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エンジェリカの王女  作者: 四季
〜 第二章 地上界への旅 〜

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74話 「王妃カルチェレイナ」

「カルチェレイナ、貴女の狙いは何なの? 私をどう利用しようとしているの?」


 彼女が私の力を必要としていることは知っている。四魔将たちから聞いていたからだ。だが、今までその理由を聞いたことはなかった。


 だから本人に改めて尋ねた。

 余裕のこの状況でならカルチェレイナも少しは話すだろう、と思ったから。


「あたしの目的を知りたいの? ……いいわ。教えてあげる」


 カルチェレイナは微かに口角を上げ、余裕を感じさせる笑みを浮かべると、ゆっくりと話し出す。


「あたしはね、四百年前、この魔界の王妃だったの。王である夫と二人の子ども、素敵な生活を送っていたわ」


 彼女が話している間は、ヴィッタもルッツも黙っていた。

 一言も話さないどころか、まるで彫像のように聞き入っている。


「恵まれていないこの魔界の民を救うべく、夫は立ち上がったの。富を独り占めして他に分け与えない天使たちを倒し、資源を分けてもらうことにしたわ。そして戦争が始まった……」


 どうして戦争になってしまったの。武力衝突を避けて穏便に解決する道だってあったのではないだろうか。


「天界へ戦いに行った夫と子どもたちは天使に殺されてしまった。あたしは一人になって絶望したわ。けれど、いつまでも泣いていてはならないと気がついたの」


 彼女は女優のようだった。大袈裟な身振り、物語の語り手のような口調。しかしその瞳に宿るものは憎しみの黒い光だ。


 私は隙をみて檻の中にいるエリアスを一瞥する。彼はカルチェレイナの話を聞きながら怪訝な顔をしていた。


「そして行き着いたのが、エンジェリカの王女の存在だった。王女でありながら勇ましく前線に立つ武人」


 彼女が言っているのはあの黒い女のことだとすぐに分かった。四百年前、エンジェリカの王女。その情報だけで分かる。


「あたしは最初、この手でその女を殺そうと思った。あたしたちの幸せを奪った天使たちへの報復として。けれど、王女は既に処刑されていた……」


 まるで舞台を観ているかのような不思議な感覚。カルチェレイナの語りには、作り物のようでありながら自然と引き込まれるものがある。


「あたしのこの悲しみを、絶望を、どうにかして天使たちに返せないものか……。四百年間、それだけを考えて生きてきた。そしてついに知ったの!」


 四百年も報復ばかり考えて生きるなんてどうかしているわ。それだけの時間があれば、新たな出会いもたくさんあったでしょうに。


「アンナ、貴女があの王女の生まれ変わりだと!」

「そんなこと誰に……」


 私だって知らなかったこと。カルチェレイナが知っているはずがない。


「ルッツよ」


 カルチェレイナは冷ややかな視線を私に浴びせる。


「貴女の母親が侍女に話しているところを聞いた。ルッツがそう言って教えてくれたのよ。ね、そうでしょ? ルッツ」


 当然私も驚いたが、それよりもエリアスが愕然としていた。自分の弟のことだ、無理もない。

 しかしそんな兄の様子になど目もくれず、ルッツは淡々とした調子で返事する。


「はい。その通りです」


 カルチェレイナはふふっと楽しそうに笑った。


「確か、アンナの母親を暗殺したのもルッツだったわね」

「暗殺!?」


 こればかりは思わず叫んでしまった。信じられないことが次々出てくる。


 彼女の発言を鵜呑みにしてはいけない、と私は自身を制する。もしかしたら動揺させるための作戦かもしれない。


「はい。その通りです」


「ふざけるな!」


 カルチェレイナに対し機械的に応えるルッツに、檻の中のエリアスが叫んだ。


「ルッツ、本当のことを言え。答え次第では……許すわけにはいかん」


 そういえばエリアスは私の母ラヴィーナと知り合いだったのよね。


「うるさいな。黙ってろよ」


 反抗期のように言い返すルッツに対しエリアスは引かない。


「答えろと言っている」

「うるさいって言ってるだろ! 黙れよ!」


 苛立ったルッツは腕を伸ばす。するとエリアスの左肩から黒と白の混ざったもやが出てきた。それを見て、苦しんでいたエリアスの姿を思い出した私は、咄嗟に言い放つ。


「ルッツ、止めて!」


 そんな言葉、彼に届くわけがないのに。


 しかし不思議なことに、エリアスは左肩を押さえこそしたが、呻き悶えはしなかった。


「……この痛みにはもう慣れた。同じ方法で二度も私を苦しめられると思うなよ」


 本当に慣れたとしたら驚きだ。我慢しているとしても、それでも凄い。以前あれだけ呻き苦しんでいた苦痛に、耐えられるようになっているのだから。


「あら、ルッツの術が平気だなんて凄いのね。さすがはアンナの護衛隊長」


 カルチェレイナはゆったりした足取りで檻へ近づいていく。そしてその美しい顔をエリアスに近づけた。


「これならどう?」


 彼女はふうっと息を吹く。すると水色に輝く蝶がフワリと現れた。蝶はヒラヒラ飛んで、エリアスの肩に止まる。途端にエリアスの体から力が抜けた。


「……これは」


 急激な脱力感に襲われたらしいエリアスは、怪訝な顔をしながらカルチェレイナを見る。それに対してカルチェレイナはニコッと微笑む。


「命に別状はないわ、少し眠ってもらうだけよ。……ふふっ。素敵な夢をご覧なさいな」


 人間離れした美しい面に浮かぶ笑みはとても妖艶で、異様な不気味さを感じさせるものだった。

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