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エンジェリカの王女  作者: 四季
〜 第三章 天魔の因縁 〜

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91話 「もっと知りたいの」

 日が昇る直前に眠った私が目覚めたのは昼前だった。外は晴れているが日差しはそんなに強くなさそうだ。


 ヴァネッサは当然だが既に起きていて、いつも通り忙しそうに用事をしている。今の部屋は王宮の自室より狭いので、いつもに増して忙しそうに感じられる。

 部屋の広さが違うだけで受ける印象も変わるというのは不思議なことだ。


 ちょうどそこにコンコンと扉をノックする音が響いた。ヴァネッサが扉を開けるとエリアスが立っていた。


「おはようございます」


 顔色は治っているので私は内心ホッとした。

 昨夜はかなりショックを受けている様子だったのでどうなることかと思ったが、ひとまず落ち着いているようだ。


 彼は袋を持っていて、その中には卵や鶏肉が入っていた。それを受け取ったヴァネッサが私に尋ねてくる。


「昼食はオムライスでも構いませんか?」

「オムライス! 好きよ」


 ヴァネッサの料理ならどんなものでも美味しい。だから正直何でもいいのだがオムライスは好物なので嬉しい。

 ヴァネッサのオムライス、懐かしい味がするのよね。


 エリアスは袋をヴァネッサに渡すとこちらへ歩いてくる。


「おはようございます、王女。この部屋はいかがです?」


 整った面に柔らかな笑みが浮かんでいる。顔色は悪くないし、瞳も瑞々しい。昨夜のことを引きずっていない辺りさすがだ。

 いや、もしかしたら隠しているだけで、内心は思っているのかもしれない。


「快適よ。ちょっと狭い気はするけど」

「息苦しくはありませんか?」


 大丈夫、と答える。

 地上界の家もそれほど広くはなかったし。

 それに狭い部屋特有のこの圧迫感。私は案外嫌いじゃなかったりする。ある意味快適というか、落ち着くのよね。


「エリアスもオムライス食べていく?」


 折角なので一緒にお昼を食べたい。ただの思いつきである。

 しかし、美味しいものを共有したいというのは当たり前のこと。誰もが思うことではないだろうか。


「いえ、王女の前で食事をするなど護衛隊長として相応しくない行動です」


 エリアスはきっぱりと断ってくる。その瞳に迷いはない。

 でもこんなぐらいで諦めないわよ。


「地上界じゃ一緒に食べたじゃない。コンビニ弁当とか」

「あれは地上界だったからです。天界にいる以上、私は護衛隊長として貴女が誇れるように……」

「そういうのはもういいわ。堅苦しいのは止めてちょうだい」


 エリアスのおかしな真面目さに、ついつい笑ってしまった。私たちはそんな堅苦しい関係ではない。それなのに彼は色々と意識しすぎだわ。


「ヴァネッサ! オムライス、エリアスの分も作ってくれる?」


 私は流し台で調理しているヴァネッサにお願いする。

 心なく断られるものと予想していたが、彼女は思いの外すんなり承知してくれた。珍しいこともあるものだ。


 エリアスに椅子に座るよう促し、二人で座ってオムライスの完成を待った。


 思えば、天界でエリアスと一緒に食事をするのは、初めてかもしれない。

 晩餐会についてきてくれても彼は立っているだけだったし、普段の食事は私が自室で食べることが多かったのでヴァネッサしかいなかった。エリアスは基本的に扉の外で見張りだったから。


「ねぇ、エリアスはオムライス好き?」


 何げなく尋ねてみる。


 エリアスの食の好みを私はほぼ知らない。彼はあまり自分の私生活について話さないから。

 護衛隊長だから個人的なことは話す必要がないと思っているのだろうが、私としてはもっといろんなことを知りたい。好きなこととか、嫌いなこととか。


「はい。好きです」


 エリアスは頬を緩め、落ち着いた声で答えた。


「あのね、エリアス。私……もっと貴方のことを知りたいの」


 勇気を出して打ち明けてみる。彼のことだ、きっと理解してくれるはず。


「だから話を聞かせて。エリアスの好き嫌いのこととか……色々と話してくれない?」


 王女と護衛隊長、始まりはそれだけの関係だった。けれど今は一人の大切な相手として彼を知りたいと思う。空を掴むような関係ではなく、もっと実体のある親しさを手に入れたいの。


「私のことをですか? 関心を持っていただけるのはありがたいことですが……何を話せばよいものか分かりません」

「面白かった話とか、楽しかった思い出とか。何かない?」


 エリアスは考えるように黙り、しばらくしてから口を開く。


「申し訳ありません。実は雑談などは得意でないのです。というのも、私には友と呼べる者がいなかったので」


 確かに完璧な者ほど友が少ないものだとは言うが。

 あれ? その理論だと私は完璧じゃないのね……知っていたけれど。


「お待たせしました」


 ヴァネッサが二つのオムライスを運んできてくれる。湯気がたっていて、美味しそうな匂いが漂う。


「いただきます!」


 私とエリアスは同時に手を合わせ、早速オムライスを食べ始める。



 それから二十分くらい経過した時、扉を誰かが強くノックした。ヴァネッサが速やかに開けに向かう。

 扉の外にいたのはツヴァイ。慌てた様子だ。


「悪魔来たっすよ!」


 空気が一気に凍りつく。

 ヴァネッサもエリアスも緊張した表情になる。


「どのくらいの規模だ」


 既にオムライスを完食していたエリアスは、椅子から立ち上がりツヴァイに尋ねる。


「雑魚が千ぐらいっす。あれだけなら親衛隊がすぐ片付けるっすよ」

「雑魚だけか?」

「今のところはそうっすね」


 ——来てしまった。この時が。


 私は恐ろしくて身震いする。それに気がついたのかエリアスは言う。


「大丈夫です、王女。天界でならば我々の方が有利ですから」


 そして柔らかく微笑む。


 ……そうよ、びくびくしていては駄目よね。今はみんないる。恐れることはないわ。

 私はそう考えて自分を励ますのだった。

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