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エンジェリカの王女  作者: 四季
〜 第二章 地上界への旅 〜

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49話 「赤の少女ヴィッタ」

 私とノアはジェルキャンドル作りに必要なものを買うべく、ショッピングモールへ行くことにした。ショッピングモールへはバスに乗って数分らしい。それなら近いし安心だ。


 幸運なことにバスの二人席が空いていた。私とノアはそこに座り話し出す。


「ジェルキャンドル作りって、一体何を使うの?」

「そうだねー、まずはキャンドルゼリーとキャンドルの芯、それにー……」


 そんなどうでもいい会話をしながら、しばらくバスに揺られていた。


 車窓からは様々な興味深い光景が見える。整備された黒い道、そこを走る車、そしてその脇に生えている他に馴染まない木々。この街は人工的なのか自然的なのか分からない。それら二つが融合したような不思議な感じの街である。


「そうだ、ノアさん。聖気のことについて聞きたいことがあったのだけど、今聞いても構わない?」

「うん。何ー?」


 柔らかい態度で頷いてくれたので、私は躊躇せずに話を切り出せた。


「親衛隊に捕まりそうになった時にね、私が離れろって叫んだら、親衛隊員が吹き飛んだの。もしかしたら聖気の力だったのかなって思ったんだけど……ノアさんはどう思う?」

「今の話を聞く感じだと、言葉を現実にする力かなー。でも聖気でそんなことをする天使なんて聞いたことないよー」


 ……そうよね。

 私にそんな凄い力があるわけない。「私にも力があるのではないか」と僅かでも期待した私は愚かかもしれない。


「ただ、王女様は王宮を吹き飛ばすくらいの聖気を持ってるから、普通の天使にはない力を使えてもおかしくないかもしれないねー」

「私、戦う力が欲しいの」

「え?」


 いきなり言ったものだから、ノアはキョトンとした顔になる。


「これから先も悪魔に狙われるかもしれない。今まで通りの私だったら、二人に負担をかけることになるわ。それは嫌なの」

「王女様は気にしすぎだよー。僕のシールドがあるから平気平気ー。王女様は護られていればそれでいいよー」


 ……どうしてそんなにヘラヘラしているの。私は真剣に言っているのに。

 護られていればいい? 信じられない!


「嫌よ! 私は変わりたい。強くなりたいのよ!」


 ちょうどバスが停留所へ着いた。私たちが降りる停留所ではないが、カッとなっていた私は、バスから走って降りた。


「王女様!」


 背後から私を呼ぶ声が聞こえたが無視して駆け出す。


 ノアの分からず屋! 真剣な話なのにヘラヘラヘラヘラと!



 どれほど走ったのだろう。どこへ行くでもなく走り続けた私は、いつしか見知らぬ路地に迷い込んでしまっていた。その路地は建物と建物の隙間で昼なのに薄暗い。とても不気味だ。


「……迷った」


 ようやく冷静に戻った私は、孤独感を感じながら呟く。


「キャハッ! エンジェリカの王女、みーつけた!」


 突如甲高い声が聞こえて上を向く。見上げたところには少女がいた。


 血のように赤い髪はきっちり切り揃えられたロングヘアー。真っ黒でフリルがたくさんついた個性的なワンピースを着ている。体つきは子ども体形で、顔は童顔。よく見ると背中に小さなコウモリのような羽が生えている。


「貴女は……悪魔!?」


 よりによって一人でいる時に悪魔に出会うなんて。胸の鼓動が速まる、呼吸が荒れる。私は今どうするべきなのか。考えようとすればするほど混乱して考えられない。


「キャハッ! 偉い偉い、よく分かったねぇ。さっすがベルンハルトを消滅させただけはある! キャハハッ!」


 いちいち発する甲高い笑い声が気味悪い。それにしても、ベルンハルトを消滅させたのが私だと知っているなんて……一体どこから情報が漏れたのだろう。


 考えていた刹那、真っ赤な太いリボンが飛んできて、私の体に巻き付いた。ギュッと締まり動けなくなる。


「なっ、いきなり何するの!」


 私は強気に言い放つ。本当は怖くて泣きそうだったが、それを悟られるわけにはいかない。


「エンジェリカの王女ゲーーット! キャハッ! キャハハハッ」


 足をぱたぱた動かしながら、一人で大笑いしている。

 何がそんなにおかしいのやら。


「ヤーン! ヴィッタ、カルチェレイナ様に褒められるぅ! キャハッ! キャハハハッ」


 カルチェレイナ。そういえばベルンハルトもそんなことを言っていた。確か、魔界の王妃だとか……。


「貴女もカルチェレイナの命令で私を狙っているの!?」


 すると彼女は、恐るべき冷ややかな目で私を睨んだ。


「あー? 今何つった」


 次の瞬間、全身に電撃が流れる。


「あああっ!」


 全身が痺れて痛む。皮膚は焼けるように熱い。

 あまりの衝撃に私は絶叫した。


「天使の分際で、カルチェレイナ様を呼び捨てしてんじゃねぇよ!」

「う……あああっ!」


 また体に電撃が流れる。


「あ、貴女……何するの……あっ……」


 まだ全身がピリピリして、視界が歪む。こんな経験は初めてで、どうするべきか分からない。


「どーよどーよっ!? 感想聞きたい! ヴィッタに教えてっ! 痛い? 辛い? 苦しいっ!?」


 悪魔の赤髪少女・ヴィッタは、興奮で紅潮しながら尋ねてくる。狂っている。明らかに普通じゃない。


 でも……どうすれば……。駄目、体の力が抜けていく……。地上界へ来ても悪魔に狙われる運命は変わらなかった……。


「王女様!」


 諦めかけた私の耳にノアの声が飛び込んできた。驚いて目を開ける。地面にいたのは確かにノアだった。


「あー? 何だ何だ?」


 ヴィッタは眉を寄せ口角を下げて言う。


「ノアさんっ!」


 私は叫ぶ。助かる望みが生まれた。


「あー? 何だテメェ。……もしかして、天使の仲間か?」

「悪いけど話す時間はないんだー。さて、それじゃあ」


 ノアの背に二本の翼が生える。それなりに立派な羽だ。


「……王女様を返してもらうよー」


 小さく言ってから、ノアは大地を強く蹴った。

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