい」

「あれは何? 何なの?」


 混乱する元パーティーメンバー達。


「悪魔将軍」


 俺は小さな声でそう教えてやった。


「ひ、ひいいいいいいいー」

「ばばばばかなあああ。悪魔将軍だと? そんなバカな、嘘だと言え。嘘をつくな。戦略災害級ダンジョンのボスがなぜここに? おかしいだろ。これは夢だ。あり得ない、あり得ない」


 イケメンリーダーが冷静を失った。

 ダンジョンボスは侵入者のレベルに応じて変化する。

 侵入者である霊トレーサーのメンタル霊を貪るためにやって来る。


「ひいいいい」


 新たなボスの出現によってボス部屋の壁が後退し、天井が上昇する。

 壁からどす黒い血が垂れ、床に染み出した血が池となり、亡者共の手が草のように生えた。

 悪魔将軍のメンタル霊を浴びて、ボス部屋が改変されていく。


「ひいいいいいい」


 女子メンバーが失神した。


「あわわわわわ」


 巨漢のイケメンアタッカーが声を失った。


「うわああああん。お母さん」


 盾持ちが盾を捨て、頭を抱えてうずくまった。

 そこに地獄の底から現れた亡者の腕が掴みかかる。


「くっそおおおおおおおお、諦めるな」


 イケメンリーダーが腰まで血の池に浸かって絶望する。


「助けて」


 俺のことを追放してキモイ呼ばわりした奴を助ける義理はない。


「ふう」


 ボレボレだぜ。俺はダンジョン部員なのだ。

 助けなければ後できっと副会長に怒られるだろう。

 俺はイマジナリーウェポンの阿形と吽形を収納した。

 地獄に住人には闇属性の阿形と吽形では相性が悪い。


「……」


 そして俺は右手を突き出した。

 悪魔将軍が馬鹿にするように首を傾げた。


「ノスフェラトゥフレイム」


 俺の中のメンタル霊が紫焔の炎に変換される。

 物理限界を超える熱量がダンジョンを焼く。

 床の血の池が蒸発し、亡者が一瞬で焼失した。


「え? 無詠唱?」


 俺の放った魔法ノスフェラトゥフレイムが亡者達のメンタル霊を喰らってさらに燃え上がる。


「魔法の威力が上がった?」

「まさか、亡者達のメンタル霊を喰ったの?」


 そう俺のオリジナル魔法、ノスフェラトゥフレイムはメンタル霊を糧とする凶悪なリサイクル魔法。メンタル霊がある限り消えないし、止まらない。

 名前は中二病全開なのは俺が中二病時代に考案したからだ。

 恥ずかしいとか、照れている場合ではない。

 もっとましな名前がなかったのかと、若干後悔していると巨大な紫焔が悪魔将軍を飲み込んだ。


「やったか?」


 イケメンリーダーがそう言った。

 コラ。余計なフラグを立てるんじゃない。

 悪魔将軍の身体から青白い炎が沸き上がり、俺の放ったノスフェラトゥフレイムが雲散した。


「そんな馬鹿な」

「うそ」

「……」


 だがそれでいい。そうなることは知っていた。

 俺は既に飛び上がっていた。

 クロミズの身体強化によって飛んだ俺の目の前に巨人の頭に迫る。

 悪魔将軍が俺に向かって口から獄炎ブレスを吐いた。

 だが俺はそれを腕で軽く振り払う。

 すると悪魔将軍の巨大な赤い眼から怪光線を放たれた。

 俺は空中を蹴り、回避する。


「は? 空中で移動した?」

「なんだあの動きは? おかしいだろ」


 おかしくはない。


「なんだあれは? さっきと武器が違うぞ」


 俺の手には別の武器が出現していた。

 それは漆黒の斧――黒牛守の武器である黒炎断罪斧だ。

 俺が半身をひねると同時に黒い旋風が巻き起こり、悪魔将軍の首に黒炎断罪斧がめり込んだ。


「……」


 俺の無言の叫びと共に俺の腕に半透明の筋肉が波打つ。


「奥義……斬鬼討冠」


 俺の腕が加速し、現実の向こう側に加速する。

 黒炎断罪斧が物理法則を、半物質の理を突き抜ける。

 悪魔将軍の首が舞い、断面から膨大なメンタル霊を撒き散らす。

 悪魔将軍の頭がメンタル霊をスパイラル状に撒き散らしながら床を転がった。


「いいいいいいい、一撃?」


 イケメンリーダーが噛んだ。

 おいおい、嚙み嚙みボッチの異名を持つ俺の十八番を奪うんじゃねえよ。

 悪魔将軍が莫大なメンタル霊を放った。

 メンタル霊は経験値。

 でも今の俺は一人パーティー。

 この膨大なメンタル霊を俺が独占するのがセオリー。

 背中を蹴られた俺が一人で独占するのが普通。

 だが俺はイケメンリーダーに叫んだ。


「パパパパ、パーティー登録を」

「え?」

「えっと?」

「なんで?」


 元パーティーメンバーが息を飲んだ。


「え? いいのかい?」


 俺は黙って頷いた。

 俺の頭にイケメンリーダーからパーティー申請が来る。

 俺は即座に了承。

 悪魔将軍を倒した俺のパーティーメンバーに経験値が分配されるはずだ。


「おおおおおおお」

「力が、力がたぎるうう」

「す、凄い量。魔法のレベルが上がる」

「いいのかい?」

「……」

「ありがとう。追放した僕らに経験値をくれるなんて君はおかしい。そうか、君にとって、このメンタル霊なんて、はした量なんだな。君は一体何者なんだ? 初心者用ダンジョンも初めてじゃないようだけど?」

「それはおかしいわ。初心者用ダンジョンは初心者しか入れない。このキモイ奴も私達と同じ初心者のはず」

「……」


 俺は最強ボッチだ――と心の中でボッチらしく答えた。


「……君を捨てた僕達に聞く権利なんてないよな」

「お前すげーな。酷いことして悪かった」

「ああ、僕らが悪かった。調子に乗っていた。すまなかった」

「何かエロいこと企んでない?」


 頭を下げるパーティーメンバー達と俺を睨む女子。

 くそ、何急に良い子になってんだよ。

 謝られたら許すしかないじゃないか。


「……俺も悪かった」


 俺は謝った。違うの、違うの。謝りたかったわけじゃないの。

 つい場の空気で、謝り合う雰囲気でつい謝っちゃったの。


「最初から言ってくれればいいのによ。かっこつけやがって」


 巨漢のイケメンアタッカーが俺の背を叩いた。


「なぜその力を隠していたんだ?」


 盾持ちのイケメンが俺に笑いかけた。


「……」


 隠すというかなんというか、あれだ。


「……もしかして君が強すぎるからかい?」


 イケメンリーダーが困惑しながら俺を見た。


「……」


 そう、それ。確かに俺は強い。正確にいえば俺のボットモである神々が強いだけだ。

 だが最初から強かった訳じゃない。

 俺だって最初は弱小のヒョロガリボッチだったのだ。

 いや、ポッチャリボッチだった。


 さあ、今こそ語ろう。

 どうやって俺が最強の力を手に入れたのか?

 俺のボッチサクセスストーリーを語ろうではないか。


 え? そんなん聞きたくないって?


 それは桜舞い散る春もうららの四月。

 俺の最強ボッチ伝説はそこから始まった。

 黙って聞け、俺は勝手に回想を始めた。


お読みいただきありがとうございました。


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