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エンジェリカの王女  作者: 四季
〜 第二章 地上界への旅 〜

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60話 「ガラス細工のような指」

「あー、もー。面倒くせぇなぁ。あの天使もやっちまえ!」


 不機嫌なヴィッタは荒々しい口調で悪魔たちに命じる。大柄な悪魔三体がクオォォォと声をあげながらエリアスに襲いかかる。


「危ない!」


 私は反射的に叫んでいた。


 次の瞬間、彼は身長よりも長い槍の一振りで悪魔を一掃し、圧倒的な力の差を見せつける。私の心配はどうやら杞憂だったようだ。


 こればかりはさすがのヴィッタも驚愕していた。


「王女、どうぞ今のうちにお逃げ下さい。この場は私にお任せを」

「貴方、体の傷は? もう治ったの?」

「問題ありません、戦えます。ノア。王女を頼む」


 するとノアは明るい表情で敬礼する。妙に楽しそうだ。


「じゃあエリアス、お願い。でもあまり無理しないでね」

「はい。後から参ります」


 ノアはジェシカを背負うと、私に手を差し出す。


「さて、行こうかー」


 私は二人と共に建物を出て、大急ぎで魔界を脱出した。空は相変わらず薄暗く、分厚い雲が浮かんでいた。



 黒い穴から出た。そこは地上界から入った時と同じ場所だった。私たちはエリアスを待つことにした。


「ジェシカ、体は痛いー?」


 唐突にノアが尋ねる。


「あたし? 大丈夫だよ。こんなぐらいどうってことないよ……えっ?」


 ノアはジェシカを思いきり抱き締めた。ジェシカは抱き締められながら困惑した顔をしている。


「……うっ。ジェシカー……」


 彼の肩は小刻みに震えている。いつもは呑気で穏やかな彼だが、今は涙を流していた。私がいるから普通に振る舞っていたが、きっと本当は凄く心配していたのだと思う。


「ノア? ちょっと、ノア? いきなりどうしたの」

「ごめん。ごめん。僕がいつまでも仕事できない落ちこぼれだからー……」


 それを聞いたジェシカはふっと笑みを浮かべ、ノアの頭を優しく撫でる。


「違うよ。ノアは昔とは違う。だって今日、助けに来てくれたじゃん」


 それでもノアは泣き止まない。首を左右に振りながら、ポロポロと涙の粒をこぼす。


「でも王女様がいなかったら助けられてないよー……」

「そんなことない。貴方が一緒に行ってくれて凄く心強かったわよ」


 私は語りかけるように本心を言った。


 実際、私一人では彼女を助けられなかっただろうし、そもそも助けに行く勇気が出なかったと思う。

 二人だからできたの。


「ほら。王女様もああ言ってくれてるし、もう泣かなくていいって」


 ジェシカはらしくなく優しく慰めている。

 二人の様子を眺めていると、私は少し羨ましくなった。こんな風に強い絆で結ばれている相手が私にもいれば、と思った。



 抱き締めあう二人を眺めながらそんなことを考えていると、すぐ傍の黒い穴からエリアスが姿を現した。彼のまとう白い衣装は傷一つついておらず、まるで仕立てたばかりのよう。戦闘の後とは思えないぐらい整っている。


「王女、ご無事でしたか」


 エリアスはスタスタ歩きこちらへ近寄ってくる。


 ——とても懐かしい顔。当分会えないと思っていた彼がこんなに近くにいる。実に不思議な感覚だ。


「遅くなってしまい申し訳ありませんでした」

「……エリアス」


 たくさん話したいと思っていたはずなのに、いざ再会すると言葉が見つからない。何から話せばいいか分からなくなる。


「王女?」


 私が言葉を詰まらせているのを疑問に思ったのか、エリアスは眉を寄せる。


「……体は? もう治ったの?」


 すると彼は優しそうな微笑みを浮かべる。


「はい。この短時間ではさすがに完治とはいきませんでしたが、ほぼ元通り動けます」


 良かった。

 安心すると自然に頬が緩む。


「そっか、わざわざ来てくれてありがとう。エリアスは今から天界へかえ……」

「あーー!」


 ノアが突然叫ぶ。驚いてそちらを向く。

 どうやら、彼が抱き締めていたジェシカが急に気を失ったようだ。


「隊長ー……」


 男らしくなく涙目になっている。エリアスは呆れて溜め息を漏らした。


「ノア、ジェシカを家まで運べるか。寝かせてすぐに手当てをする」


 ノアはジェシカを一生懸命抱えて歩き出す。それに続いて私とエリアスも足を進める。


「お医者さんに診てもらう?」


 私が口を開き尋ねると、エリアスは首を横に振る。


「いえ、地上界の病院は人間用なので行けません」

「そんな……」

「軽く手当てすれば大丈夫です。私でも回復したのですから、ジェシカならすぐによくなるでしょう。若いですから」


 若い、とはおかしな言い方をするものだ。


「エリアスも若いじゃない」


 すると彼は苦笑する。


「私はそれほど若くありませんよ。貴女のお母様とも知り合いだったくらいの年ですから」


 王妃だった母は若いうちに私を生み、それから数年して亡くなった。だからあまり多くの思い出はない。はっきり覚えているのは……今は壊れてしまったあの赤いブローチ、あれを貰ったことぐらいだろうか。


「エリアスは私の母を知っているの?」


 歩きながら私は彼に尋ねた。


「はい。存じ上げておりますが、ほんの少しだけです」


「直接話したことはある?」


 それを聞くと彼は少しだけ黙った。何か考えているようだったが、しばらくして答える。


「……少しだけならあります」

「どんな天使だった?」

「貴女によく似た方でした」

「どこが似てた?」


 するとエリアスはいきなり私の手をとり指に触れる。


「ここです。華奢で繊細なこの……ガラス細工のような指」

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