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エンジェリカの王女  作者: 四季
〜 第二章 地上界への旅 〜

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53話 「おつかい、そして出会い」

 久しぶりの晴れ! ということで、私は今日、初めてのおつかいに行くことになった。これも社会勉強の一つ。ジェシカからお金と買う物リストを受け取りいざ出発!


 ……大丈夫かな。


 一人で外を出歩くなんて初めての経験。でも不安ではない。それどころかウキウキする。

 あっという間にショッピングモールに着き、私は指定のお店へ向かった。


「以上で八四○円になります」


 レジへ行くとそう言われる。最大の難関、お会計だ。小銭を数える。百円が八、十円が……とその時、おかしなことに気づく。十円玉が一つ足りない。

 どうしよう……。


「これでお願いします」


 困っていた私の横から一人の女性が紙を出す。どうすべきか迷っているうちに会計は終了し、買い物が済んでしまった。


「あ、あの……払ってもらってすみません。お返しします。あ、でも十円足りないけど……」


 艶のある水色の髪が印象的な女性だった。しかも、近くで見るとかなりの美人である。地上界にもこんな華やかな人がいるんだ、と感心する。


「お金は結構よ。それにしてもお嬢さん、もしかしておつかい? 偉いわね」


 美しい顔が柔らかく微笑む。髪からはフワリとよい香りが漂っている。


「時間はある? もしよければ、少しお茶でもしない?」


 突然誘われ困る。今日はおつかいで来たのに。


「あ……ごめんなさい。私、お金あまり持ってなくて……」


 断ろうとすると、女性は私の手を握った。


「心配しなくても奢るわよ。クレープとか好き?」

「クレープ……って」

「甘いものよ。お嬢さん、クレープを食べたことないの?」


 私が頷くと、彼女は私の手を握ったまま引っ張る。


「クレープを食べたことがないなんて人生損してるわ! 早速食べに行きましょう」


 楽しそうに笑って言ってきたので、私は誘いに乗ることにした。いや、正しくは流れに乗っただけか。



「自己紹介がまだだったわね。あたしは麗奈。神木麗奈っていうの。貴女は?」


 結局彼女にクレープを買ってもらってしまった。彼女はチョコバナナクレープ、私はイチゴクレープ。


「アンナです」

「ふふっ。名前、似てるわね」


 店の近くのベンチに座ってクレープを食べながら話をする。麗奈はチョコバナナクレープを上手に食べているが、食べ慣れていない私にはなかなか難しい。こぼしそうだ。


「麗奈さんは近くにお住みなんですか?」


 話題がないので適当に尋ねてみる。


「待って、麗奈で構わないわ。麗奈と呼んでもらえる?」

「呼び捨てですか?」


 初対面で呼び捨てを希望するなど不思議で仕方ない。


「その方が好きなの。あたしも貴女のことアンナって呼ぶ。だから麗奈にしてちょうだい」

「分かりました」


 気がつくと麗奈はチョコバナナクレープを完食していた。私はまだ半分も食べていないのに。


「それで……質問はどこに住んでいるかだったわね。アンナはどこに住んでいるの?」

「バスですぐの辺りです」

「生まれも育ちも三重坂?」


 ……おかしい。なんだかんだで私ばかり答えさせられている気がする。


「いえ。エンジェ」

「エンジェリカ?」


 黄色に輝く瞳が一瞬私を睨んだような気がして戦慄する。


「ち、違います!」


 私は慌てて否定した。こんなに慌てていたら怪しすぎるのに。しかし彼女は笑顔に戻る。


「……そうよね、そんなはずがない。ごめんなさい、アンナ。気にしないで」


 本当に不思議な人だと思った。人間離れした水色の髪、黄色い瞳。


「……あたしね、夫と息子、それに娘がいたの。でもみんな死んでしまった。ねぇアンナ、貴女はエンジェリカの秘宝って聞いたことがある?」


 どうして、それを知っているのだろうか。


「知りません」


 私は咄嗟に答えた。問い詰められたら困るから。それにしても……人間にもエンジェリカの秘宝を狙っている者がいるとは、油断も隙もないわね。


「天使の国にあると言われていて、どんな願いも叶えてくれる秘宝。あたしはそれを手に入れて、いつか家族を取り戻したい。所詮ただの伝説かもしれないけれど……」


 どんな願いも叶える秘宝なんてあるわけない。それに、死んだ人を生き返らせるなんてきっと不可能だ。彼女もそれは分かっていて、それでも信じたいのだろう。願いはきっと叶う、と。


「大丈夫です。麗奈の願い、きっと叶うと思います」


 私は彼女にはっきりと言う。私だって運命を変えられた。だから、きっと彼女も望みに近づける。いつの日か願いを叶えられるはずだ。


「アンナは優しいのね。ありがとう。もしよければ……あたしと友達になってもらえないかしら」


 彼女は少し言いにくそうな表情で言った。


「もちろん! 私も麗奈と友達になりたいです! 人間の友達は初めてで……」

「人間?」


 あ。


 しかし麗奈は面白そうに笑った。


「人間って……。貴女少し変ね! でも、面白くて好きよ」


 良かった、怪しまれていないようだ。私は胸を撫で下ろす。


「あたしもこんなに気の合う友達は貴女が初めて。これ、もしよかったら連絡して」


 麗奈が手渡してきた紙切れには何やら番号がかかれている。もしかして、電話番号かな。


「電話番号ですか?」

「えぇ。あたしの家の電話番号よ。いつでもかけてちょうだい。話しましょう。そうだ、アンナの電話番号も教えて?」


 私は口頭で麗奈に電話番号を伝えた。念のため覚えておいて良かった。


「それじゃあね。今日は楽しかったわ。また会いましょう」

「さようなら!」


 私と麗奈は別れた。本当はもう少し長く話していたかったけど、また会えるから心配ない。次会った時にまた話せばいい。それだけのことだから。

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